事業承継の4つの選択肢 ― 親族内・従業員・M&A・廃業を手残りで比較する

事業承継の相談で最初に起きるのは、「M&Aがいいか悪いか」という議論です。しかしこれは順番が逆で、4つの選択肢を並べて、自社がどれを選べる状態にあるのかを確認するのが先です。選べない道を検討しても意味がありませんし、選べる道が複数あるなら、条件を比較して決めるべきです。
4つの道を一覧で
| 親族内承継 | 従業員承継 | M&A(第三者) | 廃業 | |
|---|---|---|---|---|
| 後継者 | 子・親族 | 役員・幹部社員 | 買い手企業 | なし |
| 社長の手残り | 少ない(無償が多い) | 中程度 | 最も大きい | 資産売却額−清算費用 |
| 従業員の雇用 | 維持 | 維持 | 原則維持 | 失われる |
| 経営者保証 | 後継者へ引き継がれる | 後継者へ引き継がれる | 外れることが多い | 返済して終了 |
| 実行までの期間 | 5〜10年 | 3〜5年 | 6〜12ヶ月 | 6ヶ月〜1年 |
| 主なつまずき | 後継者の意思、相続の分割 | 後継者の資金力 | 買い手が見つかるか | 費用と従業員への責任 |
親族内承継 ― 選べるなら最も静かな道
子や親族が継ぐ形です。社内外への説明が要らず、取引先や金融機関の理解も得やすい。
つまずくのは主に2点です。ひとつは後継者本人の意思。継ぐ気がない、あるいは別のキャリアを歩んでいる子に無理に継がせても続きません。もうひとつは相続の問題で、自社株を後継者に集中させると他の相続人との分割で揉めます。株が分散すると、次の代で経営が動かなくなります。
社長の手残りという観点では、株を無償または低額で渡すことが多く、現金はほとんど手元に来ません。老後の生活資金は退職金と個人資産で賄う設計が必要です。
従業員承継 ― 意思はあっても、お金が足りない
長年一緒にやってきた役員や幹部が継ぐ形です。事業への理解が深く、従業員の動揺も小さい。理想的に見えますが、現実にはほとんどが資金でつまずきます。
自社株の評価額が1億円だとして、それを買い取る資金を役員個人が用意できるか。金融機関からの借入やMBO向けのファンド活用という手はありますが、後継者個人に数千万〜億単位の債務を負わせることになります。加えて、社長の経営者保証も後継者に引き継がれます。「継いでほしい」と言われた側が最終的に断るのは、たいていこの段階です。
株価を下げてから譲る、段階的に譲渡する、持株会社を使うといった設計で負担を軽くできる場合がありますが、いずれも数年単位の準備が要ります。
M&A ― 手残りが最も大きく、期間が最も短い
第三者の企業に株式を譲渡する形です。4つのなかで社長の手取りが最も大きくなる可能性が高い選択肢です。
理由は2つあります。ひとつは、買い手が「将来の利益」に対価を払うため、時価純資産を超える価格が付くこと。廃業では資産の処分価値しか手に入りませんが、M&Aでは営業権が値段になります。もうひとつは、株式譲渡益への課税が20.315%の分離課税で完結すること(詳しくは会社売却でかかる税金を参照)。
さらに実務上大きいのが、経営者保証が外れる点です。譲渡と同時に金融機関と交渉し、保証を買い手側に引き継ぐか解除するのが通常の流れになります。個人保証を抱えたまま引退する不安が消えるのは、金額以上の意味を持つことがあります。
期間も6〜12ヶ月と最短です。ただし前提として、買い手が見つかる会社であることが要ります。赤字が続いている、社長個人に利益が紐づいている、業界が縮小しているといった条件が重なると、話が進まないこともあります。
廃業 ― 「たためばいい」は成り立たないことが多い
後継者がおらず、売れもしないなら廃業、という順で検討されがちですが、廃業にも相応の費用がかかります。
- 従業員への解雇予告手当、退職金
- 店舗・工場の原状回復、賃貸借契約の解約違約金
- 設備の処分費用(撤去費が売却額を上回ることも多い)
- 在庫の処分損
- 取引先との契約解除に伴う補償
- 清算手続きの専門家費用
資産の含み益がある場合は清算所得への課税も発生します。結果として、手元に残る額が想定より大幅に少ない、あるいはマイナスになるケースがあります。
そして数字に表れないものとして、従業員の雇用が失われ、取引先の供給網が途切れます。地域に長く根を張ってきた会社ほど、この影響は大きくなります。
判断の順番
現実的には、次の順で確認するのが早いです。
- 親族に継ぐ意思のある人がいるか。 いなければ以降を検討する
- 社内に後継者候補がいて、かつ資金を用意できるか。 意思だけでは成立しない
- M&Aで買い手が見つかる状態か。 ここは自己判断が難しいので、一度専門家に見てもらう価値がある
- 1〜3がすべて否なら、廃業の費用を試算する
重要なのは、3を飛ばして4に進まないことです。「うちみたいな会社を買う人はいない」と社長が思い込んでいた会社に、同業や隣接業種から複数の買い手が付くことは珍しくありません。許認可、有資格者、特定地域での顧客基盤といった、社長自身が当たり前だと思っているものに値段が付きます。
早く動くほど選択肢が多い
4つのうちどれを選ぶにせよ、準備期間が長いほど条件は良くなります。親族内・従業員承継なら株価対策と資金準備に数年、M&Aなら決算書の整備と社長依存の解消に1〜3年。追い込まれてから動くと、残るのは廃業だけになりがちです。
自社がどの選択肢を取れる状態にあるのか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決めていない段階のご相談で構いません。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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