デューデリジェンス(DD)で何を見られるか ― 売り手の準備リスト

デューデリジェンス(DD)は、基本合意の後に買い手が行う詳細調査です。期間は1〜2ヶ月。売り手にとっては、日常業務と並行して数百項目の資料要求に応える、最も負担の重い期間になります。
そして理解しておくべきことがひとつ。DDは、買い手が減額材料を探す場でもあります。ここで出た問題は、ほぼ確実に価格の減額か、契約の補償条項に反映されます。しかも独占交渉権を渡した後なので、売り手は不利な立場で応じることになります。
だからこそ、事前に潰せるものは潰しておくのが最も効きます。
何を、誰が見るのか
| 種類 | 誰が行うか | 主な調査対象 |
|---|---|---|
| 財務DD | 公認会計士 | 収益力の実態、純資産の妥当性、運転資本 |
| 税務DD | 税理士 | 申告内容の適正性、否認リスク |
| 法務DD | 弁護士 | 株式、契約、許認可、係争 |
| 労務DD | 社会保険労務士 | 未払残業代、社会保険、就業規則 |
| 事業DD | 買い手自身/コンサル | 市場、顧客、競合、シナジー |
中小M&Aでは、財務・税務・法務を中心に、規模に応じて労務が加わる形が一般的です。
財務DD ― 「利益は本物か」
最も時間をかけて見られる領域です。焦点は正常収益力、つまり買収後も続く利益がいくらかという点にあります。
指摘されやすい論点
- 一過性の損益が利益に混ざっている。 補助金収入、資産売却益、保険の解約返戻金
- 売掛金の回収可能性。 長期滞留している債権はないか
- 在庫の実在性と評価。 不良在庫、滞留在庫が簿価のまま残っていないか
- 役員報酬・私的経費の切り分け。 正常化の調整が妥当か
- 関係会社との取引。 社長の資産管理会社との賃貸借、家族への給与が適正水準か
- 運転資本の水準。 季節変動を含めて、必要な運転資金がいくらか
法務DD ― 「本当に売れる会社か」
最も致命的になりやすいのが株式の問題です。
- 株主名簿と実態の一致。 名義株、所在不明株主、相続で分散した株
- 株券発行会社かどうか、譲渡制限の有無、必要な機関決定
- 主要取引先との契約書。 存在するか、期限は切れていないか
- チェンジ・オブ・コントロール条項。 支配権が変わると相手方が解除できる条項。主要契約に入っていると、取引先の同意が必要になります(COC条項とは)
- 許認可の有効性と、承継の可否(許認可は引き継げるのか)
- 係争・クレーム・行政処分歴
- 知的財産の権利帰属(ソフトウェアや設計データが外注先に帰属していないか)
株式が100%集まらなければ、そもそも取引が成立しません。この確認は相談前に自分で済ませておくべき項目です(名義株・少数株主の整理)。
労務DD ― 最も高頻度で指摘される
中小企業のDDで、指摘が出る確率が最も高いのが労務です。金額のインパクトも大きい。
- 未払残業代。 固定残業代の設定が不十分、管理監督者の範囲が広すぎる、勤怠記録が実態と合っていない
- 社会保険の加入漏れ。 パート・アルバイト、役員
- 36協定の締結・届出漏れ
- 就業規則の未整備、未届
- 名ばかり管理職、一人親方・偽装請負
- 退職給付引当の不足
未払残業代は過去3年分が対象になり得ます(賃金請求権の消滅時効は当分の間3年)。従業員30名の会社でも、数千万円規模の潜在債務になることがあります。
税務DD ― 「否認されるリスクはないか」
- 過去の税務調査の内容と指摘事項
- 役員報酬、退職金、交際費の処理
- 関係会社間取引の価格の妥当性
- 消費税の課税・非課税区分
- 繰越欠損金の有効性
事業DD ― 「買った後も稼げるか」
- 顧客の集中度。 上位1社の売上比率
- 社長依存度。 受注と価格決定が社長個人に紐づいていないか
- キーマンの存在と、その人の残留意思
- 市場の見通しと競合状況
- 設備の更新時期と、必要な投資額
事前に潰しておくべき優先順位
期間と効果を考えたとき、着手すべき順序は次のとおりです。
1. 株式の整理(年単位かかることがある) 名義株の解消、所在不明株主への対応、分散した株の集約。ここが解決しないと売れません。最優先です(名義株・少数株主の整理)。
2. 労務の適正化(半年〜1年) 勤怠管理の整備、固定残業代の見直し、社会保険の加入漏れ解消。必要なら遡って精算する。先に処理すれば減額ではなく前提として織り込まれます。
3. 決算の実態化(半年〜1年) 不良在庫の処分、回収不能な売掛金の処理、勘定科目内訳書の整備。
4. 契約書の整備(3〜6ヶ月) 主要取引先との基本契約書の締結・更新。チェンジ・オブ・コントロール条項の有無を確認しておく。
5. 不要資産の切り出し(3〜6ヶ月) 事業に使っていない不動産、社長の車。クロージング前に会社から出しておく。
先に自分で調べておくという手もある
買い手のDDで問題が出ると、価格の再交渉になります。それなら先に自分で調べて開示しておけばいい、という考え方がベンダーDDです。フルで頼むと費用がかかりますが、未払残業代の概算やCOC条項の洗い出しだけなら自社でもできます。
なお、DDで見つからなかった問題が成立後に出ると、表明保証違反として補償請求される可能性があります(成立後に揉める5つの型)。
DD期間中の心得
隠さない。 これが最も重要です。問題があるなら先に開示したほうが、後から見つかるより圧倒的に有利に処理できます。発覚した場合、価格の問題ではなく信頼の問題になり、破談につながります。加えて、開示しなかった事実は最終契約の表明保証違反となり、譲渡後に賠償請求を受けるリスクを残します。
窓口を一本化する。 資料要求は膨大です。社内で対応できるのは限られた人数なので、誰が何を出すかを整理してください。同時に、DDが行われていることを社内に広げない設計も必要です。
回答の記録を残す。 何を聞かれ、何を答え、どの資料を渡したか。後の表明保証の範囲に直結します。
指摘には数字で応じる。 「未払残業代が2,000万円ある」と指摘されたら、算定の前提を確認してください。管理監督者の範囲、単価の計算方法によって金額は大きく変わります。言われた数字をそのまま受け入れる必要はありません。
DDは買い手を見る機会でもある
一方通行に見えますが、社長の側も相手を観察できます。何を重点的に見るかに、買収後の方針が表れます。
人員構成と人件費ばかり見る買い手は、統合後に人員整理を考えている可能性があります。逆に、技術や顧客との関係を丁寧に見る買い手は、事業を伸ばす前提で来ています。
DDの質問内容は、記録しておく価値があります。
準備の現状を確認したい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書と株主名簿があれば、着手すべき優先順位をお伝えできます。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
- YouTube社長のM&Aチャンネル
- YouTube社長の資産防衛チャンネル