持株会社にしておくと売りやすいのか ― 開示から見た実態

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年10月1日
持株会社にしておくと売りやすいのか ― 開示から見た実態

事業会社を複数持っている、不動産保有会社を別に立てている、親族で株を分けている。中小企業でもよくある形です。

そういう社長から「売る前に持株会社にまとめたほうがいいか」と聞かれます。買い手名鑑の取引から、実際にどう扱われているかを見ます。

持株会社ごと引き取られた例

INTLOOP → ディクスホールディングス(2023年9月) 2019年設立の持株会社で、傘下にSES・SOC・人材育成・福利厚生の4社。連結売上62億4,000万円、連結営業利益4億1,100万円、連結純資産7億6,600万円。大株主は個人1名が77.1%。グループごと渡す形で引き継がれました。

この会社はその後、自らコムテックを買う側に回っています。持株会社の構造を保ったまま、グループの中で機能し続けている例です。

GENDA → フクヤホールディングス(2023年12月) 国内外4社を傘下に持つ持株会社。社長が93.8%、残り6.2%を従業員持株会が保有していました。

三井松島ホールディングス → ジャパン・チェーン・ホールディングス 売上152億1,900万円、取得価額43億3,360万円。

矢作建設工業 → 海昌 持株会社アクエリアスインベスコごと取得、2,048百万円の売上に対して25億円。

持株会社だから売れない、ということはありません。むしろまとめて渡せる形として機能しています。

まとめておく利点

1. 一度の取引で全部渡せる

事業会社が3社あると、個別に売る場合は3件の交渉になります。持株会社の株式を渡せば1件で済みます。

2. 親族に散った株を集約できる

複数の会社にそれぞれ親族株主がいると、全員から買い集める必要があります。持株会社の段階で整理しておけば、譲渡時の手続きが軽くなります。

GENDAが買ったエーセツは、株主が親族6名に分かれていて社長の持分は7.75%でした。それでも6名全員から買い集めて100%取得が成立しています。散っていても売れますが、手間は増えます。

3. 残したい会社を外に出せる

不動産保有会社だけ持株会社の傘下から外しておけば、売却対象から除けます(会社分割で一部だけ売る)。

落とし穴 ― 単体の決算書では実態が伝わらない

ここが実務でいちばん問題になります。

UTグループ → スリーエム(2021年2月) 開示されている対象会社の数字は、売上7億8,900万円・営業利益3,300万円。取得価額は30億5,400万円でした。営業利益の92.5倍という、名鑑で最も高い倍率です。

なぜこうなるのか。対象が持株会社で、開示の数字が持株会社単体のものだからです。傘下の事業会社の売上も利益も含まれていません。

同じことがフクヤホールディングスの開示にも出ています。持株会社単体の売上は3,500万円ですが、傘下4社を合算すると29億2,200万円。開示には単体と合算の両方が並べて載っています。

持株会社を売るとき、単体の損益計算書は実態を表しません。

売る前に用意しておくもの

連結または単純合算の数字を3期分。

中小企業の持株会社は連結財務諸表を作っていないことがほとんどです。フクヤホールディングスの開示にも「連結財務諸表を作成していないため、各社の財務指標を単純合算しております」と但し書きがあります。

買い手はこの数字がないと評価できません。こちらで用意していないと、交渉が止まるか、安全側に見積もられます。

  • 傘下各社の3期分の売上・営業利益・純資産
  • グループ内取引(相殺前・相殺後)
  • 持株会社から各社への貸付、各社からの配当

グループ内取引の整理。

親会社が子会社に経営指導料を取っている、不動産を貸している、社長の報酬を複数社から取っている。こうした内部のやりとりは、買い手から見ると「本当の収益力はいくらか」が見えにくくなる要素です。先に整理して説明できる形にしておきます。

まとめるべきか、まとめないべきか

名鑑の案件を見るかぎり、どちらでも売れています。判断の軸は次の3つです。

まとめたほうがよい そのままでよい
複数社を一体で売りたい 1社だけ売って他は残したい
株主が親族に散っている 株主が自分1人
事業がお互いに依存している 各社が独立して回っている

ただし、売ることが決まってから組織再編を始めるのは遅いです。持株会社化には時間と費用がかかり、税務上の論点もあります。買い手から見ても、直前の組織変更は「何か理由があるのか」と確認の対象になります。

やるなら、売却を具体化する1〜2年前です。

まとめ

  • 持株会社ごと引き取られた取引は名鑑にいくつもある。売れないことはない
  • 利点は「一度で渡せる」「株を集約できる」「残すものを外せる」
  • 落とし穴は、単体の決算書では実態が伝わらないこと
  • 連結または単純合算の数字を3期分、自分で用意しておく
  • 組織再編をやるなら売却の1〜2年前。直前は不利

自社の構成でどう見せるのがよいか迷う方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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