会社を「たたむ」と「売る」はどちらが得か ― 廃業コストとの比較

「買い手なんて付かないだろうから、たたむしかない」
後継者不在の社長から最も多く聞く言葉です。しかしこの判断には、たいてい廃業コストの見積もりが入っていません。
会社をたたむのは、看板を下ろして終わりではありません。この記事では、廃業に実際いくらかかるのかを洗い出し、売却した場合と手残りで比較します。
廃業にかかる費用
年商3億円、従業員15名、工場を賃借している製造業を例にします。
| 費目 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 従業員の退職金 | 規程がある場合は支払義務 | 数百万〜数千万円 |
| 解雇予告手当 | 30日前の予告をしない場合、平均賃金30日分 | 数百万円 |
| 設備の撤去・処分 | 売却額より撤去費が上回ることが多い | 数百万〜数千万円 |
| 原状回復 | 工場・店舗の賃貸借契約の条件による | 数百万〜数千万円 |
| 賃貸借の解約違約金 | 契約期間内の解約 | 賃料の数ヶ月分 |
| 在庫の処分損 | 二束三文になる | 簿価の大半 |
| 売掛金の回収不能 | 廃業を知られると回収が悪化する | ケースによる |
| リースの残債 | 中途解約金が発生する | 契約残による |
| 専門家費用 | 清算手続き、登記、税務申告 | 数十万〜百数十万円 |
| 清算所得への課税 | 資産に含み益があれば課税される | 含み益次第 |
設備産業では、資産の処分額より撤去費用のほうが大きくなることが珍しくありません。機械を売れば数十万円だが、搬出と床の補修で数百万円かかる、という構図です。
手残りを比べてみる
同じ会社で、廃業と売却を並べます。
前提
- 時価純資産:8,000万円(うち機械設備の簿価3,000万円)
- 正常営業利益:4,000万円
- 従業員15名、工場は賃借
廃業した場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 資産の処分額(設備は簿価の2割程度) | +5,600万円 |
| 従業員の退職金 | −2,000万円 |
| 設備の撤去・原状回復 | −1,500万円 |
| 在庫処分損・その他 | −500万円 |
| 専門家費用・清算関連 | −200万円 |
| 手残り | 約1,400万円 |
M&Aで売却した場合
年買法(時価純資産+正常営業利益×3年)で計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡価格(8,000万円+4,000万円×3年) | 2億円 |
| 仲介手数料 | −1,200万円 |
| 税金(譲渡益に20.315%) | −約3,700万円 |
| 手残り | 約1億5,100万円 |
差は1億3,700万円。しかも従業員15名の雇用が残り、取引先の供給も途切れません。
もちろん買い手が付かなければ成立しませんが、この差を知らずに廃業を選ぶのは、判断とは呼べません。
廃業のほうが合理的なケース
公平のために、廃業が妥当な場合も書いておきます。
- 数期にわたり赤字が続き、改善の見込みがない。買い手が付かないか、付いても時価純資産以下になる
- 社長個人の技能そのものが事業(士業、職人の一人親方など)。引き継げるものが残らない
- 許認可や資格が社長個人に紐づいていて、承継できない
- 市場が消滅しつつある。買い手側にも将来性が見込めない
- 借入が資産を大きく上回っている。この場合は廃業ではなく、再生や整理の相談が先になります
ただし、これらに当てはまると社長が思っていても、実際には買い手が付くことがあります。とくに人手不足の業種では、従業員が定着していること自体が価値になります。
「売れるかどうか」は自分で判断しない
廃業を検討している会社が見落としがちなのは、社長が価値だと思っていないものです。
- 許認可、免許(取得に年単位かかるもの)
- 有資格者・技術者の在籍
- 特定地域での顧客基盤
- 長年の取引実績(新規参入では取れない元請けとの関係)
- 定着している従業員
「特別なことは何もしていない」と言う会社ほど、続けてきたこと自体が参入障壁になっていることがあります。
時間の問題
もうひとつ重要な点があります。廃業を決めてから売却に切り替えるのは難しいということです。
廃業の準備が進むと、従業員が辞め、取引先が離れ、設備の更新が止まります。この状態になると、買い手から見た価値は急速に落ちます。売却を検討するなら、廃業を決断する前です。
逆に言えば、廃業はいつでもできます。順序としては、
- まずM&Aで売れるかを確認する(数週間で分かります)
- 買い手が付かない、または条件が悪ければ廃業を検討する
- 廃業費用を試算し、手残りを確定させる
この順で進めれば、判断を誤りません。
まずは試算から
廃業費用は、退職金規程、賃貸借契約書、設備の一覧、在庫の内訳があれば概算できます。売却価格は決算書3期分で見立てられます。両方を数字にして初めて、比較になります。
無料相談では、この2つの試算をお手伝いしています。「たたむしかない」と考えている段階でのご相談で構いません。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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