2026年10月2日業界動向

9月後半のM&A動向 ― 従業員に売った会社、再生手続き中に売れた会社、ガソリンスタンドを買った鉄道会社

2026年9月18日から10月1日までに公表された国内M&Aから、譲渡側が中小企業のオーナーだった案件を拾いました。不動産子会社を従業員へ譲渡した例、民事再生の手続き中にスポンサーが付いた例が2件、ガソリンスタンドや自動車整備や酒蔵といった地場の会社が異業種に買われた例、SES・IT人材の買収が5件。公表された数字とあわせて整理します。

9月後半のM&A動向 ― 従業員に売った会社、再生手続き中に売れた会社、ガソリンスタンドを買った鉄道会社

2026年9月18日から10月1日までの2週間に公表された国内M&Aのうち、譲渡側が中小企業だった案件を拾いました。大型のTOBと海外案件は除いています。数字はすべて買い手の開示資料に基づくものです。

前回(9月前半)の動向と比べて目立ったのは、追い込まれた状態からの譲渡でも相手が見つかっていることと、異業種の買い手が地場の会社を買っていることです。

再生手続きの最中に、スポンサーが付いた

法的整理に入ってから買い手が決まった案件が2件ありました。

  • 9/18 民事再生手続き中のトーシン(滋賀県甲賀市)と関連会社レコの事業を、廃棄物処理大手の大栄環境が取得。プラスチックのリサイクル業で、買い手は自社のPP・PEリサイクル体制の強化が目的
  • 9/24 民事再生手続き中のMAKE VALUE(東京)から、オーダーカーテン販売「カーテンファクトリー」事業をアスリナが取得

前回も、会社更生手続き中のアパレル企画販売会社にシステム開発会社がスポンサーとして入る例がありました。経営が行き詰まってからでも、事業そのものに価値があれば引き受け手は現れます。

ただし、この形は条件を選べません。裁判所の手続きの中で、スポンサーを公募して決める流れになります。オーナーの手元に残るものも、通常の譲渡とは別物です。同じ事業が、傷む前なら「買収」、傷んだ後なら「スポンサー選定」になるということです(会社売却のタイミング、会社を「たたむ」と「売る」の比較)。

従業員に売る、という選択肢

9月29日、RVH(医療機器向けLSI開発)が、不動産売買の子会社レブラスを従業員に譲渡しています。

対象会社の数字は、売上高6,320万円、営業利益184万円、純資産546万円(2026年3月期)。決して大きくはありません。それでも、買い手を外に探すのではなく、中にいる人に引き継ぐ形が選ばれました。

前回も、親会社が子会社を自社の取締役に譲渡した例、ベトナムの子会社を現地の取締役に譲渡した例がありました。この規模なら、第三者に売るより、知っている人に渡すほうが早いという判断が働きます。

後継者不在で悩んでいる方にとっても、これは現実的な選択肢です。社内の幹部が買い取る形(MBO・EBO)は、相手を探す手間がなく、取引先や従業員への説明も要りません。資金をどう手当てするかが論点になりますが、金額が数千万円規模なら道はあります(事業承継の4つの選択肢)。

異業種が、地場の会社を買っている

今回とくに目立ったのが、まったく違う業種の会社が、地域に根ざした小さな会社を買っている例です。

公表日 譲渡側 事業 買い手 買い手の本業
9/24 千葉日石(千葉県船橋市) 石油製品販売・ガソリンスタンド・自動車整備 京成電鉄 鉄道
9/24 花春酒造(福島県会津若松市) 酒類の製造・販売 幸楽苑 ラーメン店
9/29 増田工業(大阪市) ダクト・空調設備工事 橋本総業ホールディングス 住宅設備機器商社
9/29 福興商会(東京都墨田区) 自動車整備 東部ネットワーク 貨物輸送
10/1 癒しの森(東京都葛飾区) 訪問介護・通所介護 インターネットインフィニティー デイサービス運営

