エムスリー株式会社のM&A実績
医療・ヘルスケアの周辺で、事業会社を買い足し続けている会社です。対象は医療データベース、治験支援(SMO)、医療機器の販売、保険外リハビリ、福利厚生サービス、介護ソフトと幅広く、いずれも「m3.com」の医師会員とつなげて伸ばせる事業という点で共通しています。売り手は創業者・経営陣の個人から、NTTドコモや東急不動産のような大企業の子会社切り出しまであります。
エムスリー株式会社が公表した適時開示6件をもとに整理しています。データ時点:2026年10月12日(新しい開示が出たら追加します)
会社概要
- 本社
- 東京都港区
- 設立
- 2000年9月
- 事業内容
- 医師35万人以上が登録する医療従事者専門サイト「m3.com」を運営し、製薬会社向けマーケティング支援、治験支援、医師の転職支援、医療機関・介護施設向けのサービスを展開する会社
- 売上高
- 3,513億6,300万円(2026年3月期(連結・IFRS))
- 営業利益
- 735億4,700万円
- 純資産
- 4,466億4,800万円
どんな会社を買っているか
- 買う業種
- 治験支援(SMO)/医療機器の販売/医療データベース/保険外リハビリ施設の運営/福利厚生・健康支援サービス/介護・福祉向けソフトウェア
- 対象の規模
- 対象の売上 6.4億円〜123.8億円
- 手法
- 株式譲渡(子会社化)が中心。全株ではなく51%〜90.9%だけを買う案件もある。既に子会社の会社の残りの株を株式交換で取得することもある
- 赤字でも買うか
- 買っている(実績あり)
- 買収後の扱い
- 手元の開示で確認できるのは、イーウェルが社名のまま子会社として事業を続けていることです(2026年3月期決算短信に記載)。それ以外の会社のその後は、今回の開示からは追えていません。
- 取得価額を開示することが多い会社です。6件のうち5件で金額が出ています。出ていないのは創業者側の意向で伏せたワイズマンだけでした
- 赤字の会社も買っています。コスモテックは営業損失3億3,100万円の期、ワイズマンは2期続けて営業損失の状態で取得しました
- 全部ではなく一部だけを買う形がよく出てきます。ワイズは75.4%、ノイエスは90.9%、イーウェルは51.0%の取得でした
- 子会社化した後で、残りの株を株式交換で引き取ることもあります。アイチケットでは、経営陣など個人9名が持っていた18.11%を、2020年に簿価純資産方式と類似企業比準方式で算定した1株3,151円をもとにエムスリー株と交換しています
買収の履歴6件
すべて同社が公表した適時開示から転記しています。「―」は開示が無いか、 まだ取り込めていない項目です。
株式会社ワイズマン
介護・福祉事業所、医療施設、地方自治体向けシステムの開発・販売・サポート/岩手県盛岡市/1983年6月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 123億7,700万円
- 対象の営業利益
- △2億2,200万円
- 対象の純資産
- 27億4,400万円
決算期:2025年6月期/譲渡前の株主:代表取締役社長の南舘聡一郎氏が直接または親族とともに間接保有で100%(譲渡時の株主は同氏と、同氏が99.96%を持つ資産管理会社のMMK合同会社)/相手先の意向により非開示。KPMG FASにDCF法で算定を依頼し、取得価額はその評価額の範囲内と開示
買収理由:介護・福祉領域の顧客基盤と知見を取り込み、介護現場のDXと医療介護連携を進める
創業1983年、盛岡の介護・医療ソフト会社で売上123億7,700万円。営業利益は4億5,700万円の黒字から、△3億4,600万円、△2億2,200万円と2期続けて赤字の状態での譲渡です。それでも純資産27億4,400万円を保ったまま、上場企業が100%買っています。株主は社長本人と資産管理会社に分かれていましたが、譲渡前に会社が自己株式を買い取って株主を整理し、最後に2名から全株を渡すという段取りが取られています。
2026年7月1日に株式譲渡を実行する予定と開示されました。実行の完了やその後の商号変更・合併を示す開示は手元にありません。
株式会社イーウェル
