手取りシミュレーション ― 譲渡価格1億円のとき手元にいくら残るか

監修 黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表公開 2026年8月22日
手取りシミュレーション ― 譲渡価格1億円のとき手元にいくら残るか

「1億円で売れた」と聞いても、社長の手元に1億円が残るわけではありません。仲介手数料と税金が引かれます。

この記事では、譲渡価格1億円の案件で手取りがいくらになるかを、条件を変えながら計算します。数字は概算であり、実際の税額は個別事情で変わります。判断は必ず顧問税理士と行ってください。

前提

  • 譲渡価格:1億円
  • 手法:株式譲渡
  • 社長の持株:100%
  • 取得費(設立時の資本金):1,000万円
  • 勤続年数:35年
  • 最終月額報酬:150万円

ケース1|全額を株式譲渡で受け取る(仲介手数料800万円)

仲介手数料

レーマン方式で譲渡価格基準、5億円以下の部分は5%とすると、1億円 × 5% = 500万円。ただし最低手数料が設定されているのが通常で、ここでは800万円とします。

譲渡所得と税額

  • 譲渡所得 = 1億円 − 取得費1,000万円 − 譲渡費用800万円 = 8,200万円
  • 税額 = 8,200万円 × 20.315% ≒ 1,666万円

手取り

1億円 − 手数料800万円 − 税金1,666万円 = 7,534万円

ケース2|2,000万円を役員退職金にする

譲渡対価の総額は変わりません。会社が退職金2,000万円を支払い、その分だけ株式の対価が8,000万円に下がる構造です。

退職金部分

  • 退職所得控除 = 800万円 + 70万円 × 15年 = 1,850万円
  • 退職所得 =(2,000万円 − 1,850万円)× 1/2 = 75万円
  • 税額 ≒ 11万円(所得税・住民税あわせて低い税率帯に収まる)

株式部分

  • 譲渡所得 = 8,000万円 − 取得費1,000万円 − 譲渡費用800万円 = 6,200万円
  • 税額 = 6,200万円 × 20.315% ≒ 1,260万円

手取り

1億円 − 手数料800万円 − 税金(11万円+1,260万円)= 7,929万円

ケース1との差は約395万円。退職所得控除1,850万円がまるごと効いています。

なお功績倍率法での適正額の目安は、月額報酬150万円 × 勤続35年 × 功績倍率2.0 = 1億500万円。2,000万円は十分に適正額の範囲内です(役員退職金を使った手取り最大化)。

ケース3|退職金を4,000万円に増やす

  • 退職所得 =(4,000万円 − 1,850万円)× 1/2 = 1,075万円
  • 税額 ≒ 250万円前後
  • 株式部分:譲渡所得 = 6,000万円 − 1,000万円 − 800万円 = 4,200万円 → 税額 ≒ 853万円

手取り

1億円 − 800万円 − (250万円+853万円)= 8,097万円

ケース1より約563万円多い。ただしケース2からの上積みは168万円で、増やした割に効きが鈍っています。退職所得の累進税率が上がってくるためです。

配分には最適点があり、無制限に増やせばよいわけではないことが分かります。

ケース4|最低手数料が2,000万円だったら

同じ1億円の案件でも、仲介会社によって最低手数料は違います。2,000万円のケースで計算します(ケース2と同じ退職金2,000万円の配分)。

  • 退職金部分の税額 ≒ 11万円
  • 譲渡所得 = 8,000万円 − 1,000万円 − 2,000万円 = 5,000万円 → 税額 ≒ 1,016万円

手取り

1億円 − 2,000万円 − (11万円+1,016万円)= 6,973万円

ケース2との差は956万円。手数料の差1,200万円のうち、税額が減るぶん(約244万円)が戻ってくるため、実質的な差は約956万円になります。

税金の設計で数百万円を工夫するより、仲介会社の手数料体系を比較するほうが効くということです。ここは相談先を決める前にしか動かせません(M&A仲介の手数料の仕組み)。

ケース5|事業譲渡だった場合

同じ1億円を事業譲渡で受け取る場合、税の流れが変わります。

  1. 会社に売却益が生じ、法人税等がかかる。簿価が薄く売却益が1億円近いとすると、実効税率30%前後で約3,000万円
  2. 税引後に会社へ残るのは約7,000万円
  3. これを社長が受け取るには配当か退職金。退職金2,000万円を差し引いた残り5,000万円を配当とすると、総合課税で累進税率がかかる(配当控除を考慮しても、高額なら30〜40%台の負担になり得る)

手取りはおおまかに5,000万円台まで落ちます。株式譲渡との差は2,000万円を超えます。

さらに事業譲渡では譲渡対象資産に消費税がかかるため、買い手の総支出が増え、提示価格が下がる方向にも働きます。

売り手にとって株式譲渡が有利と言われるのは、この差によります(株式譲渡と事業譲渡の違い)。

まとめ

ケース 条件 手取り
1 全額株式譲渡・手数料800万円 約7,534万円
2 退職金2,000万円・手数料800万円 約7,929万円
3 退職金4,000万円・手数料800万円 約8,097万円
4 退職金2,000万円・手数料2,000万円 約6,973万円
5 事業譲渡 5,000万円台

同じ「1億円で売却」でも、手取りは5,000万円台から8,000万円台まで開きます。

手取りを左右する順番

効き目の大きい順に並べると、こうなります。

  1. 株式譲渡か事業譲渡か(差は2,000万円超)
  2. 仲介会社の手数料体系、特に最低手数料(差は1,000万円規模)
  3. 退職金との配分(差は数百万円)
  4. 取得費・譲渡費用を漏れなく計上する(設立時の資料、仲介手数料の請求書を保管)

1と2は、相談先を決める段階でしか動かせません。契約してしまってから「手数料が高い」と気づいても遅い。ここに時間をかけるのが、最も費用対効果の高い準備です。

忘れてはいけないこと

納税は翌年です。譲渡した年の翌年に確定申告と納付が来ます。受け取った資金をすぐ運用や不動産に回すと、3月に納税資金が足りなくなります。税額分は必ず分けて確保しておいてください。

自社のケースでの試算をご希望の方は、無料相談からお問い合わせください。決算書と勤続年数が分かれば、おおよその手取りをお伝えできます。

監修

黒瀧 泰介

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。

2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。

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