1円で売られた会社 ― 値段がつかないとはどういうことか

会社が売れることと、値段がつくことは別です。
買い手名鑑に集めた873件の価格開示のうち、1円以下または無償だった取引が22件あります。1,000万円以下まで広げると43件です。
いずれも上場企業が公表した正式な開示で、金額が伏せられているわけではありません。本当に1円です。
実際の案件
ウイルプラスホールディングス → OGUNI(2026年5月) 創業1972年、売上16億3,200万円の輸入車ディーラー。純資産はマイナス6,700万円→マイナス8,900万円→マイナス1億7,200万円と債務超過が広がり、営業損失も続いていました。株式の取得価額は0.375円。
同日 → PHA 売上12億7,500万円、営業利益2,000万円、純資産5,800万円。3期とも増収増益です。それでも取得価額は0.625円。
RIZAPグループ → ビーアンドディー 売上72億6,200万円、営業損失2億9,300万円。株式の取得価額は1円で、別途アドバイザリー費用等が約500万円。
ジェリービーンズグループ → チチカカ 売上14億300万円、純資産マイナス5億円。取得価額1円。
GMOプロダクトプラットフォーム → サイバーエージェントの『ドットマネー事業』 譲受価額0円(無償)。金銭の授受なしと明記されています。
クリエイト・レストランツ・ホールディングス → 香港創造餐飲管理有限公司(2026年10月) 香港の飲食子会社。売上は3期で5億2,100万円→4億800万円→2億5,600万円と半減し、営業損失500万円、純資産マイナス2億6,700万円。譲渡価格は1香港ドルでした。譲渡先は、もともと事業上のパートナーだった現地のデジタル制作会社です。
2件目に注目してください
PHAは黒字で、純資産もプラスで、3期連続で増収増益です。それでも0.625円でした。
理由は開示に書かれています。同じ日に、債務超過のOGUNIとセットで取引されたからです。2社まとめて引き受ける前提の価格で、片方の負担をもう片方で相殺する形になっています。
ここから読めることは重いものです。自社が健全でも、一緒に売る相手や売り方で結果は変わります。「グループでまとめて引き取ってほしい」と頼んだ結果、健全な会社の価値が相殺されることがあります。
値段がつかない会社の共通点
43件を並べると、次のどれかに当てはまります。
1. 債務超過が続いている 引き取る側は借金ごと背負います。純資産のマイナス幅が、事業から見込める利益を上回ると、株式の値段はゼロに張り付きます。
2. 営業赤字が構造化している 1期の赤字ではなく、何年も続いていて止まる見通しが立たない状態です。
3. 売上が落ち続けている 利益だけでなく取引基盤そのものが縮んでいると、買い手は「立て直す」ではなく「畳む手伝い」の計算を始めます。
4. 法的整理の中にある 会社更生や民事再生の手続きの中でスポンサーが入る形では、既存株式は100%減資で消えるのが通常です。システムソフトがマツオインターナショナルを引き受けた案件(純資産マイナス21億7,200万円)がこの形でした。
それでも1円で売る意味はあるのか
あります。むしろ、ここを誤解している方が多いところです。
1円で譲渡したOGUNIは、創業1972年の顧客基盤も店舗も従業員も、そのまま引き継がれています。廃業していれば、全部なくなっていました。
比べるべきは「高く売れたかどうか」ではなく、「廃業した場合と比べてどうか」です。
| 1円で譲渡 | 廃業 | |
|---|---|---|
| 従業員の雇用 | 引き継がれる | 解雇 |
| 取引先との関係 | 続く | 終わる |
| 社名・看板 | 残ることが多い | 消える |
| オーナーの手取り | ほぼゼロ | 清算費用がかかる(持ち出し) |
| 個人保証 | 外れることが多い | 残債があれば残る |
廃業には費用がかかります。1円でも引き受け手が現れるなら、手取りがゼロでも経済的にはプラスです(廃業と売却、どちらを選ぶか)。
個人保証が外れるかどうかも大きい論点です(経営者保証はどうなるか)。
そこに至る前にできること
1円になる会社は、ある日突然そうなるわけではありません。名鑑の案件を遡ると、たいてい3〜5年かけてそこに近づいています。
- 1期目の赤字で動いていれば、選べる相手がいた
- 売上が落ち始めた時点なら、取引基盤に値段がついた
- 債務超過になる前なら、純資産が下値を支えた
いちばん多い失敗は「もう少し様子を見る」です。業績が戻ってから売ろうとして、戻らないまま年数だけ過ぎる。名鑑の数字を見るかぎり、待って条件がよくなった形跡はほとんどありません(売り時はいつか)。
まとめ
- 1円・無償の譲渡は名鑑に22件。1,000万円以下なら43件
- 黒字の会社でも、売り方しだいで1円になることがある
- 値段がつかないのは、債務超過・構造的赤字・売上減・法的整理のいずれか
- それでも廃業よりはよい。比べる相手を間違えない
- 1円になるかどうかは、動き出すタイミングでほぼ決まっている
今の自社がどのあたりにいるのか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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