11月初めのM&A動向 ― 伸びている最中に売った売上17億円のめっき会社、債務超過から2年で51%を売る音楽事務所、製品事業だけを同業へ
2026年11月2日に、買い手名鑑に載っている会社が出した適時開示とプレスリリースから7件を拾いました。3期続けて増収増益のめっき会社を代表者が100%譲った例、同じオーナーが代表を務める縫製工場2社をまとめて譲った例、2年前に債務超過だった音楽事務所が51%だけを売る基本合意、キャラクターグッズやクラウドRPAの事業だけが同業に渡った例。開示された数字のまま整理します。

2026年11月2日に、買い手名鑑に載っている293社が出した適時開示とプレスリリースから、中小企業や事業の売り買いにあたる7件を拾いました。新しい案件が5件、以前に発表された案件の取得完了の報告が2件です。数字はすべて開示資料に基づくものです。
前回(10月末)の動向では、儲かる事業だけを切り出してから売る形を取り上げました。今回目立ったのは、業績が悪くなる前に売る判断と、全部ではなく一部だけを売る形です。
伸びている最中に、代表者が100%を譲った
セイワホールディングスが、岐阜県山県市のめっき加工会社、美山理研工業を子会社化すると発表しました。
| 決算期 | 売上 | 営業利益 | 純資産 |
|---|---|---|---|
| 2024年5月期 | 14億8,500万円 | 9,400万円 | 4億9,100万円 |
| 2025年5月期 | 15億8,800万円 | 1億4,500万円 | 5億7,200万円 |
| 2026年5月期 | 17億1,600万円 | 1億8,900万円 | 7億5,200万円 |
社員83名(業績は監査を受けていない数字と注記されています)。売上も営業利益も3期続けて伸びている最中に、代表者が個人で持つ100%を譲っています。取得価額は「相手先の意向」で非開示です。もともと買い手の子会社とめっき加工の委託取引があり、取引先が買い手になった例でもあります。
同じ日、小松マテーレは、宮城県登米市でスラックスを縫製する及川被服と米山アパレルの2社を、まとめて子会社化すると発表しました。2社合算で売上3億2,700万円、営業利益700万円、純資産2億4,100万円です。こちらは営業利益が年々薄くなっていましたが、総資産の約9割が純資産という、借入の少ない会社でした。2社とも同じオーナーが代表を務めていて、1本の契約で2社を譲っています。
2件は対照的です。美山理研工業は伸びているうちに大きなグループに入り、及川被服・米山アパレルは利益が細る中でも、技術と負債の少なさで買い手が付きました。「売り時」は業績のピークだけではありませんが、伸びている最中のほうが選べる相手は多くなります(会社売却のタイミング)。2件とも価格は非開示です(非開示の金額をどう読むか)。
2年前に債務超過だった会社が、51%だけを売る
THE WHY HOW DO COMPANYは、若手アーティストの発掘・育成を手がける音楽事務所Hanabee(東京都中野区)の株式51%を取得するための基本合意を結びました。
| 決算期 | 売上 | 営業利益 | 純資産 |
|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 4億4,000万円 | △5,300万円 | △3,400万円 |
| 2025年3月期 | 7億7,600万円 | 6,600万円 | 3,300万円 |
| 2026年3月期 | 5億8,500万円 | 3,400万円 | 6,100万円 |
2年前は債務超過で、そこから2期で純資産6,100万円まで戻しています。売るのは代表が持つ80%のうち51%分だけ。代表は29%を持ったまま経営を続け、20%を持つもう一人の株主は譲渡に加わりません。基本合意には、取得後に事業拡大の資金を買い手が支援することを協議する、という項目も入っています。
過半数を渡して上場企業の資金と管理体制を得て、自分は経営者として残るという売り方です。会社を丸ごと手放すか、何もしないか、の二択ではありません(事業承継の4つの選択肢)。一時的に債務超過でも、立て直した実績があれば交渉の席に着けます(債務超過の会社は売れるか)。
ただし、まだ基本合意の段階です。価格も実行日も決まっておらず、対価が買い手の株式になる可能性も示されています。
会社ではなく、事業だけが同業に渡った
プレスリリースで発表された事業譲受が2件ありました。どちらも金額・業績は出ていません。
| 発表日 | 買い手 | 譲り受けた事業 | 売り手 |
|---|---|---|---|
| 11/2 | ディーエムソリューションズ | キャラクターグッズの企画販売、コラボカフェ・POP-UP SHOPの企画運営 | アイライツ(東京都文京区) |
| 11/2 | オープングループの子会社 | クラウドRPA「BizteX cobit」の事業 | BizteX(東京都港区) |
ディーエムソリューションズは、欲しかったものを版権元との取引実績と企画のノウハウだと書いています。設備や在庫より、アニメやゲームの権利者との関係そのものが売り物になったと読めます。オープングループは2024年に同じクラウドRPAのオートロを会社ごと買っていて、今回は競合製品の事業を引き取って顧客をまとめる動きです。
どちらも売り手の会社は残ります。一番価値のある事業だけを、それを一番欲しがる同業に渡し、会社は別の事業で続けるという出口です(株式譲渡と事業譲渡の違い、会社分割で一部だけ売る)。
取得が完了した2件
- ブッキングリゾートが、熊本県阿蘇市の温泉宿を運営するおがさわらの取得を11月2日に完了しました。10月の発表時点で、取得価額1億4,700万円、売上2億400万円・営業利益1,100万円・純資産5,800万円と開示されていた案件です。完了の報告では、代表取締役を含む役員全員が買い手側の人に入れ替わったことが分かります。売ったあとも前のオーナーが経営に残るかどうかは、案件によってまったく違います
- システムソフトが、会社更生手続き中だった婦人服のマツオインターナショナルの子会社化を完了しました。10月31日に裁判所が更生計画を認可しています。売上124億5,000万円、純資産△21億7,200万円の会社で、株式の代金は1,000万円。更生手続きでは既存の株は消却されるため、創業家に株の対価は入りませんが、事業と630名の雇用は残ります
この日の開示から見えたこと
伸びている会社も、利益が細った会社も、債務超過から戻した会社も、それぞれ買い手が付いています。違いは、売る範囲と、売ったあとの自分の立場を選べるかどうかです。
100%を譲って退くのか、51%だけ渡して経営を続けるのか、事業だけを切り出すのか。選べる幅は、業績に余裕があるうちのほうが広くなります。何を誰に渡したいかの整理から始めてください(譲渡側が最初にやるべき準備)。
出典:各社の適時開示