基本合意書(LOI)で決まること・決まらないこと

基本合意書は、価格と大枠の条件について、いったん合意する書面です。LOI(Letter of Intent)、MOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれます。
多くの条項に法的拘束力はありません。それでも、M&Aのプロセスで最も重要な分岐点です。理由は次のとおりです。
ここが引き返せる最後の場所
基本合意で買い手に独占交渉権を与えます。一定期間、他の買い手候補と交渉できなくなるということです。
これが意味することは2つあります。
1. 競争がなくなる。それまで複数社が検討していたなら、その競争圧力が消えます。価格が上がる方向の力が働かなくなります。
2. 以降、価格は下がる方向にしか動かない。次のデューデリジェンスで問題が見つかれば減額されます。逆に「思ったより良い会社だったので価格を上げます」と言う買い手は、まずいません。
つまり基本合意の価格が、実質的な上限です。ここを軽く扱って後から交渉しようとしても、手遅れになります。
拘束力があるもの・ないもの
| 条項 | 法的拘束力 |
|---|---|
| 譲渡価格 | 原則なし(あくまで目安) |
| 譲渡スキーム | 原則なし |
| スケジュール | 原則なし |
| 従業員の処遇 | 原則なし |
| 独占交渉権 | あり |
| 秘密保持 | あり |
| 費用負担 | あり |
価格に拘束力がないのに、独占交渉権には拘束力がある。この非対称が、売り手にとっての難しさです。
基本合意までに決めておくべき6項目
後から変えるのが困難な項目です。この段階で書面に落としてください。
1. 譲渡価格と、その調整条件
価格そのものだけでなく、どういう場合にいくら減額されるのかを決めておきます。
「デューデリジェンスの結果を踏まえて協議する」という一文だけだと、買い手が自由に減額を主張できます。「発見された偶発債務が◯◯万円を超えた場合に限り協議する」といった枠をはめられるかどうかで、後の交渉が変わります。
2. 社長の引き継ぎ期間と役割(ロックアップ)
価格と同じ熱量で交渉すべき条件です。
- 期間は何年か(半年〜3年が通常)
- 役職と権限は何か
- 報酬はいくらか
- 常勤か非常勤か、週何日か
- 途中で退任できる条件はあるか
「売った後がいちばんきつかった」という後悔の多くは、ここを詰めなかったことから生じます(会社売却で後悔した社長の共通点)。
3. 経営者保証の解除
「解除されること」を条件として明記します。後述しますが、最終契約では前提条件(クロージング条件)にまで格上げしておくべき項目です(経営者保証はM&Aで外れるのか)。
4. 従業員の雇用と処遇
- 雇用を維持する期間
- 給与・処遇の水準を維持する期間
- 拠点の統廃合の予定
拘束力はありませんが、書面に残っているかどうかで、後の議論のしやすさが変わります。そして従業員に説明する際、社長が「約束を取り付けた」と言えるかどうかは大きい。
5. 独占交渉権の期間
無期限にしないでください。通常は2〜3ヶ月程度です。
期間が切れれば他の買い手と話を再開できます。逆に「デューデリジェンスが終わるまで」といった曖昧な定め方だと、いつまでも縛られます。
6. アーンアウトがあるなら、その条件
譲渡後の業績に応じて追加で支払う条件が付く場合、算定方法、判定時期、支払条件を明確にします。
業績を左右する権限は、すでに買い手側にあります。判定指標が買い手の裁量で動くもの(営業利益など、本社費の配賦で操作できる)だと、事実上受け取れません。売上高など操作しにくい指標にできるか交渉してください。
そして原則として、クロージング時に確実に入る金額で判断してください。
費用負担も決めておく
デューデリジェンスの費用は通常、買い手が負担します。ただし破談した場合の費用をどうするかが定められていないと、後で揉めます。
売り手側で発生する専門家費用(弁護士、税理士)は自己負担が原則です。最終契約の段階では自分側の弁護士が必須になるので、その費用も見込んでおいてください。
基本合意を結ばないという選択
すべての案件で基本合意を結ぶわけではありません。複数の買い手を並行して走らせたまま、最終契約まで進める方法もあります。
競争が維持されるため売り手には有利ですが、買い手はデューデリジェンスに数百万円かける以上、独占を求めるのが通常です。規模が大きく、買い手候補が多い案件でなければ現実的ではありません。
進める前に確認すること
基本合意書に署名する前に、次を確認してください。
- 独占交渉権の期間は限定されているか
- 価格の減額条件に枠がはまっているか
- ロックアップの期間と役割が書かれているか
- 経営者保証の解除が条件に入っているか
- 秘密保持の範囲と期間
- 破談した場合の費用負担
そして、この段階で一度、自分側の専門家に見てもらってください。仲介会社は双方の間に立つ立場であり、売り手の代理人ではありません。
基本合意の内容が妥当か判断したい方は、無料相談からお問い合わせください。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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