会社はいくらで売れるのか ― 中小企業の売却相場の考え方

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月27日
会社はいくらで売れるのか ― 中小企業の売却相場の考え方

「うちの会社は、いくらで売れるのか」

M&Aを考え始めた社長が最初に知りたいのは、ほぼ例外なくこの一点です。ところが調べても「企業価値評価にはDCF法、類似会社比較法、時価純資産法があり……」という教科書的な説明ばかりが出てきて、自社の数字に当てはまらない。

先に結論を書きます。年商1〜30億円規模の中小企業のM&Aで、実務上いちばん多く使われる出発点は次の式です。

譲渡価格 = 時価純資産 + 営業利益 × 3〜5年分

これは「年買法(ねんばいほう)」または「年倍法」と呼ばれる考え方です。理論的に最も精緻な方法ではありませんが、中小M&Aの現場ではこれが事実上の共通言語になっています。

なぜ「相場」と一言で言えないのか

同じ年商5億円の会社でも、売却価格が3,000万円になることもあれば、3億円になることもあります。理由は単純で、買い手が買っているのは売上ではなく、将来にわたって出続ける利益だからです。

年商が同じでも、営業利益が2,000万円出ている会社と、赤字すれすれの会社では話が違います。さらに、その利益が社長個人の営業力に依存しているのか、仕組みとして回っているのかでも評価は変わります。前者は「社長が抜けたら利益も消える」ため、買い手は価格を下げるか、社長に数年の残留を求めます。

つまり相場を知るというのは、平均値を調べることではなく、自社の利益がどういう性質の利益なのかを見極めることに近いのです。

価格算定の3つのアプローチ

企業価値の算定方法は、大きく3つに整理できます。

アプローチ 代表的な手法 何を根拠にするか 中小M&Aでの使われ方
コストアプローチ 時価純資産法 今持っている資産の価値 年買法の土台として必ず使う
インカムアプローチ DCF法 将来生み出すキャッシュ 大型案件が中心。中小では参考程度
マーケットアプローチ 類似会社比較法(EBITDA倍率) 似た会社がいくらで取引されたか 業種の相場観をつかむのに使う

中小M&Aで年買法が支持されるのは、この3つのうちコストアプローチとインカムアプローチを、社長にも買い手にも理解できる形で足し合わせたものだからです。「今ある財産」に「これから稼ぐぶんの何年分か」を上乗せする、という説明は直感的で、交渉のテーブルに載せやすい。

一方でDCF法は、5年先10年先の事業計画を前提に計算します。中小企業でその精度の計画を作るのは現実的でないことが多く、前提を少し動かすだけで結論が大きく変わるため、売り手にとっても納得しにくい数字になりがちです。

「営業利益」はそのまま使わない

年買法で最も重要なのは、実は掛ける年数ではなく、土台になる利益をどう計算するかです。

中小企業の決算書上の営業利益は、多くの場合そのままでは使えません。買い手は次のような調整をして、正常収益力を割り出します。

  • 社長やご家族の役員報酬のうち、相場を超える部分は利益に戻す
  • 節税目的の保険料、私的な支出に近い経費は利益に戻す
  • 逆に、社長が無報酬に近い場合は、後任を雇う人件費を利益から引く
  • 一過性の特別利益・特別損失は除く
  • 遊休不動産など事業に使っていない資産は、価格から切り離して別途評価する

役員報酬を年3,000万円取っている社長の会社で、適正な後任者の報酬が1,200万円だとすれば、差額の1,800万円は本来の収益力に戻ります。この調整だけで、譲渡価格が1億円近く動くことも珍しくありません。

決算書を「節税のために利益を圧縮した書類」として作り続けてきた会社ほど、この調整の説明が価格を左右します。

掛ける年数「3〜5年」は何で決まるか

同じ営業利益でも、3年分か5年分かで価格は大きく変わります。ここを動かすのは、おおむね次の要素です。

上振れする要因

  • 特定の取引先への依存度が低く、顧客が分散している
  • 社長が現場を離れても回る組織になっている
  • 許認可、免許、有資格者など、買い手が自前で揃えるには時間がかかるものを持っている
  • 業界内で買い手候補が複数いて、競争が働く
  • 利益が数年にわたって安定している、または伸びている

下振れする要因

  • 売上の大半を1社に依存している
  • 社長個人の人脈・技術に利益が紐づいている
  • 簿外債務、未払残業代、係争など、デューデリジェンスで出てくる不安要素がある
  • 業界そのものが縮小局面にある
  • 決算書の信頼性が低い(在庫や売掛金の実在性が説明できない)

許認可や有資格者を抱えている場合、買い手にとっては「自前で取るには3年かかるものが即日手に入る」という意味を持ちます。この種の要素は、利益の額以上に価格を押し上げることがあります。

算定額と成約額は、必ずずれる

ここが最も誤解されやすい点です。算定はあくまで交渉の出発点であり、最終価格ではありません。

実際の価格は、次の3つで決まります。

  1. 買い手が誰か。 同業の競合が「顧客リストごと押さえたい」と考えれば、算定額を大きく超えることがあります。一方、投資リターンだけを見るファンドは理論値を超えにくい
  2. 買い手が何社いるか。 1社としか話していない案件と、3社が並行して検討している案件では、当然結果が変わります
  3. デューデリジェンスで何が出るか。 基本合意の後の調査で問題が見つかれば、価格は下方修正されます

だからこそ、売る前の1〜3年でできる準備が価格に直結します。決算書の整理、取引先の分散、社長依存の解消、簿外債務の解消。これらは売却の直前には間に合いません。

まず何をすればいいか

自社のおおよその位置を知るには、決算書3期分があれば十分です。時価純資産を出し、営業利益を正常化し、3〜5年分を乗せてみる。その数字が想像より高いか低いかで、次に取るべき手が変わります。

想像より低ければ、売る前にやるべきことがあるということです。想像より高ければ、「まだ早い」と思っているうちが、実はいちばん高く売れる時期かもしれません。買い手は伸びている会社を買いたがるからです。

具体的な数字が知りたい場合は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分をもとに、おおよその見立てをお伝えします。売却を決めていない段階のご相談で構いません。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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