事業譲渡の税金は株式譲渡とどう違うか

監修 黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表公開 2026年8月9日
事業譲渡の税金は株式譲渡とどう違うか

事業譲渡と株式譲渡では、税の流れがまったく違います。そして売り手の手取りは、株式譲渡のほうが大きくなるのが通常です。

この記事では、その差がどこから生まれるのかを整理します。なお本記事は一般的な制度の説明です。実際の判断は必ず顧問税理士とご相談ください。

税の流れが二段階になる

株式譲渡では、社長個人が株式を売り、譲渡益に20.315%の分離課税がかかって終わりです(会社売却でかかる税金)。

事業譲渡では、こうなります。

【1段階目】会社が事業を売る
   売却益 → 法人税等(実効税率およそ30%前後)

【2段階目】会社に残った資金を社長が受け取る
   配当 → 総合課税(累進税率)
   または
   役員退職金 → 退職所得(優遇あり)

「会社が売って、そのお金を社長が受け取る」ため、二度課税されるというのが本質です。

1段階目|会社にかかる法人税

事業譲渡による売却益は、次のように計算されます。

売却益 = 譲渡対価 − 譲渡する資産・負債の簿価

譲渡対価が1億円で、譲渡する資産の簿価が2,000万円なら、売却益は8,000万円。これに法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税が課され、実効税率はおおむね30%前後になります。

税額は約2,400万円。会社に残るのは約7,600万円です。

繰越欠損金があれば相殺できる

事業譲渡が有利になり得る数少ないケースです。会社に繰越欠損金があれば、売却益と相殺して法人税を圧縮できます。

過去に大きな赤字を出した会社では、この効果が数千万円規模になることがあります。欠損金の残高と、繰越期限を確認してください。

2段階目|社長が受け取るときの課税

会社に残った資金を社長個人が受け取る方法は、主に2つです。

配当として受け取る

総合課税の対象になり、給与など他の所得と合算されて累進税率が適用されます。配当控除はありますが、金額が大きくなると税負担は30〜40%台に達し得ます。

株式譲渡の20.315%と比べると、明らかに不利です。

役員退職金として受け取る

こちらのほうが有利です。退職所得控除が引かれ、残額の1/2だけが課税対象になり、分離課税で計算されます(役員退職金を使った手取り最大化)。

このため事業譲渡では、退職金の活用が株式譲渡以上に重要になります。ただし不相当に高額な部分は損金にならないため、功績倍率法での適正額の範囲に収める必要があります。

会社を清算する場合

事業譲渡後に会社を解散・清算すると、残余財産の分配を受けることになります。この場合、みなし配当として課税される部分が生じます。ここも総合課税の対象です。

清算のスキームは複雑で、税額が大きく変わります。必ず税理士と設計してください。

消費税も発生する

事業譲渡では、譲渡する資産のうち課税資産に消費税がかかります。

課税されるもの:棚卸資産、建物、機械設備、車両、のれん(営業権) 課税されないもの:土地、有価証券、債権(売掛金など)

負担するのは買い手ですが、買い手の総支出が増えるため、提示価格が下がる方向に働きます。実質的には売り手にも影響します。

なお売り手側は、預かった消費税を申告・納付する必要があります。譲渡対価とは別に、この納税資金を確保しておいてください。

手取りを比べる

譲渡対価1億円のケースで、大まかに比較します(概算です)。

株式譲渡 事業譲渡
1段階目 — 法人税等 約2,400万円
2段階目 譲渡益に20.315% 配当または退職金として課税
仲介手数料 800万円 800万円
手取りの目安 約7,500万〜7,900万円 5,000万円台

差は2,000万円を超えます。詳細な計算は手取りシミュレーションにまとめました。

それでも事業譲渡を選ぶ場面

税負担が重いにもかかわらず、事業譲渡が合理的なケースもあります。

1. 一部の事業だけを売りたい。本業は続けながら、不採算部門や非中核事業を手放す。株式譲渡では会社ごと渡すことになるため、これはできません。

2. 繰越欠損金がある。売却益と相殺でき、1段階目の税負担が抑えられます。

3. 会社を残したい事情がある。資産管理会社として使い続ける、不動産だけ手元に残す、など。

4. 買い手がどうしても株式譲渡に応じない。簿外債務のリスクを避けたい買い手が、事業譲渡を強く求めるケースです。

買い手が事業譲渡を求めてきたら

その理由を具体的に聞いてください。多くは、契約条項や事前の整理で解決できます。

  • 未払残業代が心配 → 労務デューデリジェンスを受け入れ、必要なら事前精算する
  • 不要資産が付いてくる → クロージング前に会社から切り出す
  • 係争リスク → 表明保証と補償条項でカバーする

それでも事業譲渡になるなら、手取りベースで価格を再交渉してください。「3億円の事業譲渡」と「3億円の株式譲渡」は、売り手にとってまったく別の話です。手取りが同額になる価格を計算し、その数字で交渉します。

許認可の問題も忘れずに

税金の話とは別ですが、事業譲渡では許認可が原則として引き継がれません。

業種によっては買い手が取り直す必要があり、その間は営業できません。ただし建設業のように、事前の認可で承継できる制度がある業種もあります(株式譲渡と事業譲渡の違い)。

許認可が事業の前提になっている業種では、事業譲渡は買い手にとっても不利です。これは株式譲渡を選ぶ交渉材料になります。

まとめ

  • 事業譲渡は法人税+個人の課税で二段階
  • 消費税も発生し、買い手の総支出が増える
  • 手取りは株式譲渡より2,000万円以上少なくなり得る
  • 有利になるのは繰越欠損金がある場合、一部事業だけ売る場合
  • 買い手に求められたら、理由を聞き、手取りベースで価格を再交渉する

自社のケースでどちらが有利か知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。具体的な税額計算は顧問税理士と進めていただく前提で、方向性の見立てをお伝えします。

監修

黒瀧 泰介

黒瀧 泰介税理士法人グランサーズ 共同代表

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒業。監査法人トーマツにて会計監査に従事したのち、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルティングや組織再編コンサルティングなど、法人・個人を問わず幅広い税務コンサルティング業務に携わる。

2015年に税理士法人グランサーズを開設。スタートアップからIPO準備支援まで、あらゆる成長段階の企業をサポートし、税務会計顧問にとどまらない「経営を強くするコンサルティング」で中小企業経営者から信頼を得ている。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」に税理士として出演し、オーナー経営者向けの税務・資産防衛について解説している。

監修者のプロフィールを詳しく見る →

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