【赤字の会社を5,000万円で買った】値づけの根拠は「ゼロから作る時間」― その直後に本業を十数億円で売却 リゾートワークス 柳田将司氏
- 業種
- 新卒採用マッチングイベント(売却側)/福利厚生サービス(買収側)
- 年商
- 利益1〜2億円規模
- 譲渡形態
- 株式譲渡(売却先は上場企業)/買収は仲介なし
- 譲渡価格
- 売却は十数億円/買収は5,000万円
- 所要期間
- 約6ヶ月

赤字の会社を5,000万円で買った買い手が、その値づけの根拠を明かしています。
厳密にDDすると、5,000万円はつけられないと思うんですよね。普通に0円とか1,000万とか、そういう単位だったと思うんですけど
それでも払ったのは、自分が事業を大きくすることで絶対にそれ以上の価値になる、と見えていたからでした。買い手と売り手の両方を経験した、柳田将司さんに伺いました。
2つのM&A
| 内容 | |
|---|---|
| 2022年7月 | 株式会社リゾートワークスを5,000万円で買収(仲介なし・1ヶ月半) |
| 2023年4月 | 株式会社リアライブを十数億円で売却(上場企業へ・半年) |
買収したのが先で、売却が後です。 この順番が、この記事のテーマになっています。
売却した事業 ―― 新卒採用マッチングイベント
柳田さんは新卒で採用コンサルティング会社に入社後、2012年4月に株式会社リアライブを設立しました。
入社3年後のミスマッチをなくしたいという思いが強くて
当時は就職サイト中心の就職活動で、いい中小企業がたくさんあるのに学生が知る機会がなかった。有名企業しか知らないから、そこを選ぶ。直接出会えば魅力的な企業として認知され、就職する可能性もある。中小ベンチャーの採用の切り口として、イベントを始めました。
事業は、学生と中小ベンチャー企業のマッチングイベント。1回6社×50名規模のイベントを、年間約300回、ほぼ毎日開催していました。小規模マッチングイベントでは最大手だったといいます。吉岡諒氏(ウィルゲート専務取締役COO)のウィルゲートもこのイベントで新卒採用をしており、そこから入った社員がMVPを取り、卒業後は資金調達数百億円規模のベンチャーで執行役員になっている、という話も出ました。
2023年4月、ブティックス株式会社へ譲渡しています。
買収した事業 ―― 自分がユーザーだった
先に起きたのが買収です。しかも、経緯が異例でした。社長と出会ってから買収を終えるまで1ヶ月半。そして柳田さん自身が、リゾートワークスのユーザーでした。
サービスは、上質な宿泊施設に特別価格で泊まれる会員サービス。ホテルがとても安く、いいサービスだと思って個人会員として使っていた。会社は沖縄にあり、沖縄へ行く機会に——
社長に会いたいです、ちょっと話を聞かせてください
そう言って、たまたま2人で飲んだ。そこで社長が今後の事業の方向性を悩んでいることを知り、「この事業がもし違う方向に行くなら、自分がやりたい」と直談判。沖縄にいた1週間、毎日会って「こんな感じで行こう」と話を詰めた。
吉岡氏の表現が的確でした。
熱愛中のカップルみたいな形で、毎日毎日デートして「結婚しよう」と言っちゃったみたいな
買い手は、意外なところから来ます。 自社サービスの熱心なユーザーが、買い手候補になりうる。江戸英雅さん(ひなたライフ)がSNSのフォロワー数で目立ったのと同じで、外から見える存在感が接点を作ります(買い手が見つからない会社の特徴)。
値づけの論理 ―― 「ゼロから作ったらいくらか」
ここが、この記事の核心です。対象会社は利益が出ておらず、赤字でした。それでも5,000万円がついた根拠が、明快です。
綺麗に算定するというよりも、ゼロから作ったらこれぐらいの期間、これぐらいの価格がかかるなというので算定して、時間の方を優先した
具体的な内訳も語られています。サイトの開発に1年半以上かかっていたこと。施設開拓が当時120か所弱あったこと。個人会員が数百名いたこと。
つまり、買っていたのは「利益」ではなく「時間」でした。 同じものを自分で作るなら1年半かかる。その1年半を5,000万円で買う、という計算です。
これは、利益が出ていない事業を持つ売り手にとって重要な視点です。 利益倍率では値がつかなくても、「同じものを作るのに何年かかるか」という角度なら値がつくことがあります。
なお、価格の下支えになった事情もあります。対象会社には社長のほかにVCが2社入っており、ある程度の金額でないと株主が納得しない。その辺りで折り合いをつけた形です。
外部株主がいると、価格の下限が生まれます。 蓮見智威さん(ロータス・ワイズ・グループ)のケースでは調整の難易度になりましたが、ここでは価格の押し上げに働いています。
買収のプロセスは、非常に軽かった
進め方も、参考になります。買収には仲介を入れていません。
DDは……100問もしなかったんじゃないですかね。自分から気づく点を全部Excelでやって、もちろん見ましたけど
規模と信頼関係次第で、DDはここまで軽くできます。
