M&Aの進め方 全9ステップ ― 検討開始から着金まで

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月24日
M&Aの進め方 全9ステップ ― 検討開始から着金まで

M&Aは半年から1年かけて進みます。どこで何が起き、どこまでなら引き返せるのかを先に把握しておくと、判断を焦らずに済みます。

株式譲渡を前提に、9つの段階に分けて説明します。

全体の時間感覚

STEP 1-3  準備・相談・契約        1〜2ヶ月   ← まだ引き返せる
STEP 4-5  買い手探し・トップ面談    2〜4ヶ月   ← まだ引き返せる
STEP 6    基本合意               2週間〜1ヶ月 ← ここから重くなる
STEP 7    デューデリジェンス       1〜2ヶ月
STEP 8-9  最終契約・クロージング    1〜2ヶ月   ← 実質引き返せない

引き返せるかどうかの境目は STEP 6 の基本合意です。ここで独占交渉権を渡すため、他の買い手候補との話が止まります。

STEP 1|準備と現状把握(2週間〜1ヶ月)

相談に行く前に、手元にそろえておくものがあります。

  • 決算書3期分(勘定科目内訳書を含む)
  • 直近の試算表
  • 株主名簿
  • 会社案内、主要取引先の一覧
  • 借入金の一覧と、経営者保証の状況

このうち株主名簿は最優先で確認してください。名義株、相続で分散した株、所在不明の株主。これらがあると、解決に数ヶ月から年単位かかります。M&Aは原則として株式を100%集めないと成立しません。

同時に、自分のなかで整理しておくこと。なぜ売るのか、いくらなら売るのか、いつまでに終えたいのか、譲れない条件は何か。買い手は必ず理由を聞きますし、ここが曖昧だと交渉で押し切られます。

STEP 2|相談先の選定(2週間〜1ヶ月)

M&A仲介、FA、マッチングサイト、公的機関のどれに相談するかを決めます(M&A仲介・FA・マッチングサイトの違い)。

1社目で決めないでください。最低2〜3社から話を聞き、次を比較します。

  • 提示された想定価格と、その根拠
  • 買い手候補を何社出せるか
  • 手数料の17項目(2024年8月のガイドライン第3版で書面説明が求められています)
  • 最低手数料の金額
  • 専任条項の期間と解除条件

同じ会社に対する評価が、社によって倍近く違うことは珍しくありません。

STEP 3|仲介契約・企業価値算定(2週間)

契約後、本格的な企業価値の試算に入ります。ここで正常収益力の調整が行われます。役員報酬の適正超過分、節税目的の保険料、私的性格の経費を利益に戻す作業です(年買法とは)。

この内訳は必ず見せてもらってください。何をどう戻したかで価格が数千万円動きます。

並行して、買い手に見せる資料を作ります。

  • ノンネームシート ― 社名を伏せた1枚の概要。業種、地域、規模、譲渡理由
  • 企業概要書(IM) ― 秘密保持契約を結んだ相手にだけ開示する詳細資料

STEP 4|買い手候補への打診(1〜3ヶ月)

ノンネームシートで候補企業に打診します。関心を示した先とだけ秘密保持契約を結び、企業概要書を開示します。

この段階が最も期間が読めません。すぐ複数社が手を挙げることもあれば、半年動かないこともあります。

社長がやるべきことは、候補を絞りすぎないことです。同業だけでなく、隣接業種、その地域に進出したい会社、投資会社。想定外の相手が最も高く評価することがあります。

一方で、打診先のリストは必ず確認してください。競合他社や、取引先など知られたくない相手が含まれていないか。情報が漏れると、話がまとまる前に社内外が混乱します。

STEP 5|トップ面談(1回〜数回)

買い手の経営者と直接会います。条件交渉の場ではなく、互いの人物と考え方を確認する場です。

買い手が見ているのは、決算書に出てこない部分です。社長の人柄、従業員への姿勢、会社の雰囲気、そして譲渡理由に嘘がないか。ここでの印象が価格に影響することは、実際にあります。

