株式譲渡と事業譲渡の違い ― どちらを選ぶべきか

監修 黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表公開 2026年8月27日
株式譲渡と事業譲渡の違い ― どちらを選ぶべきか

M&Aの手法は複数ありますが、中小企業で実際に使われるのはほぼ株式譲渡と事業譲渡の2つです。そして両者は、売り手と買い手のどちらに有利かがはっきり分かれます。

結論から書きます。売り手にとっては株式譲渡が有利です。理由は税金と手続きの両方にあります。

何が違うのか

株式譲渡 事業譲渡
売る対象 会社の株式 事業に属する資産・負債・契約を個別に
代金を受け取る主体 社長個人 会社
課税 譲渡益に20.315%(分離課税) 会社に法人税等 + 個人が受け取る際に再度課税
許認可 原則そのまま継続 買い手が取り直すのが原則(業種別の可否)
従業員 雇用契約はそのまま 個別に同意を得て転籍
取引契約 そのまま継続 相手方の同意を得て個別に移す
簿外債務 買い手が引き継ぐ 引き継がない(切り離せる)
会社の存続 会社ごと買い手のものになる 売った事業以外は手元に残る
手続きの重さ 軽い(取締役会の承認) 重い(株主総会の特別決議)

税金の差はどれくらいか

ここが最も大きな違いです。譲渡対価3億円のケースで比べます(数字は概算です)。

株式譲渡の場合

  • 社長個人に譲渡所得が発生
  • 譲渡所得 = 3億円 − 取得費 − 譲渡費用
  • 税率は所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5% = 20.315%
  • 取得費1,000万円、仲介手数料2,000万円とすると、税額はおよそ5,485万円

事業譲渡の場合

  • まず会社に売却益が生じ、法人税等(実効税率およそ30%前後)がかかる
  • 税引後に会社に残った資金を、社長が配当または退職金として受け取る
  • 配当は総合課税で、他の所得と合算されて累進税率が適用される
  • 結果として、手取りは株式譲渡より大きく目減りする

さらに事業譲渡では、譲渡対象資産に消費税がかかります(土地や有価証券など非課税のものを除く)。買い手が負担しますが、その分だけ買い手の総支出が増えるため、提示価格が下がる方向に働きます。

それでも買い手が事業譲渡を求める理由

買い手の立場では、株式譲渡には避けたいリスクがあります。

簿外債務を引き受けてしまう。 未払残業代、退職給付引当の不足、係争中の案件、税務調査での否認リスク。株式譲渡は会社ごと買うため、調査で見つからなかった債務も一緒に引き受けます。

不要な資産まで付いてくる。 事業に関係のない不動産、社長の車、稼働していない設備。

欲しい事業だけを買えない。 3事業のうち1つだけが目当ての場合、株式譲渡では全部を買うことになります。

事業譲渡なら、買う対象を契約書で列挙して、それ以外は引き継がないという整理ができます。だから買い手は事業譲渡を提案してきます。

ただし売り手にとっては、税負担が重くなるだけでなく株主総会の特別決議が必要になるなど、社内手続きも重くなります(売却に必要な社内手続き)。

事業譲渡を求められたときの交渉

まず理解しておくべきは、これは価格と切り離せない条件だということです。事業譲渡になれば売り手の手取りは大きく減るのだから、その分は価格に反映されるべきです。

交渉の材料は次のとおりです。

1. 手取りベースで価格を提示し直す。 「3億円の事業譲渡」と「3億円の株式譲渡」は、売り手にとってまったく別の話です。手取りが同額になる価格を計算し、その数字で交渉します。

2. 買い手の懸念を個別に潰す。 事業譲渡を求める理由が簿外債務の不安なら、その不安を別の方法で解消できます。

  • 未払残業代 → 労務デューデリジェンスを受け入れ、必要なら事前に精算する
  • 不要資産 → クロージング前に会社から切り出しておく
  • 係争 → 表明保証と補償条項でカバーする

「何が心配で事業譲渡にしたいのか」を具体的に聞き出せば、多くは株式譲渡+契約条項で解決できます。

3. 許認可を材料にする。 建設業、運送業、産業廃棄物、医療、宿泊など許認可が事業の前提になっている業種では、事業譲渡は買い手にとっても不利です。原則として買い手が許可を取り直す必要があり、その間は営業できません。この場合、株式譲渡を選ぶ理由が買い手側にも生じます。

(なお建設業では2020年10月の法改正で、事前に認可を受ければ譲渡・譲受けによる許可の承継が可能になりました。業種ごとに扱いが違うため、必ず個別に確認してください)

例外的に事業譲渡が売り手に向くケース

数は多くありませんが、次の場合は事業譲渡を選ぶ理由があります。

  • 複数事業のうち一部だけを売りたい。 本業は続けながら、不採算部門や非中核事業を手放す
  • 会社に繰越欠損金がある。 売却益と相殺でき、法人税の負担が抑えられることがある
  • 会社を残したい事情がある。 資産管理会社として使い続けるなど

いずれも税務の設計次第で結論が変わるため、顧問税理士を必ず巻き込んでください。

判断の順番

  1. 原則は株式譲渡で進める
  2. 買い手から事業譲渡を求められたら、その理由を具体的に聞く
  3. 理由が簿外債務や不要資産なら、契約条項や事前整理で解決できないか検討する
  4. それでも事業譲渡になるなら、手取りベースで価格を再交渉する

ここを仲介会社任せにすると、手取りが数千万円変わったまま話が進みます。提示された条件が自社にとってどうなのか、必ず自分の手取りで確認してください。

自社のケースでどちらが有利か知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

黒瀧 泰介

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。

2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。

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