クロージングと決済 ― 着金までに起きること

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月11日
クロージングと決済 ― 着金までに起きること

クロージングは、株式と代金を実際に交換する手続きです。M&Aの最終工程であり、ここで着金します。

最終契約から数日〜数週間空くのが通常です。同日に行うこともありますが、前提条件を満たす手続きに時間がかかる場合、間隔が空きます。

クロージングまでに満たすこと

最終契約に定めた前提条件(クロージング条件)を、すべて充足させます。ひとつでも欠けると実行されません。

売り手側の主な条件

買い手側の主な条件

  • 買収資金の調達完了
  • 社内の機関決定(取締役会決議など)
  • キーマンの残留確約の取得

クロージング当日の流れ

一般的な株式譲渡の場合です。

1. 前提条件の充足確認

双方が、条件をすべて満たしたことを確認します。充足証明書を交わすこともあります。

2. 書類の授受

売り手が渡すもの。

  • 株券(発行会社の場合)
  • 株主名簿の名義書換請求書
  • 譲渡承認に関する議事録
  • 役員の辞任届
  • 会社の実印、銀行印、通帳、印鑑カード
  • 定款、登記関係書類、許認可の原本
  • 重要な契約書の原本
  • 会計帳簿、税務申告書
  • 従業員名簿、労務関係書類

買い手が渡すもの。

  • 譲渡代金の振込証明

3. 送金

譲渡代金が振り込まれます。着金を確認するまで、書類の引き渡しを完了させないのが原則です。実務では、双方の担当者が同席し、着金確認をもって完了とします。

4. 株主名簿の書き換え

売り手が代表者として名簿を書き換えます。これで法的に株主が変わります。

5. 役員の変更

臨時株主総会を開き、買い手が指名する役員を選任します。売り手側の役員は辞任します。社長が引き継ぎ期間を残る場合は、役職を変えて残る形が多い(取締役、顧問など)。

6. 登記申請

役員変更、本店移転(する場合)、商号変更(する場合)の登記を行います。司法書士が対応します。

7. 金融機関の手続き

  • 経営者保証の解除手続き
  • 銀行印の変更
  • 口座の代表者変更

直前で止まりやすい原因

経営者保証の解除

最も多い原因です。買い手の信用力に金融機関が難色を示すと、調整に時間がかかります。

対策は早めの接触です。基本合意の前後でメインバンクに相談しておくと、直前で慌てずに済みます。金融機関は取引先の支配権変更に敏感で、事後報告は心証を害します(経営者保証はM&Aで外れるのか)。

取引先の同意

主要契約にチェンジ・オブ・コントロール条項があると、支配権の変更に相手方の同意が必要です。相手が難色を示せば、その契約が解除されるリスクが生じ、価格の再交渉になることもあります。

どの契約に条項が入っているかは、デューデリジェンスの段階で判明します。そこから同意取得の交渉を始めてください。

買い手の資金調達

金融機関からの借入で買う場合、審査が長引くことがあります。融資の目処が立っているかは、基本合意の段階で確認すべきです。

決算期・稟議のタイミング

買い手が上場企業なら取締役会の日程に縛られます。決算期をまたぐと稟議が組み直しになることも。こちらから動かせない要因です。

着金してから、すぐやること

従業員への開示

このタイミングか直前が原則です。全員に同時に、社長自身の口から伝えます(従業員への開示タイミングと伝え方)。

取引先・金融機関への挨拶

主要取引先には、社長から直接連絡してください。従業員経由や噂で伝わるのが最悪の経路です。買い手の代表者と一緒に回ることも多い。

納税資金の確保

譲渡した年の翌年に確定申告と納付が来ます。譲渡益1億円なら税額は約2,000万円。着金した時点で税額分を分けて確保してください。

受け取った資金をすぐ運用や不動産に回して、3月に納税資金が足りなくなる。実際に起きている失敗です(会社売却でかかる税金)。

「売って終わり」ではない

クロージングは終点ではなく、引き継ぎ期間の起点です。

ロックアップの条件に従って、半年〜3年、社長は会社に残ります。取引先への引き継ぎ、業務の移管、買い手の管理体制への適応。権限を失った状態で通うことになるため、想像以上に負担を感じる社長が多いというのが実際のところです(売却後に社長が感じるロス)。

だからこそ、ロックアップの期間と役割は基本合意の段階で詰めておくべきでした(基本合意書(LOI)で決まること)。

クロージングまでのチェックリスト

  • 経営者保証の解除について金融機関の合意を得たか
  • チェンジ・オブ・コントロール条項のある契約の同意を取得したか
  • 許認可の承継手続きは完了したか
  • 引き渡す書類・印章を一覧化したか
  • 役員の辞任届を準備したか
  • 従業員への開示の段取りを決めたか
  • 取引先への挨拶の順番と方法を決めたか
  • 納税資金の確保を計画に入れたか
  • 引き継ぎ期間の勤務条件を書面で確認したか

進め方に不安がある方は、無料相談からお問い合わせください。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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