アイティメディア株式会社のM&A実績
テクノロジー領域のメディアと、そこに集まる読者・会員のデータを使った「見込み客を集める仕組み」を持つ会社を買っています。2025年の中期戦略で「資金を活用し、M&Aを積極化」と打ち出し、2029年度にEPS 140円超を目標に掲げてからは、半年でリサーチ会社とウェビナー会社を続けて買いました。売り手は創業社長の個人から、リクルートのような上場企業の事業部門まで幅があります。
アイティメディア株式会社が公表した適時開示6件をもとに整理しています。データ時点:2026年10月12日(新しい開示が出たら追加します)
会社概要
- 本社
- 東京都千代田区
- 設立
- 1999年12月
- 事業内容
- IT総合情報ポータル「ITmedia」、「@IT」、「MONOist」、「ねとらぼ」などテクノロジー領域の専門メディアを運営し、会員データを使ったリード提供やデジタルイベントで稼ぐインターネット・メディア企業
- 売上高
- 83億1,100万円(2026年3月期(連結・IFRS))
- 営業利益
- 17億6,500万円
- 純資産
- 86億6,400万円
どんな会社を買っているか
- 買う業種
- IT・テクノロジー分野のWebメディア、会員制メディア/BtoBのリード提供・比較サイト/ウェビナー(オンラインセミナー)の企画・運営支援/テクノロジー分野のリサーチ・コンサルティング
- 対象の規模
- 対象の売上 0.5億円〜10億円
- 手法
- 株式譲渡(子会社化)と事業譲受の両方を使う。メディアだけを事業ごと引き取る形が多く、関連会社として出資してから追加取得で子会社化した例もある
- 赤字でも買うか
- 買っている(実績あり)
- 買収後の扱い
- 株式で買った会社は社名のまま子会社として残すのが基本です(ピイ.ピイ.コミュニケーションズ、マジセミ)。事業で引き取ったメディアは自社の会員基盤に統合します。比較サイト「発注ナビ」を運営していたユーザラスは、のちの開示では「発注ナビ株式会社」として子会社に残っており、社名をサービス名に合わせたとみられます。一方で、子会社化したナレッジオンデマンドは2020年3月期に株式を譲渡しており、手放した例もあります。
- 株式取得の案件は、取得時の開示で金額を伏せても、翌期の決算短信で取得対価が出ます。ピイ.ピイ.コミュニケーションズは「相手先の意向により非開示」でしたが、決算短信に8,330万円と載りました
- 適時開示の基準に当たらない小さな案件でも、任意で開示を出しています。ピイ.ピイ.コミュニケーションズやRPA BANKはいずれも「適時開示基準には該当しないものの」と断ったうえでの開示です
- マジセミの取得価額は当初「最大23億円」と開示され、関連会社の取り込み分を差し引いて20億5,000万円で確定しました。上限を先に示し、クロージングで精算する進め方です
- 2026年1月の補足説明資料では、マジセミを「2015年度 キーマンズネットに比肩する重要なM&A」と位置づけています
買収の履歴6件
すべて同社が公表した適時開示から転記しています。「―」は開示が無いか、 まだ取り込めていない項目です。
マジセミ株式会社
IT企業向けウェビナーの集客・企画・運営支援(サブスクリプション型)、リード提供/東京都港区/2018年1月設立
- 取得価額
- 20億5,000万円
- 対象の売上
- 3億9,100万円
- 対象の営業利益
- 1億2,000万円
- 対象の純資産
- 2億2,600万円
決算期:2024年12月期/譲渡前の株主:寺田 雄一95%、石原 直美5%(個人2名)/当初開示は「最大2,300百万円」。オープンソース活用研究所の株式をマジセミへ移す対価を差し引いて、決算短信で2,050百万円と確定。別にアドバイザリー費用等36.7百万円。マジセミ単体の2024年12月期営業利益120百万円の約17倍、純資産226百万円の約9倍(合併するオープンソース活用研究所の営業利益42百万円を足すと約12.7倍)/マジセミ単体の数値。合併するオープンソース活用研究所(2025年9月期 売上86百万円・営業利益42百万円・純資産107百万円)は含まない
買収理由:ウェビナーを介したリード提供サービスのシェア拡大と、相互の会員へのウェビナー機会の拡充。中期目標(EPS 140円超)の達成
