【売却体験談】名前も顔も出さずに作った副業を4,000万円で売却 ― 交代しても誰も気づかなかった エルマーケ 関口大地氏
- 業種
- オンラインサロン・アフィリエイトメディア
- 年商
- 売却前年度の利益2,000万円弱
- 譲渡形態
- 株式譲渡
- 譲渡価格
- 4,000万円(利益の3倍弱)
- 所要期間
- 約4ヶ月

運営者が交代したのに、500人の会員は誰も気づかなかった。これは、M&Aにおける属人性排除の理想形です。しかも意図的に設計されていました。
名前も出してない、顔も出してない形でやってまして
会社員として働きながら副業で育てた事業を、4,000万円で譲渡した関口大地さん。「自分がいなくても回る」をどう作ったのかを伺いました。
大学3年のアルバイト代わりから始まった
出発点は、事業ですらありませんでした。
大学生の頃のアルバイトとかをするのがちょっと面倒くさかったので、何か事業で稼げないかなと思って色々調べた
行き着いたのがアフィリエイトです。収益が出はじめ、税理士に相談したところ法人化を勧められ、大学4年で会社を設立しています。主力になったのは、アフィリエイトではなくオンラインサロンでした。副業で月5万円稼ぎたい人を集め、そこでしか流せない情報を扱う。会員は500人強まで増えています。集客は広告ゼロ。SEOと旧Twitterだけでした。検索で流入が取れる記事を作り、サービスページに入ってきてもらって、その場で決済してもらう。
タイミングの良さも本人が認めています。
僕が始めた時期っていうのが、オンラインサロンっていう名前自体がない時だったんですよ
有料コミュニティという言葉すらなかった頃に始め、ブームが来たときに一気に会員が増えた。市場が立ち上がる前に入っていたわけです。
その後、新卒でリクルートに入社。会社員をしながら兼業でこの事業を続け、社会人2年半弱のタイミングで譲渡しています。
- 売却前年度の利益:2,000万円弱
- 譲渡価格:4,000万円(利益の3倍弱)
- 従業員:なし(業務委託で運営)
「僕のこんな会社も売れるんですかね」
売却は計画していませんでした。当時はM&Aという選択肢自体を知らなかったといいます。きっかけは雑談でした。先輩経営者が、ちょうど上場企業への売却を控えていたのです。
「もう会社売っちゃうんだよね」みたいな話があった時に、僕のこんな会社も売れるんですかねみたいな相談をさせていただいた
その先輩が使ったM&A仲介を紹介してもらい、そこから話が動き出します。
「自分の規模では無理だろう」と思って聞かないことが、機会を潰します。 この一言が4,000万円につながった、という単純な事実は覚えておく価値があります。
本題 ―― 属人性をゼロにする設計
オンラインサロンは、本来もっとも属人性が高い事業のひとつです。主宰者のノウハウと人格が商品だからです。しかし関口さんの設計は違いました。
1つ目、自分を出さない。 名前も顔も一切公開していません。
2つ目、自分が発信しない。
僕が情報発信するというよりは、オンラインサロン内で情報が勝手に回るような仕組みにしたんですよ
その仕組みが具体的です。情報を発信するとポイントが溜まり、そのポイントをAmazonギフト券などと交換できる。会員同士が情報を交換し、活発な人ほど恩恵を受ける構造。さらに規模が大きくなると、自然と役割が生まれます。500人ほどになると、初心者で入ってきた人のサポートをしてくれる人が現れ、そういう人にリーダーのようなポジションを与える。
結果がこれです。
実際に売却して、人が移行期間みたいな形で別の方に変わったんですけど、誰も気づいてなかったです。それはちょっと悲しかったんですけど
コンテンツを自分が作らず、参加者が作る構造にする。 これは、あらゆる事業に応用できる考え方です。売却を前提にするなら、創業者の名前をブランドにしないほうが有利になります(売却前に売り手がやるべき準備、売却後に何が変わるか)。
なお、立ち上げの順序も参考になります。
一番最初は有料のメルマガという形でスタートしました
50人ほど有料会員が集まった時点で、オンラインサロンとして開放。メルマガの段階では本人が情報を集めて配信し、サロンに移行してから会員同士の交換に切り替えています。最初だけ自分でやり、軌道に乗ったら降りるという設計でした。
進み方は驚くほど速い
流れはシンプルでした。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 仲介と面談。事業の持続性、収益、本人以外でも回せるかを確認 |
