2026年11月1日業界動向

10月末のM&A動向 ― 儲かる事業だけ切り出して12億円台、ファンドが5年持った会社の2度目の売却、3年で売り戻された34%

2026年10月29日から31日までに、買い手名鑑に載っている会社が出した適時開示から6件を拾いました。営業利益1億5,500万円の開発支援事業に少なくとも12億円台と読める値段がついた例、ファンドが持っていた売上79億円のメーカーが事業会社に売られた例、創業50年の地方の事務機販売店が社長個人から買われた例、取得から約3年で34%を売り手側へ戻した例。開示された数字のまま整理します。

10月末のM&A動向 ― 儲かる事業だけ切り出して12億円台、ファンドが5年持った会社の2度目の売却、3年で売り戻された34%

2026年10月29日から31日までに、買い手名鑑に載っている293社が出した適時開示から、中小企業や事業の売り買いにあたる6件を拾いました。スポーツ協賛のお知らせ2件、売り手側の店舗譲渡の日程変更(海帆)、賃貸不動産を持つ会社の取得完了(エスコン)は除いています。数字はすべて開示資料に基づくものです。

前回(10月後半)の動向では、会社ではなく事業だけが売れている例を取り上げました。今回も同じ流れが続いていて、儲かっている事業だけを残してから売る形が目立ちました。もう1つは、一度売った先から、さらに次の持ち主へ移る例です。

利益の薄い事業を切り離してから、12億円台

10月30日、クロス・マーケティンググループが、Webのフロントエンド開発を支援するちょっと株式会社(東京都中野区)の全株式を取得すると開示しました。

この会社は、フロントエンド開発支援とCMS(Webサイトの管理システム)の2つの事業を持っていました。会社全体の2026年3月期は売上5億2,800万円、営業利益600万円です。ところが、譲渡の前にCMS事業を別会社に切り出し、開発支援事業だけを残した会社を売ります。

会社全体(分割前) 買われる開発支援事業
売上 5億2,800万円 3億9,100万円
営業利益 600万円 1億5,500万円
純資産 2,500万円 約850万円(7月末の試算)

取得価額は株主6名の要請で非開示ですが、「買い手の純資産額の15%以上に相当する額」になる見込みと書かれています。買い手の2026年6月期の連結純資産83億6,600万円で計算すると、約12億5,000万円以上と読めます(連結か単体かは明記されていません)。営業利益の8倍以上です。

会社全体で見れば利益600万円の会社でした。利益を食っていた事業を外すと、残った事業の利益率は約40%になります。値段がつくのはこの数字のほうです。全部を一緒に売るより、分けたほうが高く売れる場面があることを示しています(会社分割で「一部だけ」売る、取得価額が非開示でも金額が読める)。

ファンドが持っていた会社が、事業会社に売られた

10月29日、計測機器商社の東陽テクニカが、放射線測定装置メーカーのアロカ株式会社(東京都武蔵野市)を子会社化すると開示しました。

創業1950年のメーカーで、2025年12月期は売上79億3,600万円、営業利益9億4,800万円。3期続けて増収増益です。株を100%持っていたのは、日本みらいキャピタルが運営する投資ファンドでした。2021年に受け皿の会社を作って買い、約5年後に事業会社へ売る流れです。取得価額は、11月18日の株式譲渡の実行後に開示される予定です。

2024年に、親会社だった特別目的会社と合併した際、純資産は36億円から12億円に減っています。ファンドが買収のために借りたお金を、会社の側に移すときによく見られる形です。

ファンドに売った会社は、そこで終わりではありません。数年後に次の買い手へ移ることが前提です。ファンドへの売却を考えるときは、その先の持ち主まで含めて考えておくと判断しやすくなります(自社を買いそうな会社を探す)。

創業50年の事務機販売店を、社長個人から

10月30日、スターティアホールディングスが、岩手県花巻市の株式会社花巻事務機を子会社化すると開示しました。

2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上 8億9,900万円 8億1,400万円 8億2,100万円
営業利益 5,800万円 3,800万円 6,900万円
純資産 7億2,600万円 7億800万円 7億5,400万円

1973年創業、本社と盛岡支店、6営業所の計8拠点、従業員21名。保守している複合機は約2,600台で、官公庁や自治体の取引先を持っています。株は代表の古川靜子氏が100%持っていました。取得価額は守秘義務により非開示です。

この買い手は、全国の事務機販売店を何年もかけて取り込んできた会社で、開示資料には「顧客を買う」M&Aで引き継いだ顧客が累計約2万7,000社にのぼるとあります。これまでは事業だけを引き取る形が多かったのですが、今回は会社ごと買っています。売上が横ばいでも、保守している台数と地域の取引先がそのまま値段の根拠になる業種です(買い手は何を見ているのか)。

34%を3年持って、売り手側へ戻した

10月30日、テクノロジーズが、2023年に34%を取得した太陽光発電の施工会社エコ革(栃木県佐野市)の株を、エコ革自身に売り戻すと開示しました。

金額
2023年の取得価額(34%) 11億9,000万円
今回の譲渡価額(34%) 13億2,600万円(評価額39億円の34%)

代金は10回の分割で受け取ります。実行は11月1日の予定で、エコ革は連結から外れ、議決権は元のオーナー側の資産管理会社が100%持つ形に戻ります。

この買い手は、100%を買わずに一部だけを取得するのが特徴です。一部だけを売る形は、後から買い戻す道が残ることでもあります。同じ会社では、ゲーム開発の会社が取得から半年で元の社長に戻った例もありました(ロックアップ ― 売った後も会社に残る期間)。

進んでいた案件の続き

  • 10/30 レダックスが、ギフトチェーンのハリカの事業を引き継ぐ新会社について、株式譲渡契約と吸収分割契約を結びました。取得価額は6億7,000万円のまま、実行は2027年1月5日の予定です。金融機関からの借入は旧会社に残す形で、前回までに開示された内容から変わっていません(営業赤字の会社は売れるのか)
  • 10/30 ファーマフーズが、食品の企画開発・販売のマリン・プロフーズの全株式の取得を完了しました。取得価額は50億3,000万円で、売り手は投資ファンドでした

この3日間で見えたこと

会社全体では利益600万円でも、利益の出ている事業だけを残せば12億円台と読める値段がつきました。逆に、ファンドが持つ会社は、数年後にまた次の持ち主へ移ります。

同じ会社でも、何を残して、誰に渡すかで値段も行き先も変わります。自社の中に、切り分けたほうが評価される事業がないかを一度見ておくと、売り方の選択肢が増えます(会社売却の相場)。

出典:各社の適時開示