【業種別】飲食・小売業のM&A売却相場

飲食・小売業のM&Aは、倍率が最も低くなりやすい業種です。参入障壁が低く、業績の変動が大きく、立地の賃借契約に依存するためです。
一方で、良い立地の賃借権そのものに価値が出るという、他業種にはない特徴もあります。規模によって現実的な出口が変わるので、そこから整理します。
相場のレンジ
EBITDA倍率ではおおむね2〜4倍。他業種と比べて低い水準です。
理由は明確で、買い手から見ると、
- 参入障壁が低い(同じ立地に自分で出店できる)
- 業績が景気、天候、流行に左右されやすい
- 人材の定着率が低い業種
- 賃貸借契約が切れれば事業が消える
ただしチェーン展開している会社は別です。10店舗以上を安定して運営し、業態が確立され、店舗運営が仕組み化されていれば、倍率は上がります。「店舗数」ではなく「仕組みで回っているか」が評価を分けます。
規模別の現実的な出口
飲食・小売は、規模によって取るべき手段が変わります。ここを間違えると、手数料で手残りが消えます。
| 規模 | 現実的な手段 |
|---|---|
| 1〜2店舗 | 造作譲渡(居抜き) または マッチングサイト |
| 3〜10店舗 | マッチングサイト、または中小案件に対応する仲介 |
| 10店舗以上 | M&A仲介。買い手(同業チェーン、投資会社)が付きやすい |
1〜2店舗の場合、M&A仲介を使うと費用倒れになります。譲渡価格が1,000万円でも、仲介の最低手数料が2,000万円なら成立しません(最低手数料の罠)。この規模では、造作譲渡かマッチングサイトが現実的です。
造作譲渡(居抜き)という選択肢
厨房設備、内装、什器をそのまま次の借主に譲る形です。会社や事業を売るのではなく、店舗の設備と賃借権を引き継いでもらう取引になります。
- 数百万円〜1,000万円台の取引が中心
- 原状回復費用を負担しなくて済むのが最大のメリット
- 貸主の承諾が前提。契約書で造作譲渡が認められているか確認が必要
廃業して原状回復に数百万円払うより、造作譲渡のほうが手残りが大きくなるケースは多い。1〜2店舗の会社は、まずこれを検討する価値があります。
価格を左右する要素
賃貸借契約 ― 最重要
飲食・小売のM&Aで、最初に確認されるのが賃貸借契約書です。
- 残存期間。あと1年なら、買い手はその事業を1年しか保証されない
- 更新の可否と条件。定期借家契約なら更新できないこともある
- 譲渡・転貸の可否。株式譲渡なら契約主体は変わりませんが、チェンジ・オブ・コントロール条項があると貸主の承諾が必要になります
- 保証金・敷金の額と、返還条件
- 賃料が相場と比べて安いか高いか
残存期間が短い、または貸主の承諾が得られない場合、価格は大きく下がるか、取引自体が成立しません。残存期間が短いなら、売却の話を進める前に更新しておくべきです。
店舗別の採算
複数店舗を持つ場合、店舗ごとの損益が出せるかどうかが問われます。
全社では黒字でも、赤字店舗が混ざっているのが普通です。買い手は赤字店舗を切り離して評価するか、その閉店コストを価格から引きます。
店舗別P/Lを整備しておくと、交渉が有利になります。「この3店舗は黒字で、この1店舗が足を引っ張っている」と説明できれば、黒字店舗の価値を主張できます。
立地と商圏
- 駅からの距離、人通り、視認性
- 商圏人口と競合の状況
- 再開発の予定(プラスにもマイナスにもなる)
業態とブランド
- 業態が確立しているか(メニュー、価格帯、オペレーションが標準化されているか)
- 商標を登録しているか
- SNS・口コミの評価とフォロワー
- レシピや仕入ルートが文書化されているか
「店長の腕」で成り立っている店は評価されません。誰が入っても同じ品質で出せる仕組みがあるかどうかです。
人材
- 店長クラスの残留意思
- アルバイトの定着率
- 社員とアルバイトの比率
人手不足が深刻な業種なので、スタッフが定着していること自体が価値になります。
引き下げる要因
- 未払残業代。みなし残業と実労働時間の乖離。この業種で最も指摘されやすい
- 衛生管理の不備、食中毒などの事故歴
- 設備の老朽化(厨房機器の更新時期)
- 特定の店長・料理人に依存している
- フランチャイズ加盟店の場合、本部の承諾が得られるか
- 現金商売ゆえの、売上計上の実態と帳簿の一致
最後の点は重要です。帳簿に載っていない売上があると、それは評価されません。むしろ帳簿の信頼性そのものが疑われ、全体の価格が下がります。
売る前にできること
- 賃貸借契約の更新(数ヶ月)。残存期間が短いなら最優先
- 店舗別P/Lの整備(3〜6ヶ月)。説明できるだけで交渉が変わる
- 労務の適正化(半年〜1年)。勤怠管理とみなし残業
- 赤字店舗の処理(半年〜1年)。閉めるか、改善するかを先に決める
- オペレーションの文書化(半年〜1年)。レシピ、仕入先、業務手順
まず手段を決める
飲食・小売は、どの手段を取るかで手残りが決まる業種です。1店舗なら造作譲渡、複数店舗ならマッチングサイトか仲介か。ここを間違えると、価格以前の問題になります。
自社の規模でどの手段が現実的かを含めて、無料相談からお問い合わせください。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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