会社売却のタイミング ― 「早すぎる」より「遅すぎる」が損な理由

「まだ早い」と考えているうちが売り時である ― M&Aの世界でよく言われることです。
これは営業トークではなく、買い手が何を買っているかを考えれば当然の結論になります。買い手が対価を払っているのは過去の実績ではなく、これから出続ける利益だからです。
売り時を決める4つの軸
軸1|業績の局面
最も価格に効きます。
| 業績の状態 | 買い手の見方 | 価格 |
|---|---|---|
| 3期連続で増収増益 | 将来も伸びる前提で評価できる | 最も高い |
| 横ばいで安定 | 現状維持なら妥当な価格 | 標準 |
| 直近で減益 | 直近期を基準に見られる | 下がる |
| 赤字転落 | 時価純資産までしか出ない | 大幅に下がる |
重要なのは、買い手は最も悪い年を基準に考える傾向があることです。3期のうち1期でも大きく落ち込んでいると、「またそうなるかもしれない」と見られます。
そして業績が落ち始めてから慌てて売ろうとしても、回復を待つ時間はたいてい残っていません。
軸2|社長の年齢と体力
M&Aは6〜12ヶ月かかり、その間、社長は日常業務と並行して膨大な資料提出と交渉に対応します。体力と判断力を要するプロセスです。
さらに、譲渡後も引き継ぎ期間(ロックアップ)が半年〜3年残ります。
70歳での引退を考えるなら、逆算するとこうなります。
70歳 引退
↑ 引き継ぎ期間 1〜2年
68歳 クロージング
↑ M&Aプロセス 6〜12ヶ月
67歳 相談開始
↑ 売れる状態にする準備 1〜3年
64〜66歳 準備着手 ← ここが実際のスタート
「70歳で引退」の実質的な判断期限は、65歳前後です。
そして避けたいのは、健康を損なってから動くことです。M&Aは社長本人が判断し続ける必要があり、家族が代わりに進めることはほぼできません。株主名簿や決算書の在り処すら共有されていない会社が大半です。
軸3|業界の環境
自社の業績が良くても、業界そのものが縮小局面に入ると買い手の評価は下がります。逆に、業界再編が起きている時期は買い手が積極的に動くため、価格が付きやすい。
判断材料になるもの。
- 同業のM&Aが増えているか(買い手が動いている証拠)
- 大手が中小の買収を進めているか
- 規制や制度の変更が控えていないか
- 人手不足が深刻な業種か(人材ごと買いたい買い手が多い)
業界再編の波は、たいてい数年で収まります。波が来ているときに動けるかどうかで、条件が変わります。
軸4|準備の進捗
売却価格を上げる5つの打ち手で書いたとおり、価格を左右する準備には時間がかかります。
- 社長依存の解消:2〜3年
- 顧客の分散:2〜3年
- 決算書の整備:1〜2年
- 簿外債務の処理:半年〜1年
- 株式の集約:数ヶ月〜年単位
準備が進んでいない状態で売ると、その分だけ安くなります。逆に、準備に時間をかけすぎて業績の局面を逃すのも損です。バランスを取る必要があります。
なぜ「遅すぎる」ほうが損なのか
早すぎて損をするケースは、実はあまりありません。「あと3年やっていればもっと伸びたのに」という後悔はあり得ますが、その3年で業績が落ちるリスクも同じだけあります。
一方、遅すぎた場合に失うものは明確です。
- 業績が落ちて価格が下がる
- 社長の体力が落ちて交渉に耐えられない
- 従業員が高齢化し、キーマンが先に引退する
- 設備が更新時期を迎え、買い手が投資負担を価格から引く
- 選択肢が廃業だけになる
とくに最後が深刻です。追い込まれてから相談に来た会社に残っているのは、たいてい廃業だけになります(会社を「たたむ」と「売る」はどちらが得か)。
「売り時ではない」ケース
逆に、いま動かないほうがよい場合もあります。
- 一過性の要因で今期だけ大きく落ち込んでいる。回復してからのほうが高い
- 大口の新規取引が始まる直前。実績が出てからのほうが評価される
- 係争や労務問題が未解決。先に片付けたほうが減額されない
- 株式が分散している。集約が先。これは必須です
誠実な仲介会社なら、こうした場合に「いまは待ったほうがよい」と言います。成約しなければ報酬が入らない立場でそう言える担当者は、信用に値します(M&A仲介会社の選び方)。
決めなくていい。現在地だけ先に知る
売り時かどうかは、自社がいくらで売れるかを知らないと判断できません。そしてその試算は、売ると決めていなくてもできます。
決算書3期分があれば、おおよその価格が出ます。想定より高ければ、迷っている時間そのものが損失かもしれません。想定より低ければ、価格を上げる打ち手に取り組む時間がまだあるということです。
無料相談からお問い合わせください。検討していない段階でのご相談で構いません。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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