従業員が辞めてしまうM&Aの共通点

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月3日
従業員が辞めてしまうM&Aの共通点

株式譲渡では、雇用契約も労働条件も会社に紐づいたまま残ります。法的には、従業員にとって何も変わりません。

それでも辞める人は出ます。そして辞め方には明確なパターンがあります。この記事では、離職を増やす要因と、防げる部分を整理します。

前提|ゼロにはできない

正直に書きます。どれだけ丁寧に進めても、「オーナーが変わるなら」と考える人は必ずいます。

とくに、社長個人との関係で働いていた人ほど離れます。「あの社長についてきた」という人にとって、社長がいなくなることは会社が変わることそのものです。

目標は「ゼロにする」ではなく、「防げる離職を防ぐ」ことです。

離職を増やす5つの要因

1. 噂で先に広まった

最も影響が大きい要因です。

社長が説明する前に「会社が売られるらしい」と伝わってしまうと、そこからの回復は困難です。

  • 情報の出所が分からないため、内容が正確に伝わらない
  • 「隠されていた」という感情が生まれる
  • 不安を抱えた期間が長くなるほど、転職活動を始める人が増える

防ぎ方:開示のタイミングを厳格に管理する。ノンネームシートの粒度、打診先リストの確認、社内で知る人の最小化(秘密保持はどこまで守られるか)。

2. 処遇の説明がない、または曖昧

従業員が知りたいのは3点です。

  • 私の雇用は続くのか
  • 給料は下がらないか
  • 社長はいなくなるのか

ここに明確に答えないまま「詳細は追って」と言われると、最悪の想像をします。

防ぎ方:株式譲渡なら法的に労働条件は維持されることを明確に伝える。ただし約束できないことを約束しない。「当面は変わりません」と言ったのに3ヶ月後に制度が変われば、信頼を失います。

基本合意の段階で、雇用と処遇の維持について買い手と取り決めておくことが前提になります(基本合意書(LOI)で決まること)。

3. 社長が急にいなくなる

引き継ぎ期間の途中で、社長の気持ちが切れてしまうケースです。

会社は自分のものではなくなり、権限もない。通っても居心地が悪い。それで足が遠のく。

しかし従業員から見れば、「社長は自分たちを置いていった」という受け止めになります。ここから離職が一気に増えます。

防ぎ方:引き継ぎ期間の勤務条件を、基本合意の段階で具体的に決めておく。「週3日、1年間」と決まっていれば、その期間は通える。曖昧なまま始めると、続きません(PMIで売り手社長が果たす役割)。

4. 制度が一気に変わる

買収直後に、人事制度、給与体系、評価制度、経費精算のルールが一斉に変わる。現場が混乱し、「前のほうがよかった」という声が広がります。

とくに反発を招くのは、説明のないまま変わることです。変更内容そのものより、「なぜ変えるのか」が伝わっていないことが問題になります。

防ぎ方:社長が翻訳役を果たす。買い手に対して「順番を考えてほしい」と意見を言う立場にあります。優先度の低い変更は後回しにしてもらう。

5. キーマンが最初に辞めた

連鎖が起きます。

技術の要、主要顧客の窓口、現場のまとめ役。その人が辞めると、周囲が「あの人が辞めるなら」と続きます。

防ぎ方:キーマンには基本合意後に個別に伝え、買い手側から直接、処遇と役割を説明してもらう。「あなたに残ってほしい」という意思が買い手から伝わるかどうかで、反応が変わります(従業員への開示タイミングと伝え方)。

離職を減らす4つの手

1. 全員に同時に、社長の口から伝える

部署ごと、役職ごとに時間差をつけると、必ず伝聞で広がります。「自分は後回しにされた」という感情は、事実以上に尾を引きます。

そして買い手の役員や仲介会社に説明させないでください。従業員が知りたいのは「なぜ社長がこの決断をしたか」です。

2. 「なぜ売ったのか」に筋の通った答えを用意する

最も刺さる質問です。ここで言葉に詰まると、どんな説明も響きません。

避けるべきは、お金の話を前面に出すことと、曖昧にごまかすこと。

後継者がいないこと、このままでは自分の代で終わってしまうこと、従業員の雇用を守る道を選んだこと。事実として本当にそうなら、そう伝えるのがいちばん強い。

3. 買い手との顔合わせを早く設定する

相手の顔が見えないまま日が過ぎると、不安だけが増幅します。買い手の経営者に来てもらい、直接話してもらう。

「どんな会社なのか」が分かるだけで、動揺は大きく減ります。

4. 社長がしばらく残る

これが最も効きます。

引き継ぎ期間があるなら、その間はこれまでどおり出社してください。「社長は変わらずいる」という事実が、いちばんの安定材料になります。

個別に話す時間を作る

全体説明の後、動揺が大きそうな人には個別に時間を取ってください。集団の場では聞けない不安があります。

「自分は必要とされているのか」「歳だから切られるのではないか」「転職を考えたほうがいいのか」。こうした問いは、1対1でしか出てきません。

辞める人が出たときの対応

引き止めるべきか、送り出すべきか。判断は買い手と共有してください。

キーマンの場合、最終契約の前提条件に関わることがあります。社長が独断で「引き止めた」「認めた」とすると、後で問題になります。

そして、辞める人が出たことを他の従業員がどう見るかにも気を配ってください。1人の離職が連鎖するかどうかは、その後の説明で変わります。

まとめ

  • 離職をゼロにはできない。防げる部分を防ぐ
  • 最大の要因は噂で先に広まること
  • 処遇を明確に伝える。ただし約束できないことは約束しない
  • 社長が引き継ぎ期間を最後まで通うことが最も効く
  • 制度変更は順番を考えてもらう。社長が翻訳役になる
  • キーマンには買い手から直接説明してもらう

実際にどう伝えて、その後どうなったかは売却体験談で伺っています。

進め方に不安がある方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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