【親会社と子会社を、別々に売った】買い手が違えば分けたほうが高い ― IPO準備をM&Aに切り替えた判断 ロータス・ワイズ・グループ 蓮見智威氏
- 業種
- Webプロモーション(親会社)/EC(子会社)
- 年商
- ピーク時 売上30億円 → リーマンで半減 → ECで回復
- 譲渡形態
- 株式譲渡(親会社と子会社を別の買い手へ、時期もずらして)
- 譲渡価格
- 非公開(最大の案件は18億円)
- 所要期間
- 約6ヶ月

蓮見智威さんは、親会社と子会社を別々の買い手に、時期もずらして売却しました。まとめて売るのが一般的なところを、あえて分けています。
ECの会社は、むしろECに興味を持っている会社に買ってくれと
理由は単純で、そのほうが高くなるからです。IPO準備を途中でM&Aに切り替えた判断と、外部株主の反対をどう越えたのかを伺いました。
経歴 ―― 36歳での独立
蓮見さんは早稲田大学を卒業後、電通に入社し約14年在籍しました。学生時代にもイベント会社を起こしていましたが、当時は学生ベンチャーが少なく、親の反対もあって一度就職を選んでいます。
転機は、周囲の上場ラッシュでした。広告代理店は交友関係が広く、なかでもベンチャー企業の社長を多く知っていた。その人たちが次々と上場していきます。
それを見てるうちに、自分は一体何やってんだろうみたいな感じになって
36歳で退職し、Webを中心としたプロモーション会社(株式会社モードツー)を創業しました。
その後の推移は起伏に富んでいます。
| ピーク時売上 | 約30億円 |
| リーマンショック後 | 半減 |
| 新規事業(EC) | 立ち上げて急成長し、元の水準へ回復 |
構造は、親会社がWebプロモーション、子会社がECという形でした。
IPOをやめた2つの理由
蓮見さんは本気で上場を目指しており、相応のコストも投じていました。しかし2つの事情で方針が変わります。
組織の作り替えが必要になったこと。 この事業のどこをドメインにして上場するのか、が問題になりました。証券会社からは「座組みを変えたほうがいい」「ECで行くならECで上場したほうがいい」と指摘されます。
ところが、それには代償がありました。
組織改編するとIPO基準の(直前・直々前期の)3年をまた1からやり直しになってしまう
年齢。 当時49歳でした。もともとは30代での上場を思い描いていたのが、40を越えている。
さすがに50代になってからのIPOはしんどいな
組織を作り替える必要と自分の年齢、この2つが重なってM&Aによる売却を考え始めます。
IPOは「いつまでに」を自分で決められません。 制度上の準備期間が必要で、事業構成を変えればカウントがやり直しになる。時間が有限であることが、M&Aを選ぶ理由になりえます(事業承継の4つの選択肢)。
VCは賛成、CVCは反対した
株主構成は、創業者の持分が当初20%程度、最終的には50%超でした。役員間の合意形成に問題はありません。分かれたのは外部株主です。
VC(ベンチャーキャピタル)はすんなり賛成しました。 理由は明快で、ファンドには償還期限があり、蓮見さんのケースではそれをすでに過ぎていたためです。むしろ売却に前向きでした。
CVC(事業会社の投資部門)は強く反対しました。
かなり売却には反対された
理由は2つです。もともとIPOを目指していたのだからIPOしてほしいということ。そしてCVCは事業シナジーを目的に投資するため、その中心にいる代表者がいなくなることを問題視しました。
蓮見さん自身の意思は、はっきりしていました。
僕はもう、売るのであれば自分はもう辞めるという覚悟というか、そのつもりで売却を考えていました
吉岡諒氏(ウィルゲート専務取締役COO)が、VCが一般にIPOを望む構造を説明しています。VCのビジネスモデルは「ヒットよりホームラン」です。1億円を30社に出し、29社が失敗しても1社が100倍で返ってくれば成立する。
出した1億円がちょっと高くなって2億円で帰ってきて「よっしゃ」というVCは、あんまりいない
あわせて優先株の論点も添えられました。優先株を持つVCには自分より優先して分配が行きます。VCが気にするのは、出資時のバリュエーションと売却時のバリュエーションの関係です。損をする形だと当然反対されます。
「調達した相手の目的」が、出口の自由度を決めます。 1人株主で100%なら意思決定は楽ですが、上場準備をしていると外部株主が複数いるため、調整の難易度が上がります(手取りシミュレーション)。
本題 ―― 親と子を、別々に売った
もっとも実務的な部分です。
一般的なM&Aはグループごと丸ごと売ります。蓮見さんはそうしませんでした。ECの会社はECに関心のある買い手へ、Webマーケティングもそこに関心のある買い手へ。結果、1回のM&Aに見えて実際には2社を別々に、しかも時期をずらして譲渡しています。
