株式会社インバウンドテックのM&A実績
コールセンターと営業代行の会社が、本業の周りにある小さな事業を、事業ごと・会社ごと少しずつ買い足してきた買い手です。テレビ電話の通訳サービス、健康診断結果のデータ化、ドコモ向けの販売支援など、売上3,600万〜7,000万円ほどの「事業の一部」だけを譲り受ける案件が目立ちます。2026年には自社より売上の大きい比較サイト運営会社を、現金ではなく自社株で買っています。売り手は個人オーナーではなく、ほとんどが事業会社です。
株式会社インバウンドテックが公表した適時開示6件をもとに整理しています。データ時点:2026年10月12日(新しい開示が出たら追加します)
会社概要
- 本社
- 東京都新宿区
- 設立
- 2015年4月
- 事業内容
- 24時間365日対応の多言語コールセンター運営(マルチリンガルCRM事業)と、訪問・電話による営業代行(セールスアウトソーシング事業)
- 売上高
- 21億3,300万円(2026年3月期(連結・訂正後))
- 営業利益
- △1億5,300万円
- 純資産
- 17億2,000万円
どんな会社を買っているか
- 買う業種
- コールセンター・BPO/通訳サービス/健康診断データの帳票作成代行/携帯キャリア向けの販売支援・店頭調査/IVR・クラウド電話、レンタルサーバー/一括見積・資料請求サイトの運営
- 対象の規模
- 対象の売上 3,600万円〜44.9億円(事業だけの譲受は3,600万〜7,000万円)
- 手法
- 株式譲渡(子会社化)、資産・負債をほぼ引き継がない事業譲受(簡易手続)、自社株を対価にする株式交付
- 赤字でも買うか
- 買っている(実績あり)
- 買収後の扱い
- 買った会社は社名のまま子会社として残しています(シー・ワイ・サポート、OmniGrid)。一方で、OmniGridについては取得後にIVRサービスとBizTAPの事業を売却し、利益の出ている事業だけに絞り込んでいます。事業譲受の案件は本体の事業として引き継いでいます。
- 6件中4件で金額が開示されています。最小はドコモ向け販売支援事業の3,000万円、最大はOmniGrid株式65%分の9億2,950万円です
- 金額を伏せた2件(通訳事業、健診データ化事業)も「連結純資産の1%以下」と書かれており、数千万円以下の小さな取引だと分かります
- 事業譲受では資産・負債をほとんど引き継いでいません(ドコモ向け事業は資産・負債ゼロ)。値段は「直前期の営業利益をもとに将来の収益を見積もって算出」と説明されています
- OmniGridの売り手EPARKは株式会社光通信が91%を持つ会社で、FWの売り手も光通信が63.5%を持っていました。光通信のグループは2025年9月末時点でインバウンドテックの議決権22.22%を間接的に持っており、大きい案件は株主筋から持ち込まれています
買収の履歴6件
すべて同社が公表した適時開示から転記しています。「―」は開示が無いか、 まだ取り込めていない項目です。
株式会社FW(子会社の株式会社ウェブクルーを含む)
「保険」「引越し」「自動車」などの一括見積・資料請求サイト運営(FWはウェブクルーの持株会社)/東京都世田谷区/2021年2月(ウェブクルーは1999年10月)設立
- 取得価額
- 2億3,900万円
- 対象の売上
- 44億9,400万円
- 対象の営業利益
- 2億4,300万円
- 対象の純資産
- 5億5,500万円
決算期:2025年3月期(FW連結)/譲渡前の株主:株式会社光通信(上場企業)63.5%、藤島義琢(ウェブクルー代表取締役)36.5%/普通株式274株の対価として当社株式379,216株を交付(時価238,906千円)。アドバイザリー費用等75百万円を加えた合計は約314百万円。第三者算定機関(プルータス・コンサルティング)のDCF法による1株あたり評価は0円〜3,107,511円と幅があり、その範囲内で決定。無議決権のA種優先株式(払込総額5億円)とB種優先株式は光通信・藤島氏が持ち続けるため、この金額は会社全体の値段ではない
買収理由:IT関連サービス・Webマーケティング分野への参入と、システム開発力を借りたAI部門の強化。在留外国人向けの一括見積サイトなどの新サービス
