年買法(年倍法)とは ― 中小M&Aで最も使われる価格算定

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月26日
年買法(年倍法)とは ― 中小M&Aで最も使われる価格算定

年買法(ねんばいほう)は、次の式で譲渡価格を求める考え方です。年倍法と表記されることもあります。

譲渡価格 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 年数(通常3〜5年)

学術的な企業価値評価の教科書には出てきません。それでも中小M&Aの現場でこれが使われ続けているのは、売り手と買い手の双方が納得しやすい構造をしているからです。

計算してみる

年商6億円の製造業を例にします。

ステップ1:時価純資産を出す

項目 帳簿価額 時価 差額
純資産(帳簿) 1億2,000万円 — —
土地(含み益) 8,000万円 1億3,000万円 +5,000万円
回収不能な売掛金 1,500万円 0円 −1,500万円
不良在庫 2,000万円 800万円 −1,200万円
退職給付引当の不足 — — −2,000万円

時価純資産 = 1億2,000万円 + 5,000万円 − 1,500万円 − 1,200万円 − 2,000万円 = 1億2,300万円

ステップ2:営業利益を正常化する

項目 金額
決算書上の営業利益 3,000万円
社長の役員報酬 2,800万円 のうち適正超過分 +1,600万円
節税目的の保険料 +400万円
社長の車両・接待など私的性格の経費 +300万円
一過性の補助金収入 −200万円

正常営業利益 = 5,100万円

ステップ3:年数を掛けて足す

  • 3年分の場合:1億2,300万円 + 1億5,300万円 = 2億7,600万円
  • 5年分の場合:1億2,300万円 + 2億5,500万円 = 3億7,800万円

決算書だけを見ていた社長が「うちは営業利益3,000万円だから、せいぜい1億円台か」と思っていたところ、実際の出発点は2億7,000万円以上になる。正常化の工程を知っているかどうかで、社長の期待値そのものが変わります。

なぜこの方法が使われるのか

理由1:説明できる

「今ある財産に、これから稼ぐぶんの何年分かを乗せる」という説明は、財務の専門家でなくても理解できます。M&Aは売り手にとって一生に一度の取引であり、納得できない価格には判を押せません。DCF法のように前提条件の束で計算する方法は、精緻である一方、社長が「なぜその数字なのか」を腹に落としにくい。

理由2:買い手にとっての回収期間と一致する

「営業利益の3年分」は、買い手から見れば3年で投資を回収できる価格という意味です。中小M&Aの買い手の多くは事業会社であり、金融的なリターン計算より「何年で元が取れるか」で判断します。年買法はその感覚と直接つながっています。

理由3:交渉の言語になる

「4年分でお願いしたい」「3年分が限界です」という会話は、価格そのものを直接ぶつけ合うより角が立ちません。年数という共通の物差しがあることで、交渉が成立しやすくなります。

この方法の限界

年買法は万能ではありません。使う側が限界を理解していないと、判断を誤ります。

将来の変化を織り込めない。 過去の利益に年数を掛けるだけなので、来期から大口取引が始まる会社も、主要顧客との契約が切れる会社も、同じ計算になります。伸びている会社ほど、年買法では過小評価されがちです。

赤字の会社や、資産が薄い会社には使えない。 営業利益がマイナスなら、時価純資産だけが価格になります。しかしIT・サービス業のように資産をほとんど持たない会社では、時価純資産も小さい。この場合は別の考え方(顧客数、技術者数、経常収益の倍率など)が必要になります。

「年数」に客観的な根拠がない。 3年か5年かを決める明確なルールはありません。結局は交渉力と買い手候補の数で決まります。ここを仲介会社任せにすると、なぜその年数なのかを説明されないまま話が進みます。

社長が確認すべきこと

年買法で提示された価格を受け取ったら、次の3点を必ず質問してください。

  1. 正常化の内訳を見せてほしい。 どの費用を利益に戻し、どれを戻さなかったのか。ここに社長の認識と差があることが多い
  2. 時価純資産の評価根拠。 特に不動産、在庫、売掛金、そして退職給付や未払残業代といった簿外の負債をどう見たか
  3. 年数の根拠。 なぜ3年なのか。何をすれば4年、5年になるのか

3つ目の答えが、そのまま売却価格を上げるための行動リストになります。

自社の正常営業利益がいくらになるのか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば試算できます。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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