最低手数料の罠 ― 小規模案件で費用倒れしないために

監修 黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表公開 2026年8月7日
最低手数料の罠 ― 小規模案件で費用倒れしないために

M&A仲介の手数料で、小規模案件の社長が最も痛い目を見るのが最低手数料です。

料率だけを見ていると気づきません。「成功報酬5%」と聞けば、譲渡価格3,000万円なら150万円だと思う。しかし実際に請求されるのは、最低手数料の2,000万円かもしれません。

何が起きるのか

譲渡価格3,000万円の案件で計算します。

レーマン方式(株価基準)の計算

3,000万円 × 5% = 150万円

しかし最低手数料が2,000万円なら

支払うのは 2,000万円

手残り

3,000万円 − 2,000万円 = 1,000万円。ここから税金を引くと、さらに減ります。

譲渡価格の3分の2が手数料で消えるということです。

最低手数料が効く境界線

料率5%(株価基準)を前提に、最低手数料の水準ごとの分岐点を示します。

最低手数料 この価格までは最低手数料が適用される
500万円 譲渡価格 1億円まで
1,000万円 譲渡価格 2億円まで
2,000万円 譲渡価格 4億円まで
2,500万円 譲渡価格 5億円まで

最低手数料2,000万円の会社に依頼する場合、譲渡価格が4億円を下回る限り、常に2,000万円を払うことになります。

中小M&Aの譲渡価格の多くは数千万円〜数億円の範囲です。つまり多くの案件で、レーマン方式ではなく最低手数料が実際の費用になっています。

水準は会社によって大きく違う

最低手数料は、500万円程度のところから2,500万円を超えるところまで幅があります。

これは会社の方針の違いであり、高いから悪いというわけではありません。大型案件を主戦場にする会社は、小規模案件に人員を割く前提がないため、結果として高く設定されています。

問題は、自社の規模に合わない会社に依頼してしまうことです。

譲渡価格1億円未満なら、まずここを見る

譲渡価格1億円未満が見込まれる案件では、最低手数料が最も重要な比較項目です。料率も、担当者の質も、その次です。

比較のしかたは単純です。各社に「自社の想定価格で成約した場合、総額でいくら払うことになるか」を円で出させる。それだけです。

下振れしたケースも必ず出させてください。想定1億円が実際には6,000万円で成約した場合、最低手数料が効いてくるからです。

その規模で取るべき別の手段

譲渡価格が小さい案件では、M&A仲介以外の手段のほうが合理的なことがあります。

譲渡価格の目安 現実的な手段
〜3,000万円 マッチングサイト(費用は数万円〜)
3,000万円〜1億円 マッチングサイト、または最低手数料の低い仲介
1億円〜 仲介。ただし最低手数料は必ず確認

マッチングサイトは、バトンズやトランビなどのプラットフォームに案件を掲載する方法です。費用は掲載料と成約料で数万円〜数十万円程度。

ただし交渉も書類も自分で進めることになります。企業概要書の作成、価格交渉、契約書の確認。専門家をスポットで雇う必要があり、その費用は別途かかります(M&Aマッチングサイトは売り手にとって使えるか)。

事業承継・引継ぎ支援センターという選択肢もあります。各都道府県にある公的機関で、相談は無料です。小規模案件も扱っており、まず相談する先としては有力です(事業承継・引継ぎ支援センターの使いどころ)。

飲食・小売で1〜2店舗なら、造作譲渡(居抜き)が現実的です。会社や事業を売るのではなく、設備と賃借権を次の借主に引き継いでもらう形になります(飲食・小売業のM&A売却相場)。

「まず相談だけ」でも確認する

無料相談の段階で最低手数料を聞くのは、まったく失礼ではありません。むしろ聞かないほうが問題です。

2024年8月の中小M&Aガイドライン第3版により、契約前に手数料17項目を書面で説明することが求められています。最低手数料はその中の重要項目です。

聞いても答えない、書面を出さない業者は、その時点で候補から外して構いません。

手数料の安さだけで選ばない

一方で、逆方向の注意も必要です。

最低手数料が安い会社が、必ずしも有利とは限りません。買い手候補を多く集められる会社なら、手数料が高くても譲渡価格が伸びて、結果的に手取りが大きくなることがあります。

手数料500万円の差より、譲渡価格2,000万円の差のほうが大きい。判断すべきは「手数料の安さ」ではなく「手取りの大きさ」です(M&A仲介会社の選び方)。

ただし譲渡価格が小さい案件では、手数料の影響が相対的に大きくなります。3,000万円の案件で手数料が1,500万円違えば、それは決定的です。

まとめ

  • 小規模案件では、レーマン方式ではなく最低手数料が実際の費用になる
  • 最低手数料2,000万円なら、譲渡価格4億円まで常に2,000万円
  • 水準は会社によって500万円〜2,500万円超と幅がある
  • 譲渡価格1億円未満なら、最低手数料が最重要の比較項目
  • 数千万円規模なら、マッチングサイト、公的機関、造作譲渡も検討する
  • 契約前に書面で確認する。答えない業者は避ける

自社の規模でどの手段が現実的か知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

黒瀧 泰介

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。

2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。

監修者のプロフィールを詳しく見る →

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