中小M&Aガイドライン(第3版)で何が変わったか ― 売り手が守られる仕組み

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月18日
中小M&Aガイドライン(第3版)で何が変わったか ― 売り手が守られる仕組み

中小M&Aガイドラインは、中小企業庁が定める、M&A支援機関が守るべき行動指針です。法律ではありませんが、M&A支援機関登録制度への登録要件として遵守の宣言が求められるため、実務上の拘束力を持ちます。

2024年8月30日に第3版へ改訂され、売り手にとって重要な変更が入りました。

何が変わったのか

第3版の中心は手数料の透明化です。仲介契約・FA契約を締結する前に、手数料に関する事項を書面で説明することが求められるようになりました。項目数から「17項目の開示」と呼ばれます。

対象になるのは、たとえば次のような内容です。

  • 手数料の算定基準(レーマン方式なら、料率と算定の基礎になる金額の定義)
  • 最低手数料の有無と金額
  • 着手金・中間金・月額報酬・成功報酬それぞれの金額と支払時期
  • 相手方(買い手側)から受け取る手数料の有無と水準
  • 契約期間、中途解約時の取り扱い、専任条項の内容

背景には、不適切な買い手の存在、経営者保証をめぐるトラブル、一部業者による過剰な営業・広告といった問題があり、市場の健全化が目的とされています。

売り手にとって何が変わるか

実務上、大きい変更は2つです。

最低手数料が契約前に分かる

譲渡価格が小さい案件では、成功報酬の料率よりも最低手数料が実質的な費用になります。

譲渡価格3,000万円の案件で、レーマン方式(株価基準5%)なら150万円。しかし最低手数料が2,000万円なら、支払うのは2,000万円です。手残りは1,000万円しか残りません。

この構造が契約前に見えるようになりました。譲渡価格1億円未満が見込まれる案件では、最低手数料が最も重要な比較項目です(最低手数料の罠)。

買い手側の手数料が見える

仲介は売り手と買い手の双方から手数料を受け取ります。ここには構造的な利益相反があります。一度きりの売り手と、繰り返し案件を持ち込む買い手。仲介にとってどちらが重要な顧客かは、仕組みが答えを出しています。

相手方の手数料水準が開示されれば、その仲介会社がどちらを向いているかを判断する材料になります(両手仲介の利益相反問題)。

社長が実際にどう使うか

ガイドラインは、知っているだけでは意味がありません。使い方は具体的です。

1. 17項目の書面を必ず求める

契約前に、書面での説明を求めてください。出てこない、口頭で済ませようとする、質問をはぐらかす。このいずれかがあれば、その時点で候補から外して構いません。ガイドラインからの逸脱であり、他の説明も信用しにくくなります。

2. 同じ物差しで並べる

「成功報酬5%」という数字だけを比べても意味がありません。算定の基礎が譲渡価格なのか、負債を含む移動総資産なのかで、実際の金額は2倍以上変わります(M&A仲介の手数料の仕組み)。

複数社に、自社の想定価格での総額を円で出させてください。想定どおりの場合、下振れした場合、成約しなかった場合の3パターンで比較すると、実際の差が見えます。

3. 登録の有無を確認する

M&A支援機関登録制度のサイトで、登録業者かどうかを検索できます。登録は「最低限の要件を満たしている」という意味であって実力の保証ではありませんが、未登録の業者を選ぶ積極的な理由は通常ありません。

ガイドラインが扱う範囲

手数料以外にも、支援機関に求められる事項が定められています。売り手に関係するものを挙げます。

  • 利益相反の説明。仲介として双方から手数料を受け取る場合、その構造を説明すること
  • 専任条項の適正化。期間の限定、中途解約の余地
  • テール条項の適正化。契約終了後に成約した場合の手数料。期間と対象範囲の明確化
  • 不適切な買い手への対応。譲渡後に従業員の大量解雇や資産の切り売りが行われるケースへの注意喚起
  • 経営者保証の扱い。譲渡に伴う保証解除への対応

この先の動き

中小企業庁は2026年3月に「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」を公表し、同月、「中小M&A資格試験」の実施事業者を選ぶ企画競争公募を開始しました。試験はM&A実務、財務・税務、バリュエーション/デューデリジェンス、法務、行動規範・倫理の5領域で、CBT方式・年3回程度の実施が想定されています。

初回試験は令和8年度(2026年度)以降の実施見込みです。担当者が有資格者かどうかが、今後の業者選びの材料に加わります。

押さえておくこと

  • ガイドラインは第3版(2024年8月30日改訂)
  • 中心は手数料17項目の事前書面説明
  • とくに最低手数料と買い手側手数料の開示が売り手に効く
  • 書面を出さない業者は避ける
  • 複数社の総額を円で並べて比較する

提示された条件が妥当かどうか判断したい方は、無料相談からお問い合わせください。契約前の書面を一緒に確認します。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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