EBITDA倍率で見る自社の相場 ― 業種別の目安

年買法が「自社単体で価格を組み立てる」方法だとすれば、EBITDA倍率は「よそはいくらで取引されているか」から自社を位置づける方法です。マーケットアプローチと呼ばれます。
両方を出して突き合わせると、提示された価格が妥当かどうかを判断しやすくなります。
EBITDAとは何か
EBITDA(イービットディーエー、またはイービットダー)は、次の式で計算します。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
営業利益に、減価償却費を足し戻すだけです。なぜ足し戻すのかが理解の要点になります。
減価償却費は、実際には現金が出ていかない費用です。設備を1億円で買った年に現金は出ていきますが、費用としては数年に分けて計上される。つまり営業利益は、その会社がどれだけ設備投資をしてきたか、どんな償却方法を使っているかによって上下します。
製造業と、設備をほとんど持たないサービス業。この2つを営業利益だけで比べても意味がありません。減価償却費を足し戻せば、「本業でどれだけ現金を稼ぐ力があるか」という同じ物差しに揃います。
倍率をどう当てはめるか
M&Aで使う際は、正確には次の関係で見ます。
事業価値(EV) = EBITDA × 倍率 株式価値 = 事業価値 − 有利子負債 + 現預金
社長が受け取るのは株式価値のほうです。ここを混同すると、期待値が大きくずれます。
計算例
- 営業利益:4,000万円
- 減価償却費:2,000万円
- → EBITDA = 6,000万円
- 倍率5倍とすると、事業価値 = 3億円
- 借入金1億円、現預金6,000万円
- → 株式価値 = 3億円 − 1億円 + 6,000万円 = 2億6,000万円
借入金が多い会社ほど、同じEBITDAでも手取りが減ります。借入を減らしておくことが売却価格に直結するのは、この構造によります。
なお、ここで使うEBITDAも決算書の数字そのままではありません。年買法と同様に、役員報酬の適正超過分や私的経費を戻した「正常化後」の数字を使います(年買法とはの正常化の項を参照)。
業種別の目安
以下は中小企業のM&Aで語られることの多いおおよそのレンジです。案件ごとの幅が非常に大きいため、あくまで出発点として見てください。
| 業種 | EBITDA倍率の目安 | 倍率を左右する要素 |
|---|---|---|
| 建設・工事 | 3〜5倍 | 許認可、経営事項審査の評点、有資格者数、元請け比率 |
| 製造 | 3〜6倍 | 設備の新しさ、技術の独自性、顧客の分散度 |
| 運送・物流 | 3〜5倍 | 車両の状態、ドライバーの確保、荷主の分散 |
| 卸売 | 3〜5倍 | 仕入先との関係、在庫の質、粗利率 |
| 小売・飲食 | 2〜4倍 | 立地、賃貸借契約の残存期間、店舗の収益ばらつき |
| 調剤薬局・医療 | 4〜7倍 | 処方箋枚数、門前の医療機関との関係、薬剤師の確保 |
| IT・システム開発 | 4〜8倍 | 技術者数、受託か自社サービスか、継続収益の比率 |
| 人材・サービス | 4〜7倍 | 顧客の継続率、営業の仕組み化、社長依存度 |
倍率が高くなりやすいのは、人材と継続収益を持つ業種です。逆に設備依存で参入障壁が低い業種は低めに出ます。
ただしレンジの下限と上限では価格が2倍以上違います。自社がレンジのどこにいるかを決めるのは、業種ではなく個社の条件です。
倍率を押し上げるもの・下げるもの
押し上げる
- 売上が特定顧客に依存していない(上位1社で30%未満が目安)
- 社長がいなくても回る組織になっている
- 継続的・反復的な収益がある(保守契約、定期配送、リピート顧客)
- 許認可、免許、有資格者を抱えている
- 直近3期の利益が安定、または右肩上がり
- 買い手候補が複数いて競争が働く
引き下げる
- 上位1社で売上の50%以上を占める
- 受注が社長個人の人脈に紐づいている
- 業界そのものが縮小局面にある
- 簿外債務や係争リスクがある
- 利益の変動が大きい
- 決算書の信頼性が低い(在庫や売掛金の実在性を説明できない)
年買法との使い分け
| 年買法 | EBITDA倍率 | |
|---|---|---|
| 考え方 | 自社の財産+利益を積み上げる | 市場の相場から逆算する |
| 純資産の扱い | 価格に含める | 事業価値には含めない(借入と現預金で調整) |
| 設備投資の重さ | 反映されにくい | 反映される |
| 使いやすい場面 | 資産を持つ会社、交渉の場 | 業種の相場観をつかむ、設備の重い会社 |
実務では、年買法で価格を組み立て、EBITDA倍率で「業種の相場から外れていないか」を検証するという使い方が現実的です。両方の数字が近ければ、提示価格の妥当性は高いと判断できます。
大きく乖離する場合は理由があります。純資産が厚い会社では年買法のほうが高く出ますし、設備投資が重い会社ではEBITDA倍率のほうが高く出ます。その差がどこから来ているのかを説明できる仲介会社かどうかは、選定の判断材料になります。
提示された倍率を検証する
仲介会社から「EBITDAの4倍で3億円です」と言われたら、次を確認してください。
- EBITDAはいくらで、どう正常化したか。役員報酬をどこまで戻したか
- その数字は事業価値か、株式価値か。借入と現預金の調整をしているか
- なぜ4倍なのか。自社のどの条件が、レンジのどこに位置づけられたのか
- 5倍にするには何が必要か。この答えが、そのまま売却前にやるべきことのリストになります
自社のEBITDAと想定倍率を試算したい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば計算できます。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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