売上3億9,100万円・営業利益1億2,000万円・純資産2億2,600万円。売上は2億3,800万円→2億8,600万円→3億9,100万円と伸びていました。設立8年、従業員43名の会社に20億5,000万円がついています。営業利益の約17倍、純資産の約9倍です。社長はシステム運用を担う別会社も持っていましたが、譲渡の前にマジセミへ合併させ、1社にまとめてから売っています。取引先だった上場企業が買い手になった例でもあります(開示上、もともとセミナー関連の取引関係がありました)。
2026年4月1日に全株式の取得が完了し、決算短信でも「結合後企業の名称 変更ありません」とされています。その後の商号変更や合併の開示はありません。
株式会社ピイ.ピイ.コミュニケーションズ
CES、MWC、SXSWなど海外テクノロジー展示会を起点としたリサーチ、レポート販売、コンサルティング/東京都渋谷区/1990年8月設立
- 取得価額
- 8,330万円
- 対象の売上
- 1億2,200万円
- 対象の営業利益
- △4,800万円
- 対象の純資産
- 8,000万円
決算期:2025年7月期/譲渡前の株主:個人1名(室屋 秀樹)が100%保有/取得時の開示では「相手先の意向により非開示」。2026年3月期決算短信の企業結合注記で取得対価83,300千円と判明。受け入れた現金は83,111千円で、のれんは17百万円。別にアドバイザリー費用等28.5百万円
買収理由:読者向けコンテンツの強化と一部有料化、顧客向けコンサルティングの高度化。リサーチ・アドバイザリー領域への進出の端緒
営業赤字の会社です。売上は2億900万円→1億6,500万円→1億2,200万円と3期続けて減り、営業利益も200万円→△1,900万円→△4,800万円と悪化していました。取得対価8,330万円は、直前期の純資産8,000万円とほぼ同じで、会社が持っていた現金(8,311万円)ともほぼ同額です。業績が下り坂でも、社長とリサーチャーという人材に価値を見いだす買い手はいます。ただし値段は「純資産並み」にとどまっており、利益が出ていないと上乗せ(のれん)はほとんどつかないことも読み取れます。創業35年、社長が株式を100%持つ会社の事業承継の形です。
2025年10月1日に取得し、2026年3月期決算短信で「結合後企業の名称 変更ありません」として連結子会社に加わっています。その後の商号変更や合併の開示はありません。
株式会社RPA BANKの「RPA BANK」事業
AIとRPAの情報提供に特化した会員制メディア(会員約4万人)/東京都港区/譲渡会社は2019年9月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- ―
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:非開示/譲渡前の株主:RPAホールディングス株式会社(上場企業)が100%保有/開示に譲受価額の記載なし。連結業績への影響は「軽微」
買収理由:AI・RPA領域のコンテンツと約4万人の会員を取り込み、リード提供サービスを強化する
会社ではなく、メディア1つを事業ごと買った案件です。欲しかったのはコンテンツと約4万人の会員で、自社の会員基盤(101万人)に統合する前提でした。業績は開示されていません。会員リストやコンテンツのような資産は、会社ごとでなくても切り出して売れる例です。
2021年9月1日に事業譲受予定と開示されています。譲受の完了やその後の運営状況を示す後続開示は確認できていません。
ナレッジオンデマンド株式会社
Web対応のマニュアル制作ソフトウェア「WikiWorks」の開発・販売、マニュアル制作/東京都江東区/2005年8月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 5,100万円
- 対象の営業利益
- △3,200万円
- 対象の純資産
- 1,300万円
決算期:2015年12月期/譲渡前の株主:創業者(宮下 知起)が筆頭株主。出資前47.1%、子会社化時点で31.5%/2015年の第三者割当増資で42百万円、2016年の追加取得(725株)で58百万円。過半数までの段階的な取得で、全株式の価額ではないため取得価額欄は空欄
買収理由:Web対応マニュアル市場の将来性を評価し、資金面・事業面で支援する。子会社化は事業拡大のための追加出資