仲介も別々でした。
| 対象 | 仲介 |
|---|---|
| 子会社(EC) | M&A仲介会社(専属にせず2社を併用) |
| 親会社(Webプロモーション) | みずほ銀行(長年の取引金融機関) |
買い手の関心が異なる事業を持っている会社は、分けたほうが高くなる可能性があります。 片方にしか興味のない買い手は、もう片方を割り引いて評価するからです(株式譲渡と事業譲渡の違い、買い手が見つからない会社の特徴)。
ただし、税務の論点があります
分けて売ることにはコストも伴います。蓮見さん自身が説明していました。
親会社が子会社株式を100%持っている状態で子会社を売ると、譲渡代金は親会社に入り、そこに法人税がかかります。株主の手取りだけを考えるなら、まとめて売ったほうが有利な場合もある、ということです。
蓮見さんのケースで問題にならなかったのは、株式の保有がすべて自身の資産管理会社を通じていたからでした。もともと法人が持っているので、構造が変わらなかったのです。
個人が直接株を持っている場合と、資産管理会社を通じて持っている場合とでは、この判断の答えが変わります。 分割売却は税務スキームと一体で設計する必要があり、必ず事前に税理士と組み立ててください(会社売却でかかる税金、事業譲渡の税金は株式譲渡とどう違うか)。
IPO準備が、そのままDDの準備になった
方針転換の副産物も語られています。
上場準備をしていたため資料が揃っており、監査も受けていました。そのぶんデューデリジェンスへの対応は重くならず、資料開示はスピーディに進んでいます。
上場準備の資料は、そのままDD対応に転用できます。 IPOとM&Aを並行して検討するデュアルトラックが成立するのも、この重複があるからです(デューデリジェンスで何を見られるか)。
DMは信用していない
相手探しについては、はっきりした意見が述べられました。仲介会社からのDMは信用せず、業界内の知り合いを通じて、親身に考えてくれる人に頼む。実際、子会社側は大学の後輩がいた仲介会社、親会社側は長年取引のあった金融機関でした。
そして、周囲で見聞きした事例として警告があります。
後から契約書をもらったら、もう他のM&A会社には頼めないような契約書になってる
早く解除したくても着手金を取られる、という話でした。
専任条項と解除条件は、契約前に必ず読んでください。 塚原聡一さん(Kaiketsu)が比較せずに決めて後悔したのも、同じ場所の話です(着手金・中間金・成功報酬の確認点、M&A仲介会社の選び方)。
期間 ―― 決まるものは早い
複数の案件を経験した実感として、短いもので半年、長いもので1年という幅が語られました。そして経験則が明快です。
成立する可能性が高いものは、期間が短い
理由として挙げられたのは相性でした。買い手側も代表者が主導しているケースが多く、上場企業でもベンチャー寄りの会社には経営者の直感がある。可能性が高いと感じられた案件は、そのまま速く進む。
吉岡氏も同意しています。
お互いで優先度が高いと、予定が入っててもこの日はデートを入れるんだ、みたいな形で
ただし3ヶ月で終わるのは買い手がM&Aに慣れている場合に限られ、目安はやはり半年だという補足がありました。
進みが遅い案件を粘って進めることの価値は、高くないかもしれません。 相手の熱量は、レスポンスの速さに表れます(M&Aにかかる期間)。
その後
蓮見さんは2018年に2社をエグジットした後、ロータス・ワイズ・グループを設立しました。現在までに5社の売却、3社の買収、1社のNASDAQ上場を経験しています。
現在は、上場準備企業の経営企画室を支援するコンサルティング会社などに出資し、買収した会社をバリューアップして再び売却する、という形も手がけています。自分が実務を分かっている領域にだけ出資するという方針です。シンガポール法人のCEOを務めるほか、映画プロデューサーとしても活動しています。
この記事のポイント
- 親会社と子会社は、別々の買い手に売ったほうが高くなることがある
- 買い手の関心が違う事業を抱き合わせると、興味のない側が割り引かれる
- ただし子会社売却では親会社に法人税がかかる。税務スキームと一体で設計する
- 個人保有か資産管理会社保有かで、この判断の答えが変わる
- IPO準備は途中で頓挫しても、資料と監査がDD対応に転用できる
- 事業構成を変えるとIPOの準備期間はやり直しになる。時間が有限であることが判断材料になる
- VCは償還期限が近ければ売却に前向きになる。過ぎていればなおさら
- CVCは事業シナジー目的なので、代表者の離脱に反対しやすい
- VCの基本は「ヒットよりホームラン」。2倍で返ってきても喜ばない
- 仲介のDMは、契約書の専任条項と解除条件を必ず確認してから
- 決まる案件は早い。相手の熱量はレスポンスに表れる