2026年10月29日業界動向

10月後半のM&A動向 ― 売上107万円のサイトが1,000万円、赤字の事業が2億円、1年足らずで会長に戻った会社

2026年10月18日から28日までに、買い手名鑑に載っている会社が出した適時開示から5件を拾いました。売上107万円のWEBメディアが1,000万円で売れた例、事業利益△2億円の部門が2億円で売れた例、子会社化から約11か月で創業者に買い戻された例、調剤薬局4店舗とアイドルグループの事業譲受。開示された数字のまま整理します。

10月後半のM&A動向 ― 売上107万円のサイトが1,000万円、赤字の事業が2億円、1年足らずで会長に戻った会社

2026年10月18日から28日までに、買い手名鑑に載っている293社が出した適時開示から、中小企業や事業の売り買いにあたる5件を拾いました。資本業務提携(アズビルとオーテック、フルキャストとセイファート)とグループ内の再編(SHIFT)は除いています。数字はすべて開示資料に基づくものです。

前回(10月前半)の動向では、債務超過の会社が買われた例を取り上げました。今回目立ったのは、会社ではなく「事業」だけが売れていることと、一度売った会社が売り手に戻ったことの2つです。

売上107万円のサイトに、1,000万円が付いた

10月19日、グランピング施設の予約サイトを運営するブッキングリゾートが、WEBメディア「みんなのグランピング(みんぐら)」の事業を譲り受けると開示しました。

金額・規模
売上高(直前事業年度) 107万円
経常利益 40万円
譲渡価額 1,000万円(別にアドバイザリー費用等100万円)
規模 年間約30万セッション、記事約270本

経常利益の25倍の値段です。売り手は個人がほぼ全額を出資する合同会社で、渡したのはサイト・ドメイン・施設データベースだけ。従業員も在庫もなく、負債も引き継がれません。

値段の根拠は、いまの利益ではなく買い手の本業に直結する集客力です。「日帰りグランピング」などの検索で上位に出るサイトを、宿泊施設への送客に使う。いまは楽天トラベル等のアフィリエイト中心の収益を、自社施設への直接送客に切り替えると開示されています。持ち主が変われば稼ぎ方が変わる、という前提で値段が付いています。

会社を売らなくても、事業だけを売ることはこの規模でもできます。

事業利益△2億円の部門が、2億円で売れた

10月23日、電力・ガス比較のENECHANGEが、家庭向けの電気・ガス切替事業のうちコールセンターと代理店網の部分を、成約支援事業のポートに売ると開示しました。12月1日に受け皿の子会社へ事業を移し、同じ日にその子会社の株式を渡す段取りです。

2026年3月期 譲渡する部分 ENECHANGEに残る部分
売上 約20億円 約4億円(継続収入)
販管費 約21〜22億円 約1億円
事業利益(本社費の配賦前) 約△2億円 約3億円

譲渡価額は2億円です。直前期の実績、今後3年の見込み、買い手のデューデリジェンスの結果を踏まえて決めたと書かれています。

ここで見ておきたいのは2点です。ひとつは、赤字の部門でも、同じ仕事を得意とする相手には値段が付くこと。ポートは大規模なコールセンターの運営に知見を持つ会社で、ENECHANGEは「同社のもとで展開されることが本事業の収益性の改善と成長につながる」と判断したと書いています(営業赤字の会社は売れるのか)。

もうひとつは、売り手が稼げる部分を手元に残していることです。これまでに獲得した契約から入る継続収入(約4億円・利益約3億円)は譲渡の対象外です。全部をひとまとめに売るのではなく、切り分けて一部だけを売る形でした。

子会社になって約11か月で、会長に戻った

10月28日、金属スクラップの新都ホールディングスが、2025年11月に子会社化した栄新商事(京都府宇治市)の株式50.9%を、全部、同社の会長に売り戻すと開示しました。

金額
2025年11月の取得原価(50.9%分、株式交付時の時価) 7億2,600万円
2026年10月の売り戻し価格 4億4,800万円
別に買い手が受け入れた債権放棄 6,687万7,800円

理由は業績ではありません。開示によると、子会社になったあと、買い手が連結決算や経営管理に必要な資料を求めても提出までに時間がかかることが続いた。協議を重ねても解消が難しく、栄新商事側も独立した経営を続けたいと申し出た、という経緯です。

この開示は、売る前の社長にとって大事なことを書いています。上場企業の子会社になると、月次の数字や報告を、決まった時期に、決まった形で出すことが求められます。これまで社長の頭の中で回っていた会社ほど、ここでつまずきます。売ったあとに何が求められるかは、PMI(統合)で売り手社長が果たす役割で整理しています。

なお、栄新商事の業績は2026年3月期に売上274億円と前期の1.5倍になる一方、営業利益は2億6,300万円から5,400万円に減っています。売り戻し価格の算定は2026年6月末の財務数値を基礎にしたと書かれています。

店舗だけ、グループだけを引き取る

残りの2件も、会社ではなく事業を買う形でした。どちらも金額は非開示です(取得価額が非開示でも金額を読む方法)。

公表日 買い手 譲り受ける事業 売り手
10/19 クリエイトSDホールディングス(子会社クリエイトエス・ディー) 横浜市・横須賀市・大和市の医療モール型調剤薬局4店舗 セカンドセブン、サードセブン(代表者は同じ方)
10/28 東京通信グループ(子会社パルマ) アイドルグループ「すべての瞬間は君だった。」の事業 パスゲート(大阪市。本業は営業支援)

クリエイトSDは864店舗のドラッグストア・調剤薬局を持つ会社で、選んだ理由として処方箋を安定して受けていることを挙げています。薬局の値打ちは、店の数より処方箋の安定で決まります(調剤薬局の売却相場)。

東京通信グループは、7月のWHITE SCORPIONに続いて2件目のアイドルグループの譲受です。引き取る資産には、所属契約、原盤権、商標権、ファンクラブ会員データ、SNSアカウントの管理権限が並んでいます。芸能の事業で値が付くのは、契約と権利とファンの名簿だと分かります。売り手のパスゲートは本業が別にあり、本業から外れた事業を、その領域で数を集めている買い手に渡した形です。

この11日間で見えたこと

売れたのは会社ではなく事業でした。サイトひとつ、店舗4つ、アイドルグループひとつ、コールセンターの部門ひとつ。会社全体が売れる状態になくても、切り出せる事業には買い手がいます。売上107万円のサイトにも、赤字の部門にも値段が付いています。

一方で、売ったあとに戻ってきた会社もありました。値段が付くかどうかとは別に、買い手のやり方で報告できるかどうかが、売ったあとの関係を決めます。

出典:各社の適時開示