のれん(営業権)はどう値付けされるのか

「のれん代はいくら付きますか」という質問をよくいただきます。
しかし正確に言えば、のれんは先に計算されるものではありません。譲渡価格が決まった結果として、時価純資産を超えた部分が「のれん」と呼ばれるだけです。
のれん = 譲渡価格 − 時価純資産
年買法で言えば、「正常営業利益 × 3〜5年分」がのれんに相当します。つまり、のれんの正体は「これから稼ぐ利益の何年分か」です。
のれんを生むもの
決算書に載っていないのに、買い手が対価を払う対象。それがのれんの中身です。
顧客との関係 継続的な取引先、リピート顧客、会員基盤。新規参入では一から作るのに何年もかかります。
許認可・免許 建設業の特定建設業許可、運送業の一般貨物許可、産業廃棄物処理業の許可。買い手が自前で取るには年単位かかるものが、即日手に入るという意味を持ちます。
人材 有資格者、技術者、営業。採用難の職種を抱えていること自体が価値になります。中小M&Aで「人手ごと買う」動機は年々強まっています。
ブランド・実績 その地域での知名度、元請けとの取引実績、業界内での評価。
技術・ノウハウ 特殊工法、独自の生産技術、蓄積されたデータ。
立地 小売・飲食では、良い立地の賃借権そのものが価値になります。
のれんが付かない会社
逆に、時価純資産までしか価格が出ないケースもあります。
- 営業利益が赤字、またはほぼゼロ。将来の利益がないので、上乗せの根拠がない
- 利益が社長個人に紐づいている。社長が抜ければ利益も消えるため、買い手は上乗せを払えない
- 売上が1社に集中している。その取引が切れたら終わりなので、リスク分だけ差し引かれる
- 業界が縮小局面にある。過去の利益が続く前提が置けない
「うちは資産がないから安くしか売れない」と思っている社長ほど、実はのれんが付くことがあります。IT・サービス業のように資産を持たない会社でも、人材と顧客基盤があれば時価純資産の何倍もの価格が付きます。
逆に、不動産を多く持つ会社は時価純資産が厚い一方、のれんが薄いということも起こります。
買い手側の会計処理が交渉に影響する
ここは知っておくと交渉で役に立ちます。のれんは買い手にとってコストになります。
日本の会計基準では、買い手は計上したのれんを20年以内の期間で規則的に償却します。10億円ののれんを10年で償却すれば、毎年1億円が費用として利益を圧迫します。
つまり買い手にとって、のれんが大きいほど買収後の損益計算書が重くなる。上場企業なら投資家への説明が必要になり、金融機関からの借入で買うなら返済原資の計算にも影響します。
「のれんを何年で回収できるか」が、買い手の上限価格を決めていることが多い。「営業利益の3年分が限界です」という発言の背景には、この計算があります。
さらに、買収後に業績が想定を下回ると減損損失を計上することになります。これは買い手が最も避けたい事態です。だからこそデューデリジェンスで利益の持続性を厳しく見ます。
なお株式譲渡の場合、買い手の個別財務諸表にのれんは立たず、連結決算や、買い手が個人・小規模法人の場合は扱いが変わります。事業譲渡なら買い手側で資産調整勘定として税務上の損金にできるなど、手法によって買い手のメリットが異なるため、これが手法選択の議論に絡んできます(株式譲渡と事業譲渡の違い)。
のれんを大きくするには
結局のところ、売却価格を上げる打ち手と同じ話になります。のれんの源泉は「持続する利益」だからです。
利益が社長個人から切り離されているか。これが最も効きます。仕組みで回っている会社ほど、掛ける年数が伸びます。
顧客が分散しているか。上位1社が30%未満なら問題視されにくく、50%を超えると引き下げ要因になります。
継続的・反復的な収益があるか。保守契約、定期配送、リピート率。単発の受注より高く評価されます。
利益が安定または成長しているか。3期の推移に一貫性があること。
参入障壁があるか。許認可、有資格者、技術。これらは金額以上に効くことがあります。
「のれん代」という言葉に注意
商談で「のれん代を◯◯万円で見ています」と言われたら、それは時価純資産をいくらと評価しているかとセットで確認してください。
のれんが大きく見えても、時価純資産を低く見積もられていれば、合計の譲渡価格は同じです。判断すべきは、のれんの大小ではなく、譲渡価格の総額と手取りです。
そして時価純資産の評価には、不動産の含み損益、不良在庫、回収不能な売掛金、退職給付引当の不足といった調整が入ります。この内訳を必ず見せてもらってください(年買法とは)。
自社にどのくらいののれんが付きそうか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば試算できます。
監修

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表
青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。
2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。
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