2026年9月18日業界動向

9月前半のM&A動向 ― 売上5,000万円のWeb制作会社、赤字の老人ホーム、創業100年の旅館が売れた

2026年8月31日から9月17日までに公表された国内M&Aのうち、中小企業のオーナーが譲渡側になった案件を拾いました。売上4,800万円のWeb制作会社を上場企業が買った例、営業赤字の老人ホームや牧場が純資産を理由に売れた例、福祉用具や飲食店を事業ごと切り出した例、人材派遣・SESの再編が続いている状況を、公表された数字とともにまとめます。

9月前半のM&A動向 ― 売上5,000万円のWeb制作会社、赤字の老人ホーム、創業100年の旅館が売れた

2026年8月31日から9月17日までの約3週間に、上場企業が公表した国内M&Aのなかから、譲渡側が中小企業のオーナーである案件を拾いました。大型のTOBや海外案件は除いています。数字はすべて買い手の開示資料に基づくものです。

小さくても、上場企業が買う

売上規模が数千万円の会社が上場企業に買われた例が複数ありました。

公表日 譲渡側 事業 売上高 営業利益 買い手
9/11 アストラザスタジオ(東京・渋谷) Webサイトの企画・制作・運用 4,800万円 100万円 クレスコ(ITサービス)
9/14 どうぶつのもり(茨城・守谷) 動物病院 5,820万円(8ヶ月) 2,710万円 犬猫生活(動物病院・ペットフード)
9/2 倖生工業(千葉) 業務用焼物調理機器の製造 2億3,700万円 9,100万円 ヨシムラ・フード・ホールディングス

アストラザスタジオは売上4,800万円、営業利益100万円、純資産1,100万円です。利益はほぼ出ていませんが、買い手は「相互の技術・顧客網を活用した案件機会の創出」を理由に挙げています。買い手が欲しかったのは利益ではなく、制作チームと顧客との接点です。この規模のWeb制作会社の社長で「うちは売れるような会社ではない」と考えている方は多いはずですが、買い手側の見方は違います。

どうぶつのもりは8ヶ月で営業利益2,710万円、純資産7,310万円。動物病院の運営ノウハウと首都圏近郊の拠点を、ペットフードを扱う会社が買いました。倖生工業はセラミック製人工炭のグリラーが主力で、売上の2〜3割が海外向け。営業利益率が38%あり、こちらは利益そのものが評価された例です。

小規模でも買い手が付くのは、買い手が「自社に無いもの」を持っている会社です。何が評価されるかは業種で違い、IT・システム開発会社の相場、買い手が見つからない会社の特徴で整理しています。

赤字でも売れた2件

営業赤字の会社が子会社化された例が2件ありました。どちらも純資産が厚い会社です。

公表日 譲渡側 事業 売上高 営業利益 純資産 買い手
9/4 IDAシステム(茨城・笠間) 介護付き有料老人ホーム 2億3,800万円 △441万円 2億300万円 SCAT
9/16 市川牧場(北海道・美深) 酪農 2億6,300万円 △1,160万円 1億6,900万円 フジタコーポレーション

IDAシステムは老人ホーム1施設の運営会社で、買い手は美容サロン向けシステムと介護事業を手がけるSCATです。市川牧場は農地所有適格法人で、ミスタードーナツなどのフランチャイジーであるフジタコーポレーションが道産食材の調達先として買いました。

赤字の会社が売れないわけではありません。純資産があり、買い手にとって使い道のある施設や許認可や供給網を持っていれば、話は成立します。逆に、赤字で純資産も薄い会社は難しい。8月31日には、営業赤字2,020万円・純資産475万円のバイオ燃料会社が親会社から譲渡されていますが、こちらは親会社側の「選択と集中」であり、譲渡条件は開示されていません。

介護施設の売却については介護事業のM&A売却相場にまとめています。

会社ごとではなく、事業だけを切り出した例

会社全体ではなく、一部の事業を事業譲渡で売った案件が目立ちました。

  • 9/7 トーカイ(病院リネン・シルバー事業)が、介護事業者K-WORKER(東京)から福祉用具レンタル・販売事業を取得。対象事業の売上高は1億4,100万円
  • 9/7 同じくトーカイが、荒木マリーン(熊本)から福祉用具レンタル・販売の全事業を取得。売上高1億8,500万円
  • 9/15 飲食の海帆が「しんぱち食堂浅草店」1店舗をリレイトに譲渡。売上高1億400万円。海帆側は有利子負債の返済と投資資金の確保が目的
  • 9/10 IT・アルファー(大阪)がSES事業をエクストリームに譲渡
  • 9/17 USEN WORKINGが介護職・看護師向けスポットワーク「Ucare」事業をメドレーに譲渡

