営業赤字の会社は売れるのか ― 開示258件を数えた

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年10月14日
営業赤字の会社は売れるのか ― 開示258件を数えた

赤字の会社に買い手はつかない。そう思って、売却を検討せずに廃業を選ぶ方がいます。

買い手名鑑に集めた1,797件の買収のうち、譲渡時点で営業赤字だった会社は258件。全体の約1割強です。うち153件は取得価額まで公表されています。

珍しい例外ではありません。

赤字でいくらついたか

ブイ・テクノロジー → NSKテクノロジー(2015年4月) 営業損失4億7,900万円、売上117億2,500万円。取得価額20億円。

ワールド → 神戸レザークロス(2019年5月) 営業損失4億6,800万円、売上82億2,400万円、純資産60億2,900万円。取得価額6億1,400万円。

ビジョン → あどばる(2021年10月) 営業損失3億5,400万円、売上11億8,600万円、純資産マイナス3億4,200万円。取得価額6億5,000万円。

日本創発グループ → 紋郎美術工房 営業損失6,300万円、売上2億3,900万円、純資産1億9,100万円。取得価額3億6,000万円で、純資産の約1.9倍です。

いちばん下の例を見てください。赤字なのに純資産を上回る値段がついています。

赤字でも評価されているものは何か

名鑑の258件を並べると、値段がついた会社に共通するものがあります。

1. 売上そのもの(取引基盤)

NSKテクノロジーは営業損失4億円台ですが、売上は117億円あります。買い手にとっては、ゼロから117億円の取引を作る手間を買っている形です。

利益は立て直せるが、顧客との取引関係は買わないと手に入りません。ここが赤字でも値段がつく最大の理由です。

2. 純資産(持っているもの)

神戸レザークロスは営業赤字ですが、純資産が60億円あります。この場合の価格は収益力ではなく、持っている資産から逆算されます。不動産や設備を持っている会社は、赤字でも下値が支えられます。

3. 人と技術

名鑑の「取得の理由」を全件読むと、人材に触れたものが159件、技術が169件、ノウハウが193件あります。赤字案件でもここは変わりません。有資格者が揃っている、特定の加工ができる、といった中身は損益計算書に出てきません。

4. 許認可と拠点

営業赤字の調剤薬局や介護事業所が繰り返し買われているのは、新規に許認可と拠点を取る手間が大きいからです。赤字の店舗でも、免許と立地は残ります。

厳しくなるのはどういうときか

逆に、名鑑を見ていて条件が悪くなっている案件には傾向があります。

赤字が3期以上続いている。1期の赤字は「たまたま」と見てもらえますが、3期続くと構造の問題と判断されます。メディカル一光が買った高知第一薬品は3期連続の営業損失(直近1億8,800万円)で、取得価額は非開示でした。

売上も一緒に落ちている。利益だけ落ちているなら戻せますが、売上が減っているのは取引基盤そのものが弱っている状態です。WOLVES HANDが引き取ったカルテックの事業は、売上が10億2,200万円から3億300万円へ落ち、営業損失4億1,600万円。会社ごとではなく事業だけを切り出す形になりました。

赤字と債務超過が重なっている。この場合は債務超過の記事のほうをご覧ください。打ち手が変わります。

売る前にやれること

1. 赤字の理由を説明できるようにしておく

設備投資をした年なのか、一過性の損失なのか、構造的に利益が出ない体質なのか。買い手がいちばん知りたいのはここです。説明がつく赤字と、つかない赤字では評価がまったく違います。

2. 役員報酬の水準を整理しておく

中小企業の営業赤字は、社長の役員報酬を落とせば黒字になるケースが珍しくありません。買い手は「正常収益力」で見るので、この調整を自分から示せる会社は強いです(EBITDA倍率で見る自社の相場)。

3. 赤字が1期のうちに動く

名鑑の案件を見るかぎり、これがいちばん効きます。2期目、3期目と待つほど選べる相手が減ります。「黒字に戻してから売ろう」と考えて3年経ち、その間に業績がさらに落ちた、という相談は実際に多いものです。

まとめ

  • 営業赤字での譲渡は名鑑に258件。うち153件は金額が公表されている
  • 赤字でも純資産を上回る値段がつくことがある
  • 評価されているのは、売上(取引基盤)・純資産・人と技術・許認可
  • 厳しくなるのは、赤字が3期続く/売上も落ちている/債務超過が重なる場合
  • 待つほど不利になる

自社の赤字がどちらの種類か分からない方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分で見立てをお伝えします。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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