M&Aで実際に起きるトラブル ― 成立後に揉める5つの型

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年9月27日
M&Aで実際に起きるトラブル ― 成立後に揉める5つの型

着金したら終わり、と考えている方が多いのですが、M&Aのトラブルは成立後に起きます。

会社売却で後悔した社長の共通点では心情の話を書きました。こちらは、金銭や法的責任が実際に動く話です。

型1:表明保証違反による補償請求

最終契約で、売り手は会社の状態について「こうなっています」と表明し、それが事実と違っていた場合に補償する義務を負います(最終契約の重要条項)。

成立後に、表明した内容と違う事実が見つかると、買い手から金銭の請求が来ます。

よくあるのは、

  • 未払残業代が後から出た
  • 税務調査で追徴があった
  • 開示していなかった係争があった
  • 在庫や売掛金の実態が違った

請求できる期間は契約で決まります。1〜2年が多く、税務は申告期限から5〜7年とされることもあります。「もう3年経ったから大丈夫」とは限りません。

防ぐには

  • 知っていることは全部開示する。開示した事項は表明保証の対象から外れる
  • 補償の上限額と期間を交渉する。譲渡価格の10〜20%、期間1〜2年が一つの目安
  • 自分で先に調べておく(ベンダーDD)

開示が最大の防御です。隠して通ったとしても、後から補償請求される形で返ってきます。

型2:アーンアウトが未達で入らない

譲渡代金の一部を、成立後の業績に連動させる設計です(アーンアウトと2段階イグジット)。

揉めるのは、未達の原因が売り手の側にないときです。

  • 買い手の方針で広告費を削られ、売上が落ちた
  • グループの会計方針に合わせたら利益が減った
  • 買い手が別の子会社に案件を回した

売り手にはもう決裁権がありません。にもかかわらず業績条件は達成できない。

防ぐには

  • 指標を操作されにくいものにする。営業利益より売上、売上より特定の契約件数
  • 計算方法を契約に書く。会計方針の変更、本社費の配賦、グループ間取引の扱い
  • 買い手の行為で未達になった場合のみなし達成条項を入れる
  • 期間を短くする。3年より1年のほうが読める

型3:従業員が辞める

成立後に主要な社員が辞め、事業が回らなくなる。

買い手にとっては想定より価値が低かったことになり、売り手にとっては引き継ぎが長引くことになります。ロックアップの期間が実質的に延びる形です。

従業員が辞めてしまうM&Aの共通点に書いたとおり、原因の多くは伝え方と時期です(従業員への開示タイミング)。

防ぐには

  • 伝える順番と時期を、クロージング日から逆算して設計する
  • 主要な社員には、処遇が決まった状態で伝える
  • キーマンの継続雇用を契約の条件にするなら、本人の意思を先に確認する。本人に無断で「残ります」と約束すると、後で破綻します

型4:簿外債務の発覚

デューデリジェンスで見つからなかった債務が、後から出る形です。

  • 未払残業代
  • 退職給付引当の不足
  • 保証債務(他社の借入の連帯保証)
  • 返品・クレームの引当不足

株式譲渡では会社をそのまま引き継ぐので、簿外債務も一緒に移ります。事業譲渡なら引き継ぐ債務を選べるので、ここは売り方の選択にも関わります(株式譲渡と事業譲渡の違い)。

防ぐには

保証債務は、社長自身が忘れていることがあります。取引先の借入に会社が保証を出していないか、過去の契約書を確認してください。

型5:経営者保証が外れない

成立後も、売り手が会社の借入の保証人のまま残っている状態です。

契約書に「買い手の責任で解除する」と書いてあっても、金融機関が同意しなければ外れません。買い手が交渉を怠ったまま放置すると、数年後に会社が傾いたときに請求が来ます。

防ぐには

クロージングの条件に、金融機関の同意書の取得を入れる。これが唯一確実な方法です(経営者保証はM&Aで外れるのか)。

着金と引き換えに保証が外れていることを確認してから、株主名簿の書き換えに応じてください。

トラブルの多くは契約で決まる

5つの型を並べて分かるのは、揉めるポイントがほぼ契約書の条項に対応していることです。

トラブル 対応する条項
補償請求 表明保証・補償(上限額、期間、開示の範囲)
アーンアウト未達 業績条件の定義、計算方法、みなし達成
従業員の離職 キーマン条項、雇用維持条項
簿外債務 表明保証、補償
保証が外れない クロージング条件

価格の交渉に時間を使い、条項を仲介会社任せにするのが最も危ない形です。金額は1回の話ですが、条項は数年効きます。

まとめ

  • トラブルは成立後に起きる。型は限られている
  • 表明保証違反は、開示が最大の防御。知っていることは全部出す
  • アーンアウトは、指標・計算方法・みなし達成条項・期間で守る
  • 経営者保証は金融機関の同意書をクロージング条件に
  • 揉めるポイントは契約条項に対応している。条項を他人任せにしない

契約書の内容に不安がある方は、無料相談からお問い合わせください。どこを重点的に見るべきかをお伝えします。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

監修者のプロフィールを詳しく見る →

関連記事