トーカイの2件は、福祉用具のレンタル・販売という同じ事業を、東京と熊本の2社から続けて買っています。買い手が特定の事業を集めている時期には、その事業を持つ会社に声がかかりやすい。K-WORKERは介護事業者で、福祉用具部門だけを切り出して残りは続けています。

事業譲渡は、会社に残したい部分がある場合や、買い手が負債や許認可を引き継ぎたくない場合に選ばれます。ただし売り手側の税負担は株式譲渡と大きく違います。株式譲渡と事業譲渡の違いを先に読んでおいてください。

人材業界の再編が続く

人材派遣・人材紹介・SESの案件は、この期間だけで6件ありました。

  • 8/31 UTグループが、日系ブラジル人材中心の製造業向け派遣トゥエンティファーストを子会社化
  • 9/9 東京エネシス(発電所工事)が、原子力発電所向け技術者派遣の扶桑(茨城・東海村)を子会社化
  • 9/10 エクストリームがIT・アルファーのSES事業を取得
  • 9/10 SOLIZE HoldingsがSESのエンジョイ(東京・台東)を取得
  • 9/17 ビースタイルホールディングス(しゅふJOB)が採用代行のHRアソシエを子会社化
  • 9/17 メドレーがUSEN WORKINGから「Ucare」事業を取得

買い手は人材大手だけではありません。東京エネシスのように、発注側の事業会社が「人が確保できないなら派遣会社ごと買う」という判断をしている例が出ています。扶桑は原子力発電所の工事・放射線管理という特殊分野の技術者に特化した会社で、買い手が自前で作るには時間がかかる領域です。

人材業のM&Aで何が見られるかは、人材派遣・人材紹介会社の売却相場に書いたとおりです。特定分野への特化と、稼働している技術者の数が価格を決めます。

創業100年の旅館、地方の建設資材会社

  • 9/11 青森県大鰐温泉で1926年創業の「不二やホテル」を運営するフジコーポレーションを、旅館再生を手がけるリアルクオリティが子会社化
  • 9/17 溶接金網・鉄筋・断熱材の販売と工事請負のテクノ(埼玉・入間)を、建設資材メーカーのトーアミが子会社化
  • 9/4 建設現場向けユニットハウス・仮設トイレのレンタルを手がける高崎事務器(群馬)を、建機レンタル大手カナモトが子会社化
  • 9/14 し尿処理施設向け特殊ポンプの販売・保守ナンヨートレイディング(東京)を、搬送機器メーカーJRCが子会社化

不二やホテルの買い手は、旅館の再生事業を専門にしている上場企業です。老舗旅館は後継者不在で廃業するケースが多い業種ですが、施設と立地と屋号に価値があれば、再生専門の買い手が付きます。地方の資材販売や設備保守のように、地域の顧客基盤と保守契約を持つ会社が、同業や隣接業種のメーカーに買われる例も継続的に出ています。

買い手が売り手に戻った例、経営陣に譲った例

一般的な「会社を売る」とは違う形の譲渡も2件ありました。

  • 9/2 オールアバウトは、2025年5月に子会社化した銀行代理業みらいバンクを、株式の取得元だったMILIZEに買い戻しの提案を受けて譲渡。買収から1年4ヶ月で元の株主に戻った
  • 8/31 REVOLUTIONは、内部統制の不備や行政処分が発生していたクラウドファンディング子会社WeCapitalを、自社取締役に譲渡

上場企業に売った後でも、シナジーが出なければ短期間で手放されることがあります。譲渡契約に買い戻しの取り決めを入れておく発想は、売り手側にもあってよいものです。

この期間に見えたこと

売上5,000万円でも、赤字でも、1店舗でも、買い手の側に理由があれば売れています。一方で、買い手が公表する数字を見ると、評価されているのは利益より「純資産」「特化分野の人材」「顧客基盤」「施設や許認可」です。

自社が同じ条件に当てはまるかどうかは、決算書3期分と、買い手が欲しがりそうなものの棚卸しから始まります。譲渡側が最初にやるべき準備を参考にしてください。

出典:各社の適時開示・プレスリリース(M&A Online「M&A速報」経由で確認)