競業避止義務 ― 売ったあと何年、何ができないのか

会社を売った後、同じ商売をもう一度やることはできません。これを競業避止義務といいます。
「もう引退するから関係ない」と思われるかもしれませんが、実際には売却の数年後に別の会社を始める方が多いです。売却後に社長が感じるロスに書いたとおりで、そのときにこの義務が効いてきます。
法律の原則は20年
会社法21条は、事業を譲渡した者は同一の市町村と隣接市町村において20年間、同じ事業を行ってはならないと定めています。
ただし、この条文がそのまま適用される場面は限られます。
| 売り方 | 会社法21条 |
|---|---|
| 事業譲渡 | 適用される |
| 株式譲渡 | 直接は適用されない |
中小企業のM&Aで多いのは株式譲渡です(株式譲渡と事業譲渡の違い)。この場合、売り手個人は会社を譲渡したわけではなく株式を譲渡しただけなので、条文の対象外になります。
ではどうなるか。契約で定めます。
実務で効くのは契約のほう
最終契約(SPA)に、競業避止の条項が入ります(最終契約の重要条項)。ここで決まるのは次の4点です。
1. 期間
中小M&Aでは2〜5年が多く、3年が一つの目安です。会社法の20年がそのまま入ることはまずありません。買い手の目的は「引き継いだ事業を守ること」であって、売り手の人生を縛ることではないためです。
2. 地域
「日本国内」と書かれることもあれば、「◯◯県および隣接県」と限定されることもあります。商圏が狭い事業ほど、地域も狭く書けます。美容室や飲食店でこの交渉は通りやすい。
3. 禁止される行為の範囲
ここがいちばん幅があります。
- 同種の事業を営むこと
- 同種の事業を営む会社に出資すること
- 同種の事業を営む会社の役員になること
- 譲渡した会社の従業員を引き抜くこと
- 譲渡した会社の取引先に営業すること
下の2つは「勧誘禁止条項」と呼ばれ、競業避止とは別に定められることもあります。期間だけ見て安心しないでください。
4. 違反したときの効果
差止めと損害賠償。違約金の額が明記されることもあります。
交渉で見るべきところ
期間を削るより、範囲を具体的にするほうが通ります。
「同種の事業」という書き方は、後から解釈が割れます。売ったのがIT受託開発で、数年後にSaaSを始めたとき、それは同種か。曖昧なまま署名すると、やりたいことが出てきたときに動けません。
実務的には、次のどれかで線を引きます。
- 業種を具体的に書く(「訪問介護事業」など)
- 対象とする顧客層を書く(「譲渡時点の取引先に対する」など)
- 除外を書く(「ただし◯◯分野は除く」)
やりたいことが決まっているなら、先に除外を書いてもらうのがいちばん確実です。
よくある誤解
「引退するから関係ない」 3年後に気が変わる方が実際に多いです。売却後に社長が感じるロスに書いた通りで、やることがない状態は想像より辛いものです。
「家族名義なら大丈夫」 配偶者や子の名義で同種事業を始めると、脱法行為として差止めの対象になり得ます。契約に「直接または間接を問わず」と書かれていれば、ほぼ確実に該当します。
「顧問として残るだけなら競業ではない」 役員就任の禁止に該当することがあります。顧問・アドバイザーも「関与」に含まれる書き方かどうかを確認してください。
「ロックアップが終われば自由」 別の話です。ロックアップは会社に残る義務、競業避止は競合しない義務で、期間も根拠も違います。ロックアップ2年・競業避止5年という組み合わせは普通にあります。
売る前に決めておくこと
売った後に何をしたいかを、契約を見る前に自分で決める。
- 完全に引退する
- 別業種で何かやる
- 同じ業界で、違う立場(投資、顧問、教育)で関わる
- いずれ同じ事業をまたやる
4番目なら、競業避止の交渉が最重要論点になります。3番目でも、役員就任や出資の禁止が入っていると動けません。
決まっていないなら、範囲を狭くしておく。後から広げることはできませんが、狭い範囲で署名しておけば選択肢が残ります。
まとめ
- 株式譲渡では会社法21条は直接適用されない。実務は契約で決まる
- 期間は2〜5年が中心。3年が目安
- 期間より範囲の書き方が重要。「同種の事業」は後で揉める
- 従業員の引き抜き禁止・取引先への営業禁止は別条項で入ることがある
- 家族名義、顧問就任も対象になり得る
- 売った後に何をしたいかを先に決めてから、条項を読む
契約書のこの部分をどう読むべきか分からない方は、無料相談からお問い合わせください。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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