トップ面談で買い手は社長のどこを見るか

企業概要書を読んで関心を持った買い手と、経営者同士が直接会う場がトップ面談です。
多くの社長が「価格の交渉をするのだろう」と身構えますが、違います。トップ面談は条件を詰める場ではなく、互いの人物と考え方を確認する場です。ここで印象が悪ければ、価格の話に進みません。
買い手が見ているもの
決算書には出てこない部分です。
譲渡理由に嘘がないか
最も注意深く見られます。「後継者がいない」という説明の裏に、実は業績の悪化や、失いかけている大口取引があるのではないか。
買い手は必ず角度を変えて同じことを聞きます。答えがぶれると、そこから信頼が崩れます。理由は正直に、一貫して話してください。
従業員への姿勢
「従業員をどうしてほしいか」という質問への答え方を見ています。
雇用の維持を求めるのは正当ですし、買い手もそれを想定しています。しかし「全員の雇用と処遇を絶対に維持しろ」と条件を固めすぎると、買い手は買収後の経営に不自由を感じて引きます。
譲れない線と、任せる部分を分けて話せる社長は信頼されます。
社長が抜けた後、回るのか
これは価格に直結します。買い手は面談の中で「日常の意思決定を誰がしているか」「主要顧客の窓口は誰か」を探ります。
すべて社長が答えてしまうと、社長依存が強いと判断されます。「営業は専務が見ています」「価格の基準は決めてあるので現場で判断します」と答えられる状態が理想です。
会社の雰囲気
買い手が工場や店舗を見学したいと言えば、受け入れることになります。整理整頓、挨拶、社員の表情。数字で測れない部分ですが、実際に評価されます。
社長が確認すべきこと
面談は一方通行ではありません。むしろ社長にとって、相手を見極められる数少ない機会です。
なぜ自社なのか
買い手の狙いが明確かどうか。「シナジーがある」という抽象的な答えしか返ってこない相手は、買収後の方針も曖昧です。
- どの部分に価値を見ているのか
- 買収後、どう伸ばすつもりか
- 自社の技術・顧客をどう使うのか
従業員をどう扱うつもりか
- 雇用は維持するのか
- 給与・処遇の水準は変えるのか
- 人事制度をいつ統合するのか
- 拠点の統廃合を考えているか
ここを曖昧にする買い手には注意してください。答えられないのではなく、答えたくないのかもしれません。
過去の買収でどうしたか
買収経験がある会社なら、過去に買った会社がその後どうなったかを聞いてください。従業員は残っているか、社名は残っているか、経営陣は残っているか。
これが最も実態を映します。
資金の裏付け
買収資金をどう用意するのか。自己資金か、金融機関からの借入か。借入なら、その調達の目処は立っているか。
資金の裏付けがない買い手と話を進めると、最終段階で止まります。
よく聞かれる質問
準備しておくと、当日落ち着いて話せます。
- なぜ譲渡を考えたのか
- いつから考えていたか
- 会社の強みは何だと考えているか
- 逆に、課題は何か
- 主要取引先との関係はどう作ってきたか
- 社長が抜けたら、何が困るか
- 従業員にはどう伝えるつもりか
- 譲渡後、どのくらい残るつもりか
- 他にも買い手候補と話しているか
最後の質問には、正直に「複数と話しています」と答えて構いません。競争があることが伝わるのは、売り手にとって有利です。ただし社名は言わないでください。
避けたほうがよい受け答え
課題を「特にありません」と答える。どんな会社にも課題はあります。認識していないと思われるほうが不利です。
数字を曖昧に答える。主要取引先の売上比率、利益率、従業員数。即答できないと、経営を把握していないと見られます。
その場で価格の話をする。トップ面談は条件交渉の場ではありません。価格の話が出たら「仲介を通してお話しします」で構いません。
買い手を持ち上げすぎる。売りたい気持ちが前面に出ると、その後の交渉で足元を見られます。
同席者が多すぎる。基本は社長と、必要なら番頭格の役員1名まで。人数が多いと本音の話になりません。
面談は複数社と行う
1社としか会わないのは、交渉上きわめて不利です。
複数の買い手と面談すれば、条件を比較できるだけでなく、「他社も検討している」という事実そのものが価格に効きます。そして相手を見る目も養われます。1社目では気づかなかった論点が、2社目、3社目で見えてきます。
「この1社を逃したらもう買い手はいない」と焦らせてくる仲介会社がいれば、そこも含めて疑ってください(M&A仲介会社の選び方)。
面談の後
面談後、買い手は意向表明書を出してくることがあります。ここから条件交渉に入り、基本合意へ進みます(基本合意書(LOI)で決まること)。
面談の内容は記録しておいてください。誰が何を約束したか。従業員の処遇や社長の残留期間について口頭で交わした話は、後で契約書に落とし込む必要があります。
準備の進め方に不安がある方は、無料相談からお問い合わせください。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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