譲渡後、元の社長は半年間役員として残り、その後退任しています。
そして買収後、事業は大きく変わりました。個人向け(BtoC)だったサービスを、法人の福利厚生(BtoB)へ転換しています。もともとBtoBの法人営業をやっていて人材領域に明るいので、福利厚生領域なら没入すれば売れるだろう、という読みでした。PMIというより、事業をもう一度ゼロから作り直す作業だったといいます。
現在は全国180か所の施設が最大80%割引になるサービスとして展開されています。
吉岡氏の評価です。普通のM&Aは、売上・利益が出ているものを完成したビジネスモデルのまま引き継ぐ。柳田さんはBtoC向けの事業をBtoB向けに大改革して立ち上げ直し、いま絶好調に伸ばしている。
連続起業家だからなせた技。多分1回目の起業の人だと、こんなプレイは絶対できない
なぜ本業を売ったのか
買収の後に、売却を決めています。もともと売却したいと考えていたわけではなく、2社をやってみて気づいた、という順番です。理由は3つ語られています。
1つ目、2社の同時経営が重かった。 やってみて、2社やるのは大変だと強く感じた。
2つ目、成長のペースへの疑問。 リアライブはずっと伸びてはいたが、150%といった急成長ではなかった。魅力的な事業でもっと広められるチャンスがあるのに、自分が社長のままこのペースでやっていていいのか。他の会社と一緒になったほうが、より成長でき、社会のためになるのではないか。
3つ目、そして最も具体的な理由。 メンバーの給与を上げてあげたい。
言ってもベンチャー企業の利益って1億とか2億なので、賃上げするにもそんな大した金額でもない
もっと利益が出る形に変えていくにはどうしたらいいか。それが重なった時期でした。
「社員の給与を上げられない」が売却理由になるケースは、このシリーズで繰り返し出てきます。加藤明拓さん(タイガーブランディング)は自分の別事業に流していました。柳田さんの場合は、そもそも会社の規模が上限だった、という話です(譲渡後に従業員は辞めるのか)。
売却先は上場企業のブティックス。期間は半年、金額は十数億円でした。
売り手側のDDについても一言ありました。イベントの種類ごとに開催回数を過去3年分出す、といった依頼が来る。通常、社長はこうした実務を社員に任せているが、社内に開示していない段階では自分でデータを集めてまとめて出さなければならない。それを想定して動く必要がある、と。
譲渡先の「仕組み化」に学んだ
吉岡氏が、譲渡先のブティックスについて聞いています。自分が育てた事業は自分が一番よく分かっていて、自分が一番いい意思決定ができる——大きく伸ばしてきた経営者ほどそう思うが、買い手から学んだことはあったか、と。
本当にブティックスさんすごくて、1番は仕組み化がやっぱりすごいんですね
買収してPMIするときに、まずマニュアルを作って仕組み化する。そこから人数を増やす。この順番が徹底されているといいます。
寂しさもある、と柳田さんは認めています。我が子のように育てた事業を手放し、同じ業界の交流会で元の事業に出くわす。それでも、次にやることが決まっていたことが売却を後押しした。売却したかったわけではなく、リゾートワークスに情熱を注ぐ対象があったから決められた、という話でした(売却後に社長が感じるロス)。
日本のM&A比率
吉岡氏が、背景となる数字を挙げています。
海外はIPO 1に対してM&Aが9ぐらいあるんですよ……日本はIPO 7に対してM&Aが3しかない
日本はM&A後進国であり、優秀な起業家がずっと1つの事業しかやらないのは日本にとって機会損失だ。0→1ができる連続起業家は、どんどん作っては渡して、チャレンジしていってほしい、と。
ここは注意して読んでください。 この比率は出典の明示されていない概数であり、当サイトの主な読者(後継者不在の中小企業オーナー)にそのまま当てはまる話でもありません。
なお柳田さん自身は、売却後のほうが忙しくなっています。リゾートワークスはフルリモートの組織で、ホテル開拓の出張が多く、東京にいるのは月の3分の1ほど。旅行する人を増やしたいサービスの経営者として、自分自身がリゾートワークをしている、と語っていました。
この記事のポイント
- 赤字でも値がつくことがある。 根拠は「同じものをゼロから作る時間とコスト」
- 利益倍率で評価されない事業は、開発期間・開拓済みの取引先・会員数を示す
- 買い手候補は、自社サービスの熱心なユーザーである場合がある
- 外部株主(VC)の存在が、価格の下限として働くことがある
- 小規模かつ信頼関係があれば、DDは質問100問以下・仲介なしでも成立する
- 売却理由として多いのは「社員の給与を上げられない」
- ベンチャーの利益1〜2億円では、賃上げの原資として十分でない
- 「このままのペースでいいのか」という成長速度への疑問も、正当な売却理由
- 買収と売却は、同じ経営者が同時期に両方行うこともある
- 上場企業の買い手はマニュアル化→人員拡大の順で仕組み化する