許認可は引き継げるのか ― 業種別の可否と手続き

許認可が要る商売では、それが引き継げるかどうかで売り方が決まります。
価格の話より先に確認すべきことです。引き継げない形で進めると、買い手は許可を取り直す期間と手間を価格から引きます。場合によっては取引そのものが成立しません。
原則は売り方で決まる
| 売り方 | 許認可 |
|---|---|
| 株式譲渡 | そのまま残る(会社が同じなので) |
| 事業譲渡 | 原則取り直し |
| 会社分割 | 業種により引き継げる/届出が要る |
株式譲渡は、会社の持ち主が変わるだけで会社自体は同じです。許認可は会社に付いているので、原則そのまま使えます。株式譲渡と事業譲渡の違いで書いたとおり、許認可の重い業種で株式譲渡が選ばれるのはこれが理由です。
ただし「そのまま残る」で終わりではありません。役員変更の届出は別途必要です。
業種別に見る
建設業
建設業許可は会社に付きます。株式譲渡なら許可は残りますが、経営業務の管理責任者と専任技術者が変わると届出が必要です。
ここが実務で問題になります。社長が経営業務の管理責任者を兼ねていて、売却を機に退任すると、要件を満たす人がいなくなることがあります。要件を満たす後任がいるかを、売る前に確認してください。
経営事項審査(経審)の点数は会社に紐づくので、株式譲渡では引き継がれます。建設業の売却相場で書いたとおり、経審の点数は評価に直結します。
事業譲渡では許可を取り直しになり、経審も一からです。公共工事の受注実績が切れるので、建設業で事業譲渡を選ぶのは慎重に。
運送業(一般貨物自動車運送事業)
株式譲渡なら残ります。事業譲渡・会社分割では事前の認可が必要で、認可が下りるまで数か月かかります。
運行管理者・整備管理者の選任届も要ります。社長が兼務していた場合は建設業と同じ問題が起きます。
介護事業
指定を受けているのは事業所単位です。株式譲渡なら継続しますが、管理者・サービス提供責任者の変更届が要ります。
事業譲渡では新規指定になり、指定日が変わります。指定日より前のサービスには報酬が出ないので、切れ目が出ないようにクロージング日を設計する必要があります。ここはクロージングの実務で最も気を使う業種のひとつです。
調剤薬局
薬局開設許可と保険薬局の指定。株式譲渡なら継続、事業譲渡なら取り直しです。管理薬剤師の変更届も必要になります。
保険薬局の指定が切れると調剤報酬が請求できないため、介護と同じく日程設計が重要です。
産業廃棄物処理業
ここだけ扱いが違います。産廃の許可は、株式譲渡では残りますが、事業譲渡・会社分割・合併では原則として新規許可が必要です。
会社分割について特例(事前の認可を受ければ承継可)がありますが、手続きに時間がかかります。産廃を含む事業の売却は、スケジュールを長めに見てください。
人材派遣・有料職業紹介
許可は会社に付きます。株式譲渡なら残り、事業譲渡では取り直しです。派遣元責任者・職業紹介責任者の変更届が必要になります。
飲食店
営業許可は施設と営業者に紐づきます。株式譲渡なら残ります。事業譲渡では新規の許可申請ですが、施設の基準を満たしていれば比較的短期間で下ります。重い業種ではありません。
宅建業
免許は会社に付きます。株式譲渡なら残りますが、専任の宅地建物取引士と政令使用人の変更届が要ります。事業譲渡では新規免許です。
事業譲渡でも進める場合の設計
許認可が重い業種で、どうしても事業譲渡を選ぶ場合(簿外債務を切り離したい、一部だけ売りたいなど)は、次のどちらかになります。
1. 買い手が先に許可を取ってから引き渡す
もっとも確実です。ただし申請から取得まで数か月かかり、その間の人員と施設の手当てが要ります。M&Aにかかる期間の見積もりに、この期間を足してください。
2. 会社分割を使う
事業に必要な資産・契約・人をまとめて移せます。業種によっては許認可も承継できます。ただし債権者保護手続きが要り、産廃のように事前認可が必要な業種もあります(会社分割で一部だけ売る)。
売る前に確認すること
1. 許認可の一覧を作る
何の許可を、いつ取って、いつ更新かを書き出します。更新期限が近いものは、売却前に更新しておくほうが話が早くなります。
2. 要件を満たしている人が誰かを確認する
経営業務の管理責任者、専任技術者、管理薬剤師、運行管理者。その人が社長本人なら、退任後どうするかを先に決めます。
これがロックアップの期間に直結します。「許可の要件を満たす人がいないから、社長に3年残ってほしい」という話は実際にあります。
3. 行政処分の履歴を確認する
デューデリジェンスで必ず見られます(デューデリジェンスで何を見られるか)。過去の指導や処分があるなら、先に開示してください。後から出ると信用の問題になります。
まとめ
- 原則は「株式譲渡なら残る、事業譲渡なら取り直し」
- ただし株式譲渡でも役員・有資格者の変更届は必要
- 産廃は例外。事業譲渡・会社分割・合併で新規許可が原則
- 介護・調剤薬局は指定の切れ目が報酬に直結する。日程設計が重要
- 有資格者が社長本人なら、退任後の体制を先に決める。ロックアップの長さに直結する
自社の許認可がどう扱われるか分からない方は、無料相談からお問い合わせください。業種と許可の種類をうかがえば、どの売り方が現実的かをお伝えできます。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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