| 2 | 売上推移などの資料を仲介と一緒に整備 |
| 3 | 仲介が買い手候補を2〜3社提示 |
| 4 | トップ面談 |
| 5 | ほぼ即決 |
全体で3〜4ヶ月。買い手は急成長中のベンチャー企業でした(M&Aにかかる期間、トップ面談で何を確認するか)。第1段階で確認された「本人以外でも回せるか」が、そのまま成立の条件になっています。
小さなM&Aで、誰に頼めばいいのか
この記事でもっとも実務的な部分です。吉岡諒氏(ウィルゲート専務取締役COO)が、手数料の構造を数字で説明していました。仲介会社の最低手数料には水準がある。
ウィルゲートでいくと、最低手数料が1,000万円で、売り手さん、買い手さんから1,000万、1,000万いただくんですね
5,000万円で売却して合計2,000万円が抜けると、40%が手数料になる。これは現実的ではありません。ウィルゲートの場合、1億円で売却して手数料1,000万円というモデルケースが多い。そして業界全体の相場は最低手数料2,000万円で、売り手・買い手から2,000万円ずつの4,000万円。
規模の小さい会社ほど、手数料率は跳ね上がります。 だから相談先を変える必要があります。個人でやっているFAや仲介は固定費が少ないので、最低500万円でもやる人がいる。バトンズやトランビのようなM&Aプラットフォームなら、より手数料が安い。整理すると、こういう目安になります。
| 年間営業利益 | 相談先の目安 |
|---|---|
| 2,000万円超 | M&A仲介会社 |
| それ未満 | 個人のFA・仲介、M&Aプラットフォーム |
関口さん自身も、大手ではなく個人の仲介に依頼しており、仲介手数料もすごく安かったといいます(M&A仲介の手数料はいくらか、最低手数料の考え方、M&Aマッチングサイトの使い方)。
なお、ITビジネスの相場については「年間利益の2〜6倍程度に収まることが多い」という説明でした。関口さんのケースは3倍弱なので、この範囲に収まっています(ITサービスの売却相場)。
売って何が変わったか ―― 「頭のリソース」
入金のタイミングは、海外旅行中だったといいます。「そろそろ振り込まれると思います」と仲介から聞いた直後に飛行機に乗ってしまい、連絡が取れなくなった。
着いた時に銀行口座を確認したら、あんまりまだ見たことない金額が振り込まれていた
ただし、生活は変わっていません。効いたのは別のところでした。独立した最初はうまくいかないことがたくさんあり、試行錯誤の中でキャッシュが尽きると、事業をやらなければならないのにお金の心配をしなければならず、頭のリソースを取られる。
そこのキャッシュの心配をすることなく、ただ事業をどうやって大きくしていけばいいかというところに頭のリソースを割けたのは結構大きかった
売却資金の価値は、金額そのものより「思考を占有されないこと」にある。 次の起業を考えている人には、こちらの効用のほうが大きいかもしれません。
もうひとつ、実利もありました。20代前半で一度売却しているという話をすると、接し方を変えてもらえる、と。
現在は株式会社エルマーケを経営。LINE公式アカウントの運用代行とLPOを手がけ、3期目で役員3名・社員7名の体制です。美容クリニック、中古車販売、不動産、人材といった単価の高いBtoC事業者が顧客だといいます。出口については、長くずっと大きくしていくというより、どこかで一旦出口を持つ方向にはしたい、とのことでした。
この記事のポイント
- 「自分の規模では無理だろう」と決めつけず、聞いてみる。 それが4,000万円につながった
- オンラインサロンのような属人的に見える事業でも、名前と顔を出さない設計にすれば属人性は消せる
- 自分が発信するのではなく、参加者が発信する仕組み(ポイント付与、リーダー役の付与)を作る
- 最初だけ自分でやり、軌道に乗ったら降りる。有料メルマガ→サロン移行という順序が有効
- 買い手が最初に確認するのは「本人以外でも回せるか」。ここが通れば話は速い
- 小規模M&Aは手数料率が跳ね上がる。 利益2,000万円未満なら個人のFAやプラットフォームを検討する
- 業界の最低手数料は売り手・買い手それぞれ2,000万円前後が相場。規模に対して重すぎないか必ず計算する
- 売却資金の効用は金額より、次の事業で「お金の心配に頭を取られない」こと