会社売却とは?オーナー社長が最初に知るべき全体像と流れ

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月28日
会社売却とは?オーナー社長が最初に知るべき全体像と流れ

会社売却とは、オーナー社長が保有する自社の株式や事業を、第三者に有償で譲り渡すことです。事業承継の文脈では「第三者承継」、実務では単に「M&A」と呼ばれます。

かつては「会社を売る」ことに後ろめたさを伴う空気がありましたが、いまは後継者不在への現実的な解として定着しました。むしろ問題なのは、選択肢として検討しないまま時間が過ぎ、売れる状態でなくなってから動き出すことです。

この記事では、全体像を最短で把握できるよう、知るべき順に並べます。

売り方には2つある

会社売却と一口に言っても、株式譲渡と事業譲渡という2つの形があり、どちらを選ぶかで手取りも手続きもまったく変わります。

株式譲渡 事業譲渡
売る対象 会社の株式(=会社そのもの) 事業の一部または全部(資産・契約)
受け取る人 社長個人 会社
税金 譲渡益に20.315%の分離課税 会社に法人税、個人が受け取る際に再度課税
従業員 雇用契約はそのまま継続 個別に同意を得て転籍させる
許認可 原則そのまま引き継がれる 買い手が取り直すのが原則
手取り 大きい 目減りしやすい

中小M&Aの大半は株式譲渡です。会社を丸ごと引き渡すため手続きが簡単で、売り手にとって税負担が軽いからです。一方、買い手は簿外債務や係争リスクも一緒に引き受けることになるため、事業譲渡を希望することがあります。ここは価格と並ぶ重要な交渉事項になります。

詳しくは株式譲渡と事業譲渡の違いを参照してください。

検討開始から着金までの流れ

株式譲渡を前提にすると、おおむね次の順で進みます。

  1. 相談・方針決定 ― 仲介会社やFAに相談し、売れる状態かを確認する
  2. 企業価値の試算 ― 決算書3期分をもとに、いくらで売れそうかを見立てる
  3. 仲介契約の締結 ― 手数料と契約条件を確認して契約する
  4. 買い手候補の選定 ― 社名を伏せた資料(ノンネームシート)で打診する
  5. トップ面談 ― 買い手の経営者と直接会う。数字に出ない部分が評価される
  6. 基本合意 ― 価格と大枠の条件を仮に固め、独占交渉権を与える
  7. デューデリジェンス ― 買い手が財務・法務・労務などを詳細に調査する
  8. 最終契約 ― 株式譲渡契約を締結する
  9. クロージング ― 株式と代金を交換する。ここで着金する

期間はおおむね6〜12ヶ月です。買い手がすぐ見つかれば半年、業種や条件によっては1年以上かかります。廃業や親族内承継と比べると、最も短い部類に入ります。

各段階で何が起きるかはM&Aの進め方 全9ステップにまとめています。

いくらで売れるのか

最も気になる点だと思いますが、中小M&Aで実務上いちばん使われる出発点は次の式です。

譲渡価格 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 3〜5年分

重要なのは「正常営業利益」で、決算書上の営業利益とは違います。社長の役員報酬のうち相場を超える部分、節税目的の保険料、私的性格の経費などは利益に戻して計算されます。役員報酬を高く取ってきた会社ほど、この調整で価格が大きく動きます。

詳しくは会社はいくらで売れるのかを読んでください。ここが判断の起点になります。

いくらかかるのか

売り手が負担する主な費用は次のとおりです。

  • 仲介会社への手数料 ― 最大の費用。成功報酬はレーマン方式が一般的で、譲渡価格5億円以下の部分は5%程度
  • 最低手数料 ― 成功報酬に下限が設定されていることが多い。小規模案件ではここが実質的な費用になる
  • 着手金・中間金・月額報酬 ― 会社によって有無が分かれる
  • 専門家費用 ― 弁護士、税理士への相談料
  • 税金 ― 譲渡益に20.315%

2024年8月の中小M&Aガイドライン第3版により、これらは契約前に17項目として書面で説明されることになりました。説明が出てこない業者は避けてください。

従業員と取引先はどうなるか

株式譲渡では、雇用契約も取引契約も会社に紐づいたまま残るため、原則として何も変わりません。従業員が転籍したり、取引先と契約を結び直したりする必要はありません。

問題は「いつ伝えるか」です。原則はクロージング後、あるいは直前です。早すぎる開示は、話がまとまらなかった場合に人材の流出と取引先の不安だけを残します。ただしキーマンには基本合意の後に個別に伝えるなど、設計が必要です。詳しくは従業員への開示タイミングと伝え方を参照してください。

経営者保証は外れるのか

多くの社長が最も気にする点です。株式譲渡では、譲渡と同時に金融機関と交渉し、保証を買い手側に引き継ぐか解除するのが通常の流れです。個人保証を抱えたまま引退する不安が消えるのは、金額以上の意味を持つことがあります。

ただし自動的に外れるわけではなく、最終契約の条件として明記しておく必要があります。経営者保証はM&Aで外れるのかで詳しく扱っています。

何から手を付けるか

売却を決めていない段階でも、次の3つは先に済ませておいて損がありません。

決算書3期分を手元にそろえる。 これがないと価格の見立てができません。試算表と、直近の残高証明も併せて。

株主名簿を確認する。 名義株や、連絡の取れない少数株主がいると、それだけで話が止まります。中小企業では驚くほど頻繁に起きる問題です。

「なぜ売るのか」を自分の言葉にする。 買い手は必ず聞きます。ここが曖昧だと、価格交渉でも不利になります。

早く動くほど選択肢が増える

売却の準備は、直前には間に合いません。決算書の整理、取引先の分散、社長依存の解消 ― いずれも効果が出るまで1〜3年かかります。

そして買い手は、業績が伸びている会社を買いたがります。「まだ早い」と社長が感じているうちが、実はいちばん条件がよい時期であることが少なくありません。

自社がいまどの位置にあるのか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば、おおよその見立てをお伝えできます。売ると決めていない段階のご相談で構いません。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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