M&A仲介の手数料の仕組み ― レーマン方式を数字で理解する

監修 黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表公開 2026年8月21日
M&A仲介の手数料の仕組み ― レーマン方式を数字で理解する

M&Aで売り手が負担する最大の費用が、仲介会社への手数料です。そしてこの費用は、会社によって倍以上違うことがあります。

違いを生むのは料率ではありません。何に対して料率を掛けるかです。ここを理解しないまま契約すると、手取りが1,000万円単位で変わります。

レーマン方式の料率

成功報酬の算定に使われる、業界標準の計算方法です。金額の帯ごとに料率が下がっていく仕組みになっています。

金額の帯 料率
5億円以下の部分 5%
5億円超〜10億円以下の部分 4%
10億円超〜50億円以下の部分 3%
50億円超〜100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%

帯ごとに区切って計算します。8億円なら「8億円×4%」ではありません。

5億円 × 5% + 3億円 × 4% = 2,500万円 + 1,200万円 = 3,700万円

ここまでは、どの仲介会社もほぼ同じです。

本当の差は「何に掛けるか」

料率を掛ける対象を基準額といい、主に3種類あります。ここが最も重要です。

基準 何を対象にするか
株価基準(譲渡価格基準) 株式の譲渡対価のみ
企業価値基準 株式の対価 + 有利子負債
移動総資産基準 株式の対価 + 負債総額

同じ会社で計算してみます。

前提

  • 株式の譲渡対価:3億円
  • 有利子負債:2億円
  • 負債総額:5億円(有利子負債2億円+買掛金・未払金など3億円)

株価基準

3億円 × 5% = 1,500万円

企業価値基準(3億円+2億円=5億円)

5億円 × 5% = 2,500万円

移動総資産基準(3億円+5億円=8億円)

5億円 × 5% + 3億円 × 4% = 3,700万円

同じ取引で、1,500万円と3,700万円。2.5倍の差です。社長が受け取る金額は同じ3億円なのに、支払う手数料だけが変わります。

「弊社は業界標準のレーマン方式です」という説明だけでは、何も分かりません。必ず基準額を確認してください。

とくに買掛金や未払金の多い業種(卸売、建設、小売)では、移動総資産基準の影響が大きく出ます。負債が積み上がっているだけで手数料が跳ね上がります。

最低手数料 ― 小規模案件では、これが実質の費用

多くの仲介会社が、成功報酬に下限を設けています。譲渡価格が小さい案件では、レーマン方式の計算結果ではなく、この最低手数料が適用されます。

譲渡価格3,000万円の案件で考えます。

  • レーマン方式(株価基準):3,000万円 × 5% = 150万円
  • しかし最低手数料が2,000万円なら、支払うのは2,000万円

手残りは1,000万円。税金を引けばさらに減ります。これでは何のために売ったのか分からなくなります。

最低手数料の水準は会社によって大きく違い、500万円程度のところから2,500万円を超えるところまであります。

譲渡価格1億円未満が見込まれる案件では、最低手数料が最も重要な比較項目です。この規模ではマッチングサイトの活用も現実的な選択肢になります(M&A仲介・FA・マッチングサイトの違い)。

成功報酬以外の費用

費用 内容 相場感
着手金 契約時に支払う。成約しなくても返らない 0〜300万円
月額報酬(リテイナー) 毎月支払う。期間が延びるほど積み上がる 0〜100万円/月
中間金 基本合意時に支払う。成功報酬の10〜20%程度 案件による
成功報酬 クロージング時。レーマン方式 上記のとおり

完全成功報酬制(着手金・月額報酬なし)を掲げる会社もあります。売り手にとってリスクが小さい一方、成功報酬の料率や最低手数料が高めに設定されていることがあるため、総額で比較する必要があります。

月額報酬には注意してください。月100万円で1年かかれば1,200万円。成約しなくても支払いは発生します。「期間が延びても仲介会社は困らない」構造になっていないか確認すべきです。

買い手側からも受け取っている

仲介は売り手と買い手の双方から手数料を受け取ります。つまり自分が払う額だけを見ても、全体像は分かりません。

買い手側の手数料が高ければ、仲介にとっては買い手のほうが重要な顧客になります。継続的に案件を持ち込む買い手と、一度きりの売り手。どちらを向くかは構造が決めます(M&A仲介・FA・マッチングサイトの違い)。

この問題への対応として、2024年8月の中小M&Aガイドライン第3版では、相手方から受け取る手数料の開示が求められるようになりました。

17項目開示を使う

ガイドライン第3版により、仲介契約・FA契約の締結前に、手数料に関する項目を書面で説明することが求められています。「17項目の開示」と呼ばれるものです。

社長として必ず確認すべきものを挙げます。

  1. 基準額は何か(株価/企業価値/移動総資産)← 最重要
  2. 最低手数料はいくらか
  3. 着手金・中間金・月額報酬の有無と金額
  4. 中間金は成約しなかった場合に返還されるか
  5. 買い手側から受け取る手数料の有無と水準
  6. 専任条項の有無、期間、解除条件
  7. 契約期間と、期間満了後のテール条項(契約終了後に成約した場合の扱い)

書面が出てこない、口頭で済ませようとする業者は避けてください。それ自体がガイドラインからの逸脱です。M&A支援機関登録制度への登録の有無も確認できます。

比較のしかた

複数社を比べるとき、料率表を並べても意味がありません。次のようにしてください。

自社の想定譲渡価格を伝え、「その場合の総額はいくらか」を各社に書面で出させる。

  • 想定価格1億円のとき、着手金+中間金+月額報酬+成功報酬の合計はいくらか
  • 想定価格5,000万円だったときはいくらか(下振れしたときに最低手数料が効く)
  • 成約しなかった場合、いくら支払うことになるか

この3つを同じ条件で並べれば、実際の差が見えます。「5%です」という言葉ではなく、円で比較してください。

そして、手数料の安さだけで選ばないことも同時に重要です。買い手候補を多く出せる会社は、それだけ譲渡価格を押し上げます。手数料が500万円高くても、譲渡価格が2,000万円高くなれば得です。判断軸はM&A仲介会社の選び方にまとめました。

手数料の見積もりが妥当か判断したい方は、無料相談からお問い合わせください。提示された条件を一緒に確認します。

監修

黒瀧 泰介

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。

2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。

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