ベンダーDD ― 売り手が先に自分でデューデリジェンスをかける

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年9月24日
ベンダーDD ― 売り手が先に自分でデューデリジェンスをかける

デューデリジェンス(DD)は、買い手が売り手を調べるものです。そこで問題が出ると、価格が下がるか、条件が付くか、破談になります。

それなら、売り手が先に自分で調べておけばいい。この考え方をベンダーDD(売り手DD、セルサイドDD)といいます。

なぜ効くのか

買い手のDDで問題が見つかったときに起きることを考えてみてください。

  • 買い手は「他にも何か隠れているのでは」と考える
  • 追加の調査を要求され、期間が延びる
  • 価格の再交渉になる
  • 最悪、撤退される

ここで効いてくるのは、問題そのものより「後から出てきた」という事実です。M&Aが破談になる典型パターンでも書いたとおり、信用が崩れると数字の話に戻れません。

先に自分で調べて開示していれば、同じ問題でも扱いが変わります。「把握していて、こう対処している」と言える状態になるからです。

何を調べるのか

買い手のDDと見る場所は同じです。財務・税務・法務・労務の4つが中心になります。

財務・税務

  • 在庫の実在性と評価
  • 売掛金の回収可能性
  • 役員報酬や交際費の調整(正常収益力の算定)
  • 消費税・源泉所得税の処理

中小企業でいちばん出るのは、正常収益力の調整です。社長の役員報酬、社用車、生命保険、交際費。これらを調整すると営業利益がいくらになるかを自分で示せると、価格交渉の土台が作れます。

労務

ここが実務では最大の地雷です。

  • 未払残業代
  • 社会保険の加入漏れ
  • 36協定の有無
  • 有給休暇の管理

未払残業代は、簿外債務として価格から直接引かれます。しかも遡及期間が長い。自分で試算しておくだけでも、交渉の構えが変わります。

法務

事業

  • 取引先の集中度
  • 社長への依存度
  • 主要取引の契約期間

費用と、やるべき会社

正直に書くと、全部を専門家に頼むと数百万円かかります。譲渡価格が1億円に届かない規模で、フルのベンダーDDは費用倒れです。

費用に見合うのは次のような場合です。

1. 譲渡価格が数億円以上になる見込み

減額幅も大きくなるので、先に潰す価値があります。

2. 入札(複数の買い手を競わせる)を予定している

買い手ごとにDDを受けると期間も負担も増えます。ベンダーDDの報告書を用意して全員に配れば、期間が短くなり、条件も揃います。

3. 労務に心当たりがある

残業代の管理が曖昧、社会保険の加入に漏れがある。心当たりがあるなら、金額を知らないまま交渉に入らないでください。

4. 過去に売却が止まった経験がある

同じ理由で止まる可能性があります。

費用をかけずにできること

多くの中小企業にとっては、こちらが現実的です。自分でやる簡易版でも効果は出ます。

やること 誰が
決算書3期分と内訳明細の整理 自社(売り手の準備)
正常収益力の調整表を作る 顧問税理士
未払残業代の概算を出す 社労士(数万円〜)
契約書のCOC条項の洗い出し 自社
株主名簿と実態の照合 自社

この5つだけでも、買い手のDDで出る指摘の大半は先に潰せます。とくに下の3つは費用がほとんどかかりません。

見つかった問題をどうするか

ベンダーDDの目的は「問題をなくすこと」ではありません。問題を把握して、扱いを決めることです。

  • 直せるもの … 売る前に直す(名義株の整理、36協定の締結)
  • 直せないが金額が分かるもの … 金額を示して価格に織り込む
  • 直せず金額も読めないもの … 表明保証と補償で処理する(最終契約の重要条項)

3番目を曖昧にしたまま進めると、クロージング後に補償請求される可能性が残ります。

まとめ

  • 買い手のDDで問題が出ると、問題そのものより「後から出た」ことが効く
  • 先に自分で調べて開示すれば、同じ問題でも扱いが変わる
  • フルのベンダーDDは数百万円。数億円以上の譲渡や入札で費用に見合う
  • 中小企業は簡易版で十分効果が出る。正常収益力の調整表、未払残業代の概算、COC条項の洗い出し、株主名簿の照合
  • 目的は問題をなくすことではなく、把握して扱いを決めること

何から手を付けるべきか分からない方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分があれば、先に潰しておくべき論点をお伝えできます。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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