京成電鉄がガソリンスタンドを買う理由は、燃料の安定確保と沿線住民向けサービスです。幸楽苑が酒蔵を買う理由は、駅前店舗への出店を進めるにあたって酒類の商品戦略を強化するためです。橋本総業は、商品を売る商社から、工事までできる体制へ広げようとしています。

買い手は同業とは限りません。自社の業種で買い手を探して見つからなくても、「自社が持っているもの(許認可・設備・職人・地域の顧客)を欲しがっている別の業種」がいる可能性があります(買い手が見つからない会社の特徴)。

IT人材の買収が、今回も5件

エンジニアを抱える会社の買収は、前回に続いて途切れません。

  • 9/24 アクシスが、ITインフラ導入・保守のWork Prime Contract(東京)を子会社化。エンジニア増強が目的
  • 9/25 KYCOMホールディングスが、ソフト開発のユニオン情報企画(東京)を子会社化。「外部委託への依存を抑えて技術や経験の社内蓄積を目指す」
  • 9/25 バルテス・ホールディングスが、SESのオプティム(東京)を子会社化
  • 9/29 CIJが、システム開発のトレンドアート(名古屋)を子会社化
  • 9/29 fonfunが、SES・派遣のICS(東京)を子会社化。ICSは売上高7億9,500万円、営業利益2,930万円、純資産1億9,400万円(2026年8月期見込み)

ICSの営業利益率は約3.7%です。SESは利益率が高い業種ではありませんが、それでも買われています。買い手が欲しいのは利益ではなく、稼働しているエンジニアだからです(IT・システム開発会社の売却相場、人材派遣・人材紹介会社の売却相場)。

大手は、事業を切り出している

一方で、上場企業が事業や子会社を手放す動きも続いています。

  • 9/28 アンビスホールディングスが、医療施設型ホスピス「医心館」の西日本エリア47施設を投資ファンド傘下へ譲渡。対象事業の売上高は115億円
  • 9/28 SBSホールディングスが、三菱ケミカル物流を子会社化。売上高803億円、営業利益7億900万円、純資産94億7,000万円(2026年3月期)
  • 10/1 ニデックが、電子部品子会社のニデックコンポーネンツをカーライル・グループへ譲渡
  • 10/1 パン・パシフィック・インターナショナルHDが、日本トイザらスから玩具・子供用品販売事業を取得

アンビスは「経営資源を首都圏・東日本に集中させる」、ニデックは「重点成長領域への集中」と説明しています。大手でも、全部は抱えきれないという整理が進んでいます。切り出された事業の受け皿は、投資ファンドか、その領域を本業とする会社です。

このほか、調剤薬局のメディカル一光グループが京都市内で3店舗を展開するひまわり薬局を子会社化しています(9/25)。薬局は地域内での集中出店が効く業種です(調剤薬局・クリニックの売却相場)。

仲介会社自身も買っている

9月18日、日本M&Aセンターホールディングスが、AI導入支援のAIブレインパートナーズ(東京)を子会社化しました。目的は「M&Aの案件受託から成約までの生産性向上」です。

売り手の社長にとって直接の関係はありませんが、仲介会社が1人あたりの処理件数を増やそうとしているという事実は、知っておいて損がありません。担当者が同時に何件を抱えているかは、面談で確認しておく項目です(M&A仲介会社の選び方)。

この2週間で見えたこと

追い込まれてからでも買い手は付きます。ただし条件は選べません。従業員に渡す道もあります。買い手は同業とは限らず、鉄道会社がガソリンスタンドを、ラーメン店が酒蔵を買っています。

自社を欲しがる相手がどこにいるかは、自社の業種の外にあることがあります。何を持っているかの棚卸しから始めてください(譲渡側が最初にやるべき準備)。

出典:各社の適時開示・プレスリリース(M&A Online「M&A速報」経由で確認)