後継者がいない会社の現実的な出口 ― 60代社長が今から取れる3手

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月28日
後継者がいない会社の現実的な出口 ― 60代社長が今から取れる3手

「息子は継がない。社内にも継げる人間がいない」

この状態で60代を迎えた社長は珍しくありません。問題は、多くの場合そこから何もしないまま5年、10年が過ぎてしまうことです。日々の経営は回っているので、緊急性を感じにくい。

しかし後継者不在の会社にとって、時間はほぼ一方向にしか働きません。この記事では、残された時間を現実的に見積もったうえで、いま取れる手を整理します。

時間は体感より短い

65歳の社長が70歳での引退を考えているとします。残り5年に見えますが、実際に使える時間はもっと短いのが実情です。

  • M&Aで売る場合、買い手探しからクロージングまで6〜12ヶ月
  • そのうえ、売れる状態に整えるための準備に1〜3年
  • 社内承継なら、後継者の育成と資金準備に3〜5年

つまり70歳で引退するなら、実質的な判断期限は66〜67歳です。しかも業績が下降局面に入ってからでは、買い手が付きにくくなります。

さらに見落とされがちなのが、社長自身の健康です。M&Aは体力と判断力を要する半年〜1年のプロセスです。倒れてからでは、家族が代わりに進めることはほぼできません。株主名簿と決算書の在り処すら共有されていない会社が多いのが実態です。

選べる道は3つに絞られる

親族に継ぐ人がいない前提だと、残る選択肢は次の3つです。

社内承継 M&A 廃業
従業員の雇用 維持 原則維持 失われる
社長の手取り 中程度 最も大きい 資産処分額−清算費用
経営者保証 後継者へ移る 外れることが多い 返済して終了
必要な期間 3〜5年 6〜12ヶ月 6ヶ月〜1年
最大の壁 後継者の資金力 買い手が見つかるか 費用と従業員への責任

比較の詳細は事業承継の4つの選択肢にまとめています。ここでは、後継者不在の社長がつまずきやすい点だけを補足します。

社内承継は、意思より資金で止まります。 「専務が継いでくれると思っていた」という話の大半は、株式の買取資金の段階で崩れます。自社株の評価が1億円なら、専務個人が1億円を用意し、さらに社長の個人保証まで引き継ぐことになる。多くの人はここで断ります。

廃業は「たためばゼロ」ではありません。 従業員の退職金、設備の撤去費、原状回復、在庫処分、契約解除の補償。設備産業では撤去費が資産の売却額を上回り、手元がマイナスになることがあります。

「うちを買う人はいない」は、たいてい思い込み

M&Aを検討しない理由として最も多いのが、「うちみたいな小さい会社を買う人はいない」というものです。しかし実際には、社長本人が価値だと思っていないものに買い手が付きます。

  • 許認可や免許 ― 買い手が自前で取るには年単位かかるものが、即日手に入る
  • 有資格者・技術者 ― 採用難の職種を抱えていること自体が価値になる
  • 特定地域での顧客基盤 ― その地域に進出したい同業にとっては近道
  • 長年の取引実績 ― 新規参入では取れない元請けとの関係
  • 人手 ― 業種によっては、従業員が定着していることが最大の資産

「特別なことは何もしていない」と社長が言う会社ほど、続けてきたこと自体が参入障壁になっていることがあります。判断は自分でせず、一度専門家に見てもらう価値があります。

いま取れる3手

明日から着手できて、どの道を選ぶことになっても無駄にならないものを3つ挙げます。

1. 株主名簿を確定させる

後継者不在の会社で最も多く話を止めるのが、株式の問題です。

  • 設立時の名義貸し(名義株)がそのままになっている
  • 亡くなった創業メンバーの株が相続で分散している
  • 連絡の取れない少数株主がいる

M&Aでは、原則として株式を100%集めないと売れません。数%の株主が反対したり所在不明だったりするだけで、話が止まります。この解決には数ヶ月から年単位かかることがあるため、最初に着手すべき項目です。

2. 「社長がいなくても回る」部分を増やす

買い手が最も警戒するのは、利益が社長個人に紐づいていることです。社長の人脈で受注し、社長が価格を決め、社長が現場を仕切っている会社は、社長が抜けた瞬間に利益も消えると見なされます。

すぐには変えられませんが、次のような一手ずつが価格に効きます。

  • 主要顧客の窓口を、社長以外の社員にも持たせる
  • 見積の基準を文書化し、社長の勘に依存しない形にする
  • 売上の一社依存を下げる(時間はかかるが、評価への影響が最も大きい)

3. 現在地を数字で把握する

決算書3期分をもとに、時価純資産と正常営業利益を出してみる。これだけで、M&Aが選択肢に入るのか、それとも先に手を入れるべきなのかが分かります。

想定より高ければ、迷っている時間そのものが損失です。想定より低ければ、価格を上げる打ち手に取り組む時間がまだあるということです(売却価格を上げる5つの打ち手)。

決めなくていい。調べるだけ先にやる

いちばん避けたいのは、選択肢がひとつになってから動き出すことです。業績が落ち、社長の体力も落ちてから相談に来た会社に残っているのは、たいてい廃業だけになります。

売ると決める必要はありません。「売るとしたらいくらか、どのくらいかかるか」を知っておくだけで、判断の質が変わります。

無料相談では、決算書3期分をもとに現在地の見立てをお伝えしています。検討していない段階でのご相談で構いません。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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