社長の側も見極めてください。従業員をどう扱う会社か、買収後に何をするつもりか、なぜ自社なのか。この面談は、価格では測れない部分を確認できる数少ない機会です。

STEP 6|基本合意(2週間〜1ヶ月)

価格と大枠の条件について、いったん合意します。多くの場合、法的拘束力はありません(秘密保持と独占交渉権の条項を除く)。

ただし実務上の意味は重い。ここで独占交渉権を与えるため、他の買い手候補との話が止まります。そして以降の交渉は、価格が下がる方向にしか動きません。デューデリジェンスで問題が見つかれば減額されるからです。

基本合意の前に決めておくべきこと。

  • 譲渡価格と、その調整条件(DDで何が出たら、どこまで減額を受け入れるか)
  • 社長の引き継ぎ期間と役割(ロックアップ。半年〜3年が通常)
  • 従業員の雇用と処遇の維持についての取り決め
  • 経営者保証の解除を条件に含めること
  • 独占交渉権の期間(無期限にしない)
  • アーンアウト(後払い)があるなら、その条件と算定方法

ロックアップと経営者保証は、価格と同じ熱量で交渉してください。後から変更するのは困難です。

STEP 7|デューデリジェンス(1〜2ヶ月)

買い手が財務・税務・法務・労務・事業の各面から詳細に調査します。売り手は膨大な資料提出と、質問への回答を求められます。

ここが社長にとって最も負担の大きい期間です。日常業務と並行して、数百項目の資料要求に応えることになります。準備リストはデューデリジェンスで何を見られるかにまとめました。

原則は隠さないことです。問題があるなら先に開示したほうが、後から見つかるより圧倒的に有利に処理できます。隠していたことが発覚すると、価格の問題ではなく信頼の問題になり、破談につながります。

STEP 8|最終契約(2週間〜1ヶ月)

株式譲渡契約(SPA)を締結します。基本合意と違い、法的拘束力があります。

重要な条項は次のとおりです。

  • 表明保証 ― 開示した内容が真実であることの保証。違反すると賠償責任が生じる
  • 補償条項 ― 表明保証違反や偶発債務が出た場合の補償の範囲、上限額、期間
  • 前提条件 ― クロージングまでに満たすべき条件(経営者保証の解除、重要取引先の同意など)
  • 競業避止義務 ― 譲渡後、一定期間・一定地域で同業を行わない義務。期間と範囲を確認する
  • ロックアップ ― 社長の残留期間と役割、報酬

この段階では必ず自分側の弁護士を立ててください。仲介会社は双方の間に立つ立場であり、売り手の代理人ではありません。補償の上限額を設定していなかったために、受け取った譲渡代金を超える請求を受けるリスクが残る、といったことが起こり得ます。

STEP 9|クロージング(1日〜数週間)

株式と代金を交換します。株主名簿の書き換え、役員の変更登記、金融機関との手続き、そして経営者保証の解除。

ここで着金します。検討開始から、おおむね6〜12ヶ月です。

従業員への開示は、このタイミングか直前が原則です(従業員への開示タイミングと伝え方)。

その後

引き継ぎ期間が始まります。取引先への挨拶回り、業務の引き継ぎ、買い手の管理体制への移行。「売って終わり」ではなく、ここから半年〜3年が残っていることは、あらかじめ覚悟しておくべきです。

そして納税。譲渡した年の翌年に確定申告と納付が来ます。受け取った資金をすぐ運用に回すと、納税資金が不足します(会社売却でかかる税金)。

引き返せる場所を知っておく

STEP 5 までは、断っても失うものはほとんどありません。STEP 6 で独占交渉権を渡し、STEP 8 で法的拘束力が生じます。

焦らされたら、その時点で相手を疑ってください。「今期中に」「他社が待っている」という言葉で判断を急がせる相手とは、条件がよくなることはありません。時間的余裕は、それ自体が交渉力です。

自社の場合にどのくらいの期間と価格になりそうか知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

監修者のプロフィールを詳しく見る →

関連記事