福利厚生パッケージ「WELBOX」・カフェテリアプラン、健診事務代行などの健康支援サービス/東京都千代田区/2000年10月設立
- 取得価額
- 102億円
- 対象の売上
- 116億7,000万円
- 対象の営業利益
- 8億8,700万円
- 対象の純資産
- 58億8,500万円
決算期:2024年3月期/譲渡前の株主:東急不動産88.0%、豊田通商システムズ12.0%(いずれも事業会社)/51.0%分の概算額。アドバイザリー費用等(最大60百万円程度)を加えた合計は10,260百万円。100%に引き直すと約200億円の水準
買収理由:病気になる前の段階を対象とする「ホワイト・ジャック・プロジェクト」と、イーウェルの顧客基盤・福利厚生サービスを組み合わせる
売上116億7,000万円・営業利益8億8,700万円・純資産58億8,500万円。51%で102億円、100%に引き直すと純資産の約3.4倍、営業利益の約23倍の値段です。売り手は東急不動産で、全部を手放さず37%を持ち続け、買い手と業務提携も結んでいます。親会社が子会社を「売り切る」のではなく、相手を迎え入れて一緒に伸ばす形の譲渡です。
2026年3月期決算短信に「2025年4月に子会社化した株式会社イーウェル」として社名のまま記載され、福利厚生サービス事業を続けています。
株式会社日本アルトマーク
医療機関・医師・薬剤師のマスターデータ(メディカルデータベース)の提供、医療従事者向けインターネットサービス/東京都港区/1962年3月設立
- 取得価額
- 66億円
- 対象の売上
- 30億3,500万円
- 対象の営業利益
- 4億7,800万円
- 対象の純資産
- 40億4,800万円
決算期:2018年3月期(単体)/譲渡前の株主:株式会社NTTドコモ(事業会社)が100%保有/概算額。アドバイザリー費用等(最大10百万円程度)を加えた合計は6,610百万円。取得価額は実行時に確定する予定と記載/単体の数値。子会社との単純合算では売上3,098百万円・営業利益449百万円・純資産4,109百万円
買収理由:アルトマークのデータ・サービスとm3.comを連携させ、製薬会社向けマーケティング支援を拡充する
1962年設立、約250の医療関連企業や行政機関が使う医療機関・医師のデータベースを持つ会社です。売上30億3,500万円・営業利益4億7,800万円・純資産40億4,800万円に対し、価格は66億円。純資産の約1.6倍、営業利益の約14倍です。売上は38億3,900万円→33億円→30億3,500万円と減っていましたが、業界の共通インフラになっているデータという資産が評価されています。売り手はNTTドコモで、同じ日に買い手と合弁会社の設立も合意しています。
2019年4月1日に株式譲渡を実行する予定と開示されました。その後の存続・合併を確かめられる開示は手元にありません。
株式会社ワイズ
脳梗塞など脳血管疾患の後遺症に特化した保険外リハビリ施設「脳梗塞リハビリセンター」の運営(関東で直営9店舗)/東京都中央区/2014年2月設立
- 取得価額
- 15億2,100万円
- 対象の売上
- 6億3,900万円
- 対象の営業利益
- 400万円
- 対象の純資産
- 3億2,900万円
決算期:2018年3月期/譲渡前の株主:株主構成は経営陣48.6%、ベンチャーキャピタル23.9%、事業会社17.1%等。株式の譲渡元は代表取締役の早見泰弘氏、取締役の中崎祐史氏、早見家の会社の有限会社エストレヤ/75.4%分。アドバイザリー費用等(最大5百万円程度)を加えた合計は1,526百万円。100%に引き直すと約20億円の水準
買収理由:「脳梗塞リハビリセンター」の展開を加速し、m3.comの医師会員への情報提供で認知を広げる
設立4年目、売上6億3,900万円で営業利益はやっと400万円の黒字に届いたところでした。前の2期は営業損失2億100万円、1億7,200万円です。それでも75.4%に15億2,100万円、100%に引き直すと売上の約3倍の値段がついています。利益より、売上が3億900万円→4億2,800万円→6億3,900万円と伸びていることと、保険外リハビリという事業の形が評価された例です。買い手は取得前から5.8%を持ち、子会社を通じて取引もしていました。少額出資や取引から始まった関係が買収につながる流れです。
