会社売却で後悔した社長の共通点

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月20日
会社売却で後悔した社長の共通点

M&Aの記事の多くは成功例を扱います。仲介会社が書いたものであれば当然です。

しかし売却を判断するために本当に必要なのは、うまくいかなかった側の情報です。ここでは後悔の原因になりやすい点を、事前に防げるものと防ぎにくいものに分けて整理します。

防げる後悔

1. 相談先を1社で決めた

最も多く、そして最ももったいない後悔です。

最初に接触した仲介会社とそのまま契約し、専任条項で他社に相談できなくなる。後から別の会社なら数千万円高く売れた可能性があると知る。あるいは手数料体系がまったく違い、手取りが1,000万円単位で変わったと知る。

同じ会社に対する評価は、仲介会社によって倍近く違うことがあります。最低2〜3社から話を聞くだけで防げるものです(M&A仲介会社の選び方)。

2. 買い手が1社しかいなかった

競争が働かない案件では、価格が伸びません。「ちょうど御社を探している買い手がいます」という入り方で、他の候補を探さないまま話が進むケースがあります。

買い手候補を何社出せるかは、契約前に確認できる項目です。

3. 手数料の基準額を確認しなかった

「レーマン方式で5%」という説明を受けて契約し、請求段階で移動総資産が基準だと知る。株価基準なら1,500万円だった手数料が3,700万円になる、といったことが実際に起こります。

17項目の書面を求め、想定価格での総額を円で出させれば防げます(M&A仲介の手数料の仕組み)。

4. ロックアップの長さを軽く見た

価格ばかり交渉して、引き継ぎ期間の条件を詰めなかった。

譲渡後、社長は自分のものではなくなった会社に、権限のない立場で3年通うことになる。設備投資も採用も稟議が要る。「売った後がいちばんきつかった」という声の多くはここから来ます。

期間と役割は交渉できる条件です。価格と同じ熱量で交渉すべきでした、というのが後から出てくる感想です。

5. アーンアウトの総額に目がくらんだ

「総額3億円。うち1億円は3年後の業績達成時に支払う」という条件を、3億円の案件として受け取ってしまう。

しかし業績を左右する権限は、すでに買い手側にあります。方針転換、投資判断、人員配置。売り手にはコントロールできません。

クロージング時に確実に入る金額で判断するのが原則です。

6. 経営者保証を条件に入れなかった

最終契約の前提条件に入れておかなかったため、株式は渡したのに保証だけが残る。引退後も自宅が担保に入ったままになる。

基本合意の段階で条件に含め、最終契約の前提条件にすれば防げます(経営者保証はM&Aで外れるのか)。

7. 従業員に早く言ってしまった

誠実であろうとして、基本合意の段階で従業員に伝える。その後DDで条件が変わり破談。「売られる会社」という認識だけが社内に残り、優秀な人から辞めていく。

原則はクロージング後または直前です(従業員への開示タイミングと伝え方)。

8. 納税資金を残さなかった

着金した資金をすぐ不動産や運用に回し、翌年の確定申告で納税資金が足りなくなる。

譲渡益1億円なら税額は約2,000万円です。受け取った時点で分けて確保しておけば済む話です。

9. 準備なしで売った

決算書が整理されていない、社長依存が強い、顧客が1社に集中している。この状態のまま売却に入り、想定より低い価格を提示される。

1〜3年の準備で価格が数千万円変わる領域です(売却価格を上げる5つの打ち手)。追い込まれてからでは間に合いません。

防ぎにくい後悔

ここからは、事前に知っていても完全には避けられないものです。知ったうえで受け入れるかどうかを判断する必要があります。

決定権を失う実感

数十年オーナーとして経営してきた人が、稟議と承認のある世界に入る。これは事前にどれだけ説明を受けても、実際に経験するまで実感できません。

「もう自分の会社ではない」と痛感するのは、たいてい些細な場面です。備品ひとつ買うのに申請が要る、人事を止められる、取引先との付き合い方を変えろと言われる。

従業員の離職

丁寧に進めても、辞める人はゼロになりません。「オーナーが変わるなら」と考える人は必ずいます。とくに社長との関係で働いていた人ほど離れます。

そして社長の側は、それを止める立場にすでにありません。

社名や事業が消える

買い手が同業なら、数年後に統合されて社名が消えることがあります。契約で一定期間の存続を約束させることはできますが、永続的な保証は現実的ではありません。

「自分が作ったものが形として残ってほしい」という思いが強い場合、M&Aは向かない可能性があります。これは価格では解消されません。

引退後の空白

意外に多いのがこれです。会社を離れ、時間ができ、そして何もすることがない。

数十年、朝から晩まで会社のことを考えて生きてきた人が、突然その対象を失う。金銭的には何の問題もないのに、気持ちが落ち込む。売却前に「次に何をするか」を決めていた社長ほど、この落差が小さいと言われます。

後悔していない社長の共通点

逆側も書いておきます。売却後に「やってよかった」と話す社長には、次の共通点があります。

  • 複数の相談先を比較してから決めた
  • 早い段階(業績が良いうち)で動いた
  • 価格以外の条件 ― ロックアップ、雇用、保証 ― を最初から交渉した
  • 従業員への伝え方を設計していた
  • 売却後に何をするかを決めていた

そして最も多く聞かれるのが、「もっと早く動けばよかった」という言葉です。準備の時間が長いほど選択肢が多く、業績が良いほど価格が高い。この2つが揃うのは、たいてい社長が「まだ早い」と感じている時期です。

判断のために

後悔の大半は、知っていれば防げたことです。そして防げないものは、事前に知っておけば覚悟ができます。

実際に会社を売った社長が、何を後悔し、何をよかったと感じているか。売却体験談では、うまくいかなかった部分も含めて伺っています。

自社の場合に何を確認しておくべきか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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