債務超過でも会社は売れるのか ― 開示105件が示す現実

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年10月15日
債務超過でも会社は売れるのか ― 開示105件が示す現実

「うちは債務超過だから、売るという話にはならない」

相談の場でよく聞く言葉です。結論から言うと、事実ではありません。

買い手名鑑に集めた上場企業293社の買収1,797件のうち、譲渡時点で純資産がマイナスだった会社は105件あります。そのうち54件は、取得価額まで公表されています。

実際に引き取られた債務超過の会社

いくつか挙げます。すべて買い手が公表した適時開示から転記したものです。

クリエイト・レストランツ・ホールディングス → サンジェルマン(2022年9月) 純資産マイナス39億2,900万円。売上90億7,500万円のベーカリーチェーンで、営業損失も5億8,200万円出ていました。それでも23億4,000万円で取得されています。

ラクスル → ダンボールワン(2021年12月) 純資産マイナス6億3,300万円、営業損失8億6,600万円。売上43億4,600万円。先に約49%を取得して持分法適用にし、残りを20億400万円で買って子会社化しています。

神戸物産 → 上原食品工業(2025年1月) 純資産マイナス5億9,000万円、売上15億6,400万円。取得価額7億円。

ジェリービーンズグループ → チチカカ 純資産マイナス5億円、売上14億300万円。取得価額は1円でした。

ヨシムラ・フード・ホールディングス → 日本罐詰(2026年10月) 純資産マイナス32億3,700万円。売上30億4,100万円の冷凍野菜メーカーですが、営業利益は3期連続で黒字(1億7,800万円→2億1,300万円→2億900万円)でした。取得価額は非開示ですが「のれんは発生しない予定」と開示されています。 ただしこの案件は、売り手が明治(大手食品メーカー)で、譲渡に先立ち第三者割当増資で債務超過を解消してから渡す形でした。オーナー個人が売り手の場合、同じことはできません(買い手名鑑)。

同じ債務超過でも、結果が大きく違う

上の5件を見比べてください。純資産のマイナス幅は5億〜39億円ですが、価格は1円から23億円まで開いています。

債務超過かどうかは、値段がつくかどうかを決めていません。決めているのは別の要素です。

23億円がついたサンジェルマン 1円だったチチカカ
売上90億円のベーカリーチェーン 売上14億円の小売
ブランドと店舗網が明確な資産 事業の先行きが読みにくい
買い手が同業で、引き受けた後の絵が描けている ―

日本罐詰を加えるとさらにはっきりします。マイナス幅が32億円ともっとも大きいのに、営業利益が3期連続で出ていたこの会社には買い手が付きました。

買い手が見ているのは、純資産ではなく「引き取ったあと、自分たちの手で何ができるか」です。純資産は、その判断の材料のひとつにすぎません。

会社ごとではなく、事業だけを渡す形

債務超過の案件で多いのが、会社を丸ごと渡さずに事業だけを切り出すやり方です。名鑑には会社分割を使った取引が136件、事業譲受が186件あります。

WOLVES HAND → 飛鳥メディカルの医療機器事業(2025年10月) 分割会社の純資産はマイナス1億8,100万円。営業利益は1,500万円出ていましたが、過去の損失が重く残っていました。そこで事業だけを新しい会社に移し、その株式を取得しています。

ロゴスホールディングス → 札証物産の戸建分譲住宅事業(2026年4月) 純資産マイナス7億6,500万円、売上49億5,700万円。民事再生手続の中でスポンサーとして支援し、16億円で事業を引き継いでいます。

借金ごと引き受けると買い手の負担が大きすぎる。けれど事業そのものには価値がある。この分け方ができるかどうかが、債務超過の会社が残れるかどうかの分かれ目になります(会社分割で一部だけ売る)。

「売れる」と「値段がつく」は別の話

ここははっきり分けて考えてください。

債務超過の会社でも、引き取り手は見つかります。実際に105件見つかっています。従業員の雇用も、取引先との関係も、看板も残ります。

ただし、オーナーの手元にお金が入るとは限りません。1円、あるいは無償での譲渡は名鑑に22件あります。会社は続いても、創業者の引退後の資金にはならない、という結果は普通に起きています(1円で売られた会社)。

ここを混同したまま話を進めると、交渉の終盤で「思っていたのと違う」となります。

債務超過のまま売るときに効くこと

名鑑の案件を並べて見えてくるのは、次の3点です。

1. 本業の営業損益を黒字にしておく

純資産がマイナスでも、営業段階で利益が出ていれば買い手は評価します。飛鳥メディカルの事例が典型で、債務超過でも営業利益1,500万円が出ていたから事業に引き取り手がつきました。過去の損失と、今の稼ぐ力を分けて見せることです。

2. 役員借入金を整理しておく

中小企業の債務超過は、社長個人からの借入が積み上がった結果であることが多いものです。これは資本に振り替えれば消えます(役員借入金はM&Aでどう扱われるか)。名鑑にも、クロージングまでに役員借入金を資本に振り替えてから渡した案件があります。

3. 動くのを遅らせない

258件の営業赤字案件を見ると、赤字が1期で止まっている会社のほうが条件がよい傾向があります。3期続けて悪化してから動くと、選べる相手が減ります。

まとめ

  • 債務超過でも売れています。名鑑で105件
  • 価格は1円から23億円まで開く。決めているのは純資産ではなく、引き取ったあとに何ができるか
  • 会社ごと無理なら、事業だけを切り出す形がある
  • ただし「残る」と「お金が入る」は別。ここは最初に分けて考える

自社がどちらに当てはまるのか見立てが必要な方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば、引き取り手が現れる形かどうかをお伝えできます。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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