売上5,100万円、営業損失3,200万円の小さなソフトウェア会社です。いきなり全部を買うのではなく、まず増資を引き受けて関連会社にし、8か月後に追加で株を買って子会社にしています。創業者は株を持ったまま残りました。ただしその後、2020年3月期にアイティメディアは同社の株式を手放しています。段階的な出資は、買い手にとって「やめる」選択肢も残る形だということです。
2026年1月の補足説明資料に「2020年3月期において、ナレッジオンデマンド株式会社の株式譲渡を実行」とあり、非継続事業に分類されています。譲渡先は手元の開示では分かりません。
株式会社ユーザラス
システム開発の発注先を探す法人と開発会社をつなぐ比較サイト「発注ナビ」の運営/東京都港区/2011年9月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- ―
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:非開示/譲渡前の株主:株式会社エムアウト(田口 弘が100%保有する新規事業の創出・育成会社)が100%保有/相手先の意向により非開示
買収理由:キーマンズネット事業譲受に続くリードジェン事業の拡大。ITパッケージ中心だった取扱品目をシステム開発に広げる
事業開始から4年、累計600社の開発会社が使っていた比較サイトです。業績は相手先の意向で非開示でした。売り手は新規事業を立ち上げて育てる会社で、育った事業を上場企業に渡す形の案件です。買収後も代表の浅井英行氏が経営を続け、10年後の2025年の開示でも同じ人物が子会社の代表を務めています。創業時の経営者がそのまま残り、上場企業の中で事業を伸ばし続けられることを示す例です。
推定です。2025年9月の開示に出てくる子会社「発注ナビ株式会社」が、設立日(2011年9月1日)、資本金(55百万円)、代表者(浅井英行)、事業内容とも一致するため、ユーザラスが社名を発注ナビに変えたものとみています。商号変更そのものの開示は手元にありません。
株式会社リクルートホールディングスの「キーマンズネット」事業
法人向けIT製品選定サービス「キーマンズネット」(会員33万人)/東京都中央区
- 取得価額
- 6億500万円
- 対象の売上
- 10億400万円
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:2014年3月期/譲渡前の株主:株式会社リクルートホールディングス(上場企業)/全額手元現金で決済。譲受資産はソフトウェア60百万円で、差額はのれん。対象事業の売上高1,004百万円の約0.6倍/譲受事業の売上高。一部事業の譲受のため、売上高のみの開示
買収理由:会員27万人のTechTargetジャパンと33万人のキーマンズネットを統合運営し、法人向けIT製品選定サービスでNo.1のシェアを得る
売上10億円の事業を6億500万円で買っています。引き継いだ資産はソフトウェア6,000万円だけで、残りは会員基盤とブランドへの対価です。売り手は上場直後のリクルートで、大企業の中で本業から外れた事業が、専業の会社に移る典型的な形です。当時のアイティメディアの年間売上は約31億円で、その3分の1に当たる事業を取り込みました。
2015年4月1日に譲受が完了しています。現在の運営状況を示す後続開示は手元になく、2026年1月の補足説明資料で過去の重要なM&Aとして言及されているのみです。
この会社に売るといくらか
取得価額が開示された3件の実績です。公表されている数字をそのまま並べたもので、 自社の価格を保証するものではありません。 営業利益率が低い業種では営業利益の倍率が大きく出るので、売上との比もあわせてご覧ください。
- マジセミ株式会社20億5,000万円(売上の5.24倍・営業利益の17.1倍)
- 株式会社ピイ.ピイ.コミュニケーションズ8,330万円(売上の0.68倍)※営業赤字での譲渡
- 株式会社リクルートホールディングスの「キーマンズネット」事業6億500万円(売上の0.60倍)
自社だといくらになるかは、売却相場の考え方をご覧ください。
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本ページはアイティメディア株式会社が公表した適時開示をもとに編集部が整理したものです。 同社とは資本関係・提携関係はなく、掲載にあたって金銭のやり取りはありません。 内容に誤りがある場合はお問い合わせよりご連絡ください。最終更新:2026年10月12日