会社売却でかかる税金 ― 株式譲渡益20.315%の基本

監修 黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表公開 2026年8月24日
会社売却でかかる税金 ― 株式譲渡益20.315%の基本

会社を売って1億円を受け取ったとき、手元にいくら残るのか。ここを知らないまま価格交渉をしている社長が、実は少なくありません。譲渡の形式によって税負担は大きく変わり、同じ1億円でも手取りが2,000万円近く違うことがあります。

なお本記事は一般的な制度の解説です。実際の税額は個別事情で変わりますので、具体的な判断は必ず顧問税理士にご確認ください。

株式譲渡の場合 ― 20.315%の分離課税

オーナー社長が自社株を買い手に売る「株式譲渡」が、中小M&Aで最も一般的な形です。この場合、社長個人に譲渡所得が生じます。

譲渡所得 = 譲渡価格 −(取得費 + 譲渡費用)

これに対して、次の税率がかかります。

内訳 税率
所得税 15%
復興特別所得税 0.315%
住民税 5%
合計 20.315%

重要なのは、これが申告分離課税である点です。給与所得や事業所得と合算されないため、いくら大きな金額でも累進税率で50%超に跳ね上がることはありません。譲渡益が1億円でも10億円でも、税率は20.315%で一定です。

なお復興特別所得税は2037年まで続きます。また2027年からは、基準所得金額が3.3億円を超える部分に追加課税が入る仕組み(いわゆるミニマムタックス)が適用されます。譲渡益が数億円規模になる場合は、この影響を事前に税理士へ確認してください。中小M&Aの大半の価格帯では対象外です。

取得費をどう見るか

取得費は、その株式を手に入れるのにかかった金額です。創業社長であれば、設立時の出資額がこれにあたります。資本金1,000万円で創業し、3億円で売却したなら、

譲渡所得 = 3億円 − 1,000万円 − 譲渡費用

となり、創業社長ほど取得費が小さく、譲渡益が大きくなる構造です。

取得費が不明な場合(相続で引き継いだ株など)は、譲渡価格の5%を取得費とみなすことが認められています。ただし実際の取得費を証明できるならそちらが有利なことが多いので、古い資料でも探す価値があります。

譲渡費用には、M&A仲介会社への手数料やFA報酬、専門家費用が含まれます。仲介手数料は数千万円規模になることもあるため、これを譲渡費用として計上できるかどうかで税額が変わります。契約書と請求書は必ず保管してください。

事業譲渡の場合 ― 二段階で課税される

事業の一部だけを売る、あるいは買い手が簿外債務のリスクを避けたいといった理由で、事業譲渡の形を取ることがあります。この場合、税の流れがまったく変わります。

  1. 会社が事業を売り、売却益に法人税等(実効税率およそ30%前後)がかかる
  2. 会社に残った資金を社長個人が受け取るには、配当か退職金という形を取る必要があり、そこでもう一度課税される

配当として受け取ると総合課税の対象になり、他の所得と合算されて累進税率が適用されます。結果として、株式譲渡より手取りが大きく目減りするのが通常です。

売り手にとっては株式譲渡が有利で、買い手にとっては事業譲渡が安全、という利害の対立がここにあります。どちらの形式で進めるかは価格と同じくらい重要な交渉事項です。

役員退職金との組み合わせ

株式譲渡と同時に、社長に役員退職金を支払う設計がよく使われます。これは節税というより、受け取り方を分けることで税負担を下げる方法です。

退職所得は、次のように計算されます。

退職所得 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2

退職所得控除額は勤続年数で決まり、20年を超える部分は1年あたり70万円です。勤続35年なら控除額は1,850万円になります。そのうえ残額の1/2だけが課税対象になり、さらに分離課税です。

たとえば譲渡対価3億円のうち、5,000万円を退職金として、2億5,000万円を株式の対価として受け取る、といった配分を検討します。どの配分が最も有利かは、勤続年数、退職金の適正額(不相当に高額な部分は損金にならない)、会社に残る現金の額によって変わります。

なお、役員としての勤続年数が5年以下の場合は1/2にする措置が使えません(特定役員退職手当等)。この場合、控除後の全額が退職所得になります。

もうひとつ、2026年1月から退職所得控除の調整ルールが「5年」から「10年」に延長されました。iDeCoの一時金などを先に受け取っている場合、控除枠が重複調整される期間が長くなっています。過去に一時金を受け取った経験がある社長は、受取の順序とタイミングで税額が変わるため、必ず事前に確認してください。

手取りを試算してみる

創業35年、資本金1,000万円の会社を3億円で譲渡し、仲介手数料が2,000万円かかったケースで比べます。

ケースA:全額を株式譲渡で受け取る

  • 譲渡所得 = 3億円 − 1,000万円 − 2,000万円 = 2億7,000万円
  • 税額 = 2億7,000万円 × 20.315% ≒ 5,485万円
  • 手取り ≒ 2億2,515万円(受取総額3億円 − 手数料2,000万円 − 税5,485万円)

ケースB:5,000万円を退職金、2億5,000万円を株式譲渡

  • 退職所得 =(5,000万円 − 1,850万円)× 1/2 = 1,575万円 → 所得税・住民税でおよそ400万円台
  • 譲渡所得 = 2億5,000万円 − 1,000万円 − 2,000万円 = 2億2,000万円 → 税額 ≒ 4,469万円
  • 合計の税負担がケースAより数百万円軽くなる

※ 概算です。実際には住民税の計算、社会保険料、会社側で退職金が損金算入できるかなどで結果が動きます。

社長が確認しておくべきこと

  • 株式譲渡か事業譲渡か。 手取りが最も大きく変わる分岐点です
  • 取得費を証明できるか。 設立時の資料、増資の記録を確認しておく
  • 仲介手数料を譲渡費用に入れられるか。 契約書・請求書の保管
  • 退職金との配分。 勤続年数と適正額を踏まえた設計
  • 納税のタイミング。 譲渡した年の翌年に確定申告と納付が来ます。受け取った資金をすぐ運用に回すと、納税資金が不足することがあります

最後の点は見落とされがちです。3月の納付時期に慌てないよう、税額分は分けて確保しておいてください。

自社のケースでどのくらい手元に残るのか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書と役員の勤続年数がわかれば、おおよその試算ができます。

監修

黒瀧 泰介

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。

2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。

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