FW連結で売上44億9,388万円・営業利益2億4,338万円・純資産5億5,494万円。買い手(2026年3月期の売上21億円)より大きな会社を、現金を使わず自社株だけで買っています。FWは2021年にウェブクルーの社長がMBO(経営陣による買収)のために作った会社で、MBOから約5年で上場企業へ売却した形です。売り手は現金ではなく買い手の株式を受け取り、藤島氏には13万8,400株が渡りました。一方で、普通株式の値段は2億3,891万円と純資産を下回りますが、配当が優先される優先株式は売り手側に残っています。「何株を、どの種類で渡すか」で値段の見え方は大きく変わります。
2026年6月9日に株式交付の効力が発生し、FWは完全子会社、ウェブクルーはその子会社になりました。その後の商号変更や合併の開示はありません。
株式会社シップス360のモバイルプロモーション関連事業
NTTドコモ・ドコモCS向けの店頭実態調査、家電量販店への販売スタッフ派遣/東京都渋谷区/譲渡会社は2007年1月設立設立
- 取得価額
- 3,000万円
- 対象の売上
- 7,000万円
- 対象の営業利益
- 620万円
- 対象の純資産
- ―
決算期:2024年12月期(対象事業)/譲渡前の株主:株式会社シップス360(大株主は非開示)/30,000千円(消費税等込)、現金決済。直近期の営業利益の約4.9倍、売上の約0.43倍
買収理由:ドコモ向けストック型案件による安定売上の獲得、派遣・販売運営ノウハウの社内蓄積、他キャリアへの展開
対象事業の売上は4,277万円→4,431万円→7,002万円と伸びる一方、営業利益は962万円→758万円→616万円と減っていました。資産も負債も引き継がず、ドコモとの取引という「契約」だけに3,000万円の値段がついています。大口取引先との継続契約は、それだけで売り物になります。
法人ではなく事業を譲り受けた取引で、インバウンドテック本体の事業として引き継がれています。その後、この事業を譲渡した開示はありません。
ICheck株式会社のヘルスケアBPO事業
医師会・健康保険組合を顧客とする健康診断結果のデータ化(帳票作成代行)/東京都中央区/譲渡会社は2020年12月設立設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 5,890万円
- 対象の営業利益
- △570万円
- 対象の純資産
- ―
決算期:2023年11月期(対象事業)/譲渡前の株主:ICheck株式会社(大株主は非開示)/相手方の意向により非開示。「2024年3月期連結純資産の1%未満」で、直前期の営業利益をもとに将来収益の見積もりを加味して算出。同期の連結純資産26億8,263万円から計算すると約2,700万円未満
買収理由:医師会・健康保険組合との関係強化と、既存の多言語コンタクトセンター事業とのクロスセル
対象事業の売上は7,042万円→5,893万円、営業利益は932万円→営業損失570万円と、直近期に赤字へ転落していました。それでも買い手がついています。譲渡元は検査キットなどを手がける設立3年ほどの会社で、本業から外れた事業を、その分野に近い会社へ渡した例です。引き継いだ資産は59万円だけでした。
法人ではなく事業を譲り受けた取引で、インバウンドテック本体の事業として引き継がれています。その後、この事業を譲渡した開示はありません。
株式会社インデンコンサルティングのスマイルコール事業
テレビ電話を使った通訳サービス(平日9時〜17時)/京都府京都市/譲渡会社は2009年7月設立設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 3,580万円
- 対象の営業利益
- 1,690万円
- 対象の純資産
- ―
決算期:2022年3月期(対象事業)/譲渡前の株主:株式会社インデンコンサルティング(大株主は非開示)/守秘義務契約により非開示。「2022年3月期連結純資産の1%以下」で、直前期の営業利益をもとに将来収益の見積もりを加味して算出
買収理由:多言語コンタクトセンター事業の拡大と、譲受事業の顧客への既存サービスのクロスセル。インバウンド需要の回復を見込む
コロナ禍で訪日客が消え、対象事業の売上は1億1,165万円→6,988万円→3,577万円と3分の1に落ちていました。それでも営業利益率は47%を保っています。売上が落ちている最中でも、利益率が高く回復の見込みがある事業には買い手がつきます。値段は「直前期の営業利益」が基準なので、落ち込んだ年の利益で評価された点は売り手として知っておきたいところです。
