個人オーナーと事業会社、どちらが高く売れているか

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年10月8日
個人オーナーと事業会社、どちらが高く売れているか

会社の値段は、会社の中身だけで決まるわけではありません。誰が売っているかでも変わります。

買い手名鑑の価格開示873件から、売り手の属性が開示に書かれているものを抜き出して集計しました。

結果

営業利益が黒字で、取得価額を営業利益で割れる取引だけを使っています。

売り手 件数 営業利益の倍率(中央値)
個人オーナー 415件 10.3倍
事業会社(親会社) 153件 8.5倍

個人オーナーのほうが高い倍率で売れています。

これは直感に反するかもしれません。大企業のほうが交渉力があり、高く売れそうに思えます。実際は逆です。

なぜ逆になるのか

事業会社の売却は「整理」だから

親会社が子会社を手放すとき、理由はたいてい選択と集中です。本業から外れた事業を整理する。その場合、親会社の目的は「高く売ること」より「きれいに手離れすること」になります。

名鑑にはっきり出ている例があります。

前田工繊 → 三井化学産資(2024年6月) 取得価額56億1,000万円に対して、対象会社の純資産は55億7,800万円。差額はほぼゼロで、のれんが乗っていません。

UTグループ → 富士通エフサス・クリエ(2021年8月) 51%の取得で1億7,800万円。対象会社の純資産7億4,200万円の持分見合いを大きく下回る水準です。

事業会社のノンコア整理は、純資産に近い水準で決まりやすい。これが名鑑から読める傾向です。

個人オーナーの会社にはのれんが乗る

一方、創業者が持っている会社は、買い手から見て代わりが効かないことが多いものです。

丸和運輸機関 → M・Kロジ(2022年6月) 純資産3億7,200万円に対して、取得価額40億6,600万円。差額の約37億円がのれんです。創業から12年で売上116億円まで伸ばした成長の速さが評価されています。

GENDA → フィリコ・ジャパン(2025年10月) 純資産1億400万円に対して6億4,300万円。売上2億6,700万円・営業利益1億2,000万円で、利益率45%。小さくても代わりがいない商品を持っていました。

ただし、この数字の読み方には注意がいります

中央値だけを見て「個人のほうが有利だ」と単純に結論しないでください。理由が2つあります。

1. 倍率が高い案件は、利益率が低い業種に偏っています

営業利益率が1〜3%しかない物流や資材卸では、営業利益がわずかに動くだけで倍率が大きく振れます。この層の案件が平均を押し上げたり下げたりします。利益率が薄い会社は、営業利益の倍率ではなく純資産や売上との比で見るほうが実態に近いです(EBITDA倍率で見る自社の相場)。

2. 公表されている案件に偏りがあります

取得価額が非開示の取引は924件あります。相手が個人のときは「相手先が個人であるため」として伏せられやすく、金額を出してよいと判断された案件に集計が寄っています。

売り手として何に使えるか

この差は、交渉で使える材料になります。

あなたが創業オーナーなら、のれんが乗る余地があります。ただし自動的に乗るわけではありません。名鑑でのれんが厚かった案件に共通していたのは次の3つです。

  • 成長が速い(M・Kロジは12年で売上116億円)
  • 利益率が高い(フィリコ・ジャパンは営業利益率45%)
  • 特化していて代わりがいない(BuySell Technologiesが買ったレクストホールディングスはリユース専業)

逆に、「地域で長くやってきた」「取引先が安定している」だけでは、純資産に近い水準に寄ります。買い手が「どうしても欲しい」と思う理由を作れるかどうかが、この差を生みます(高く売るために何をするか)。

親会社として子会社を手放す立場なら、期待値を下げておいたほうが交渉が進みます。純資産近辺が出発点になることを前提に、譲渡後の取引継続や従業員の処遇といった価格以外の条件で詰めるほうが実利があります。

ファンドが売り手の場合

名鑑には、投資ファンドが売り手の取引も入っています。

GENDA → カジ・コーポレーション(2025年10月) 売り手はアドバンテッジパートナーズのファンド4本で100%保有。カラオケ機器ディーラー業界1位の会社です。

一度ファンドに売った会社が、次に事業会社へ渡る。この流れは珍しくありません。ファンドは出口を前提に買うので、数年後に別の相手へ移ることを織り込んでおく必要があります(売った会社はその後どうなったか)。

まとめ

  • 個人オーナー10.3倍、事業会社8.5倍。個人のほうが高い倍率で売れている
  • 事業会社の整理案件は純資産近辺で決まりやすく、のれんが乗りにくい
  • 個人オーナーの会社にのれんが乗るのは、成長が速い・利益率が高い・代わりがいない場合
  • 母数は公表された案件に偏っている。目安として使う

自社にのれんが乗る余地があるか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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