会社分割で「一部だけ」売る ― 開示136件の使われ方

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年10月9日
会社分割で「一部だけ」売る ― 開示136件の使われ方

「全部は売りたくない。この事業だけ引き取ってほしい」

会社売却の説明は株式譲渡を前提に書かれていることが多いのですが、実際の取引を見ると、一部だけを切り出す形がかなりの数あります。

買い手名鑑の1,797件のうち、会社分割を使ったものが136件、事業譲受が186件。合わせると全体の2割近くになります。

3つのやり方の違い

株式譲渡 事業譲渡 会社分割
渡すもの 会社そのもの 選んだ資産と契約 事業のまとまり
契約の引き継ぎ 自動 1件ずつ相手の同意が必要 原則まとめて移る
許認可 原則そのまま 取り直し 業種により引き継げる
負債 全部ついてくる 選べる 分割契約で決める
手続きの重さ 軽い 中 重い(債権者保護手続きなど)

会社分割の利点は、契約や従業員をまとめて移せることです。事業譲渡だと取引先1件ずつに同意をもらう必要がありますが、会社分割なら原則まとめて承継されます。

その代わり手続きは重くなります。詳しい比較は株式譲渡と事業譲渡の違いもあわせてご覧ください。

実際にどう使われているか

名鑑の案件を読むと、使われ方が4つに分かれます。

1. 買い手が欲しい事業だけを切り出す

ALSOK → 東武デリバリーの警備輸送事業 東武デリバリーが新会社を作り、警備輸送事業を吸収分割で移したうえで、その新会社の全株式をALSOKが取得しています。売り手は会社を手放さず、ひとつの事業だけを渡しました。

ALSOKはこの形を繰り返し使っており、テルウェル東日本の警備事業、日産クリエイティブサービスのセキュリティ・ビルメンテナンス事業も同じ組み立てです。

2. 売りたくないものを先に抜く

ニッソウ → ささき 売り手が先に不動産事業を会社分割で切り離してから、リフォーム事業だけを株式譲渡しています。

MUSCAT GROUP → HaD 譲渡の直前に、対象外の事業を分割で外しています。

GENDA → ゲームグース 株主が新会社を設立し、売らない事業をそちらへ移してから、店舗1つだけを残した会社の株式を渡しました。

社長個人で持っておきたい不動産や、思い入れのある別事業を手元に残す。これがいちばん多い使い方です。

3. 債務超過の事業を生かす

WOLVES HAND → 飛鳥メディカルの医療機器事業 分割会社は純資産マイナス1億8,100万円の債務超過でしたが、営業利益は1,500万円出ていました。会社ごとではなく事業だけを新会社に移し、その株式を取得しています。

借金ごと引き受けるのは重い。しかし事業には価値がある。この分け方ができたから成立した案件です(債務超過でも会社は売れるのか)。

4. 法的整理の受け皿にする

ロゴスホールディングス → アエラホームの注文住宅事業 民事再生手続の中で、スポンサーとして新設した受け皿会社に事業を移す形を取っています。

売り手が気をつけること

税金の扱いが株式譲渡と違います。

株式譲渡なら、売却代金は株主である社長個人に入り、分離課税で約20%です。一方、事業譲渡や会社分割で会社が対価を受け取ると、まず法人に入ります。そこから社長個人に移すには、役員退職金や配当といった別の段取りが要り、税率も変わります。

手取りで比べると逆転することがあるので、スキームを決める前に試算してください(事業譲渡の税金、手取りシミュレーション)。

許認可は業種ごとに扱いが違います。

会社分割で引き継げるもの、届出が要るもの、取り直しになるものがあります。建設業、運送業、介護、調剤薬局あたりは事前確認が必須です。

手続きに時間がかかります。

債権者保護手続きなどがあり、株式譲渡より期間が延びます。名鑑の案件でも、分割を挟むものは契約から実行まで数ヶ月空くことが多いです(M&Aにかかる期間)。

切り出した後の会社が成り立つかを見られます。

残す側・渡す側のどちらも、単独で回る形になっているか。従業員、設備、取引先をどう割り振るか。ここが詰まっていないと、買い手は値段を下げるか手を引きます。

まとめ

  • 会社分割136件、事業譲受186件。一部だけ渡す取引は珍しくない
  • 使われ方は「欲しい事業だけ切り出す」「売りたくないものを先に抜く」「債務超過の事業を生かす」「法的整理の受け皿」の4つ
  • 不動産を手元に残したい、という理由で選ばれることが多い
  • 税金の入り口が変わるので、手取りで比較してから決める

「この事業だけ残したい」という希望がある方は、無料相談でご相談ください。どの形が手取りで有利かを含めてお答えします。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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