2018年8月31日に株式譲渡を実行する予定と開示されました。その後の存続・合併を確かめられる開示は手元にありません。
コスモテック株式会社
心臓外科、一般外科、血管内治療を中心とする医療機器(主に欧米製品)の販売/東京都文京区/1992年12月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 58億6,200万円
- 対象の営業利益
- △3億3,100万円
- 対象の純資産
- 16億3,300万円
決算期:2016年8月期/譲渡前の株主:コスモテックホールディングスが100%保有(同社は青山紳一氏が100%保有する持株会社)/上限額。取得価額はクロージングから約2年後の2019年11月頃に確定する仕組みで、開示されたのは最終合意で算出され得る上限。アドバイザリー費用等(最大6百万円程度)を加えた合計は1,006百万円。純資産1,633百万円を下回る
買収理由:医療機器の取引基盤と人材をm3.comのプラットフォームと組み合わせ、医師への情報提供と販売を効率化する
売上58億6,200万円の医療機器商社ですが、直前期は営業損失3億3,100万円の赤字でした。買い手は買収の4か月前から資金を貸し付けており、担保としてコスモテック株に質権を設定していました。価格は上限10億円で、純資産16億3,300万円を下回る水準です。しかも約2年後の業績を見て最終的な金額が決まる仕組みになっています。業績が落ちたところで売る場合、純資産より安くなることや、代金の一部が後払いになることがある例です。
2017年11月1日に株式譲渡を実行する予定と開示されました。その後の存続・合併や最終的な取得価額を確かめられる開示は手元にありません。
ノイエス株式会社
SMO(治験施設支援機関)事業。東京・大阪・福岡を中心に全国約20拠点、提携施設約800/東京都中央区/1996年12月設立
- 取得価額
- 1億8,200万円
- 対象の売上
- 40億4,000万円
- 対象の営業利益
- 500万円
- 対象の純資産
- 6億8,900万円
決算期:2013年10月期(連結)/譲渡前の株主:天本敏昭32.0%、浦江隆次30.9%、LSIメディエンス9.1%、ランダムスクウェア(天本氏が代表の会社)6.1%ほか。譲渡元は天本氏を含む個人12名とランダムスクウェア等/アドバイザリー費用等(最大10百万円程度)を加えた合計は192百万円。取得株式1,406株には子会社メディサイエンスプラニングが持っていた40株を含む
買収理由:グループのSMOと合わせて提携施設と人材を広げ、治験支援を業界トップクラスの規模にする
売上40億4,000万円・純資産6億8,900万円の治験支援会社が、9割の株式を1億8,200万円で譲渡しています。純資産の3割に満たない金額です。営業利益は△2億6,400万円→2,800万円→500万円と、赤字明けから利益がほとんど出ない状態でした。売上規模が大きくても、利益が出ていなければ純資産を大きく下回る値段になることがある例です。株主は大株主2名を含む個人12名と複数の会社に分かれていました。
2015年4月1日に株式譲渡を実行する予定と開示されました。その後の存続・合併を確かめられる開示は手元にありません。
この会社に売るといくらか
取得価額が開示された4件の実績です。公表されている数字をそのまま並べたもので、 自社の価格を保証するものではありません。 営業利益率が低い業種では営業利益の倍率が大きく出るので、売上との比もあわせてご覧ください。
- 株式会社イーウェル102億円(売上の0.87倍・営業利益の11.5倍)
- 株式会社日本アルトマーク66億円(売上の2.17倍・営業利益の13.8倍)
- 株式会社ワイズ15億2,100万円(売上の2.38倍・営業利益の380.3倍)
- ノイエス株式会社1億8,200万円(売上の0.05倍・営業利益の36.4倍)
自社だといくらになるかは、売却相場の考え方をご覧ください。
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