法人ではなく事業を譲り受けた取引で、インバウンドテック本体の事業として引き継がれています。その後、この事業を譲渡した開示はありません。
株式会社OmniGrid
電話予約の通話サポート・IVR、クラウド型PBX、レンタルサーバー(デスクウイング事業)/東京都豊島区/2021年9月設立
- 取得価額
- 9億2,950万円
- 対象の売上
- 4億2,380万円
- 対象の営業利益
- 1億2,180万円
- 対象の純資産
- ―
決算期:2021年3月期(2事業の単純合算)/譲渡前の株主:株式会社EPARK(株式会社光通信が91%保有)が100%保有/65%分の株式価額。アドバイザリー費用等15百万円を加えた合計は944.5百万円。第三者算定機関のDCF法による株式価値を精査して決定。100%に換算すると約14億3,000万円で、2事業合算の営業利益の約11.7倍/新設会社のため決算はなく、移管された2事業(OmniGrid事業266百万円、デスクウイング事業157百万円)の2021年3月期の単純合算
買収理由:IVR機能やクラウド電話の取り込みによるインバウンド・コンタクトセンターの強化と、AI自動予約など新技術開発の基盤の獲得
2事業合算で売上4億2,384万円・営業利益1億2,179万円。ただし中身は偏っていて、利益のほぼ全部はレンタルサーバー事業(営業利益1億2,410万円)が稼ぎ、看板のOmniGrid事業は営業損失232万円でした。売り手は35%を持ち続ける合弁の形です。その後、買い手はIVRサービスとBizTAPの事業を売却し、利益の出ている事業に絞っています。
2026年3月期決算短信で連結子会社として記載されています。IVRサービスとBizTAPの事業は売却済みで、BizTAP AIとデスクウイング事業に集中していると説明されています。
出典:インバウンド及びコンタクトセンターの強化を目的とした、株式会社OmniGridの株式取得(子会社化)と株式会社EPARKとの合弁事業開始に関するお知らせ
株式会社シー・ワイ・サポート
コールセンター(電話による事務連絡の取次、市場調査の請負など)。花巻・盛岡に拠点/岩手県花巻市/2005年2月設立
- 取得価額
- 9,320万円
- 対象の売上
- 1億500万円
- 対象の営業利益
- 710万円
- 対象の純資産
- 5,550万円
決算期:2020年3月期/譲渡前の株主:株式会社NEXT(株式会社エフティグループの100%子会社)が100%保有/株式価額93,237千円。アドバイザリー費用等(概算)3,200千円を加えた合計は約96百万円。純資産の約1.7倍、営業利益の約13倍
買収理由:BCP対策としての地方拠点の確保と、オペレーション人材・拠点の増強
売上1億504万円・営業利益714万円・純資産5,549万円。売上は3期続けて減っていました。それでも純資産の1.7倍の値段がついたのは、地方の「人と拠点」そのものに価値があったからです。開示の理由は「BCP対策」と「オペレーション人材と拠点の増強」で、業績より人員と地方拠点を目当てにした買収です。業績が伸び悩んでいても、人が集まっている拠点は売り物になります。
2026年3月期決算短信のセグメント情報で、セールスアウトソーシング事業を運営するグループ会社として社名が記載されています。
この会社に売るといくらか
取得価額が開示された4件の実績です。公表されている数字をそのまま並べたもので、 自社の価格を保証するものではありません。 営業利益率が低い業種では営業利益の倍率が大きく出るので、売上との比もあわせてご覧ください。
- 株式会社FW(子会社の株式会社ウェブクルーを含む)2億3,900万円(売上の0.05倍・営業利益の1.0倍)
- 株式会社シップス360のモバイルプロモーション関連事業3,000万円(売上の0.43倍・営業利益の4.8倍)
- 株式会社OmniGrid9億2,950万円(売上の2.19倍・営業利益の7.6倍)
- 株式会社シー・ワイ・サポート9,320万円(売上の0.89倍・営業利益の13.1倍)
自社だといくらになるかは、売却相場の考え方をご覧ください。
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