ベンダーDD ― 売り手が先に自分でデューデリジェンスをかける

デューデリジェンス(DD)は、買い手が売り手を調べるものです。そこで問題が出ると、価格が下がるか、条件が付くか、破談になります。
それなら、売り手が先に自分で調べておけばいい。この考え方をベンダーDD(売り手DD、セルサイドDD)といいます。
なぜ効くのか
買い手のDDで問題が見つかったときに起きることを考えてみてください。
- 買い手は「他にも何か隠れているのでは」と考える
- 追加の調査を要求され、期間が延びる
- 価格の再交渉になる
- 最悪、撤退される
ここで効いてくるのは、問題そのものより「後から出てきた」という事実です。M&Aが破談になる典型パターンでも書いたとおり、信用が崩れると数字の話に戻れません。
先に自分で調べて開示していれば、同じ問題でも扱いが変わります。「把握していて、こう対処している」と言える状態になるからです。
何を調べるのか
買い手のDDと見る場所は同じです。財務・税務・法務・労務の4つが中心になります。
財務・税務
- 在庫の実在性と評価
- 売掛金の回収可能性
- 役員報酬や交際費の調整(正常収益力の算定)
- 消費税・源泉所得税の処理
中小企業でいちばん出るのは、正常収益力の調整です。社長の役員報酬、社用車、生命保険、交際費。これらを調整すると営業利益がいくらになるかを自分で示せると、価格交渉の土台が作れます。
労務
ここが実務では最大の地雷です。
- 未払残業代
- 社会保険の加入漏れ
- 36協定の有無
- 有給休暇の管理
未払残業代は、簿外債務として価格から直接引かれます。しかも遡及期間が長い。自分で試算しておくだけでも、交渉の構えが変わります。
法務
- 契約書のCOC条項
- 許認可の要件充足(許認可は引き継げるのか)
- 株主名簿と実態の一致(名義株がないか)
- 係争・クレームの有無
事業
- 取引先の集中度
- 社長への依存度
- 主要取引の契約期間
費用と、やるべき会社
正直に書くと、全部を専門家に頼むと数百万円かかります。譲渡価格が1億円に届かない規模で、フルのベンダーDDは費用倒れです。
費用に見合うのは次のような場合です。
1. 譲渡価格が数億円以上になる見込み
減額幅も大きくなるので、先に潰す価値があります。
2. 入札(複数の買い手を競わせる)を予定している
買い手ごとにDDを受けると期間も負担も増えます。ベンダーDDの報告書を用意して全員に配れば、期間が短くなり、条件も揃います。
3. 労務に心当たりがある
残業代の管理が曖昧、社会保険の加入に漏れがある。心当たりがあるなら、金額を知らないまま交渉に入らないでください。
4. 過去に売却が止まった経験がある
同じ理由で止まる可能性があります。
費用をかけずにできること
多くの中小企業にとっては、こちらが現実的です。自分でやる簡易版でも効果は出ます。
| やること | 誰が |
|---|---|
| 決算書3期分と内訳明細の整理 | 自社(売り手の準備) |
| 正常収益力の調整表を作る | 顧問税理士 |
| 未払残業代の概算を出す | 社労士(数万円〜) |
| 契約書のCOC条項の洗い出し | 自社 |
| 株主名簿と実態の照合 | 自社 |
この5つだけでも、買い手のDDで出る指摘の大半は先に潰せます。とくに下の3つは費用がほとんどかかりません。
見つかった問題をどうするか
ベンダーDDの目的は「問題をなくすこと」ではありません。問題を把握して、扱いを決めることです。
- 直せるもの … 売る前に直す(名義株の整理、36協定の締結)
- 直せないが金額が分かるもの … 金額を示して価格に織り込む
- 直せず金額も読めないもの … 表明保証と補償で処理する(最終契約の重要条項)
3番目を曖昧にしたまま進めると、クロージング後に補償請求される可能性が残ります。
まとめ
- 買い手のDDで問題が出ると、問題そのものより「後から出た」ことが効く
- 先に自分で調べて開示すれば、同じ問題でも扱いが変わる
- フルのベンダーDDは数百万円。数億円以上の譲渡や入札で費用に見合う
- 中小企業は簡易版で十分効果が出る。正常収益力の調整表、未払残業代の概算、COC条項の洗い出し、株主名簿の照合
- 目的は問題をなくすことではなく、把握して扱いを決めること
何から手を付けるべきか分からない方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば、先に潰しておくべき論点をお伝えできます。
監修

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役
経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。
YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。
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