株式会社ワールドのM&A実績
アパレル大手のワールドは、ブランドや工場を持つ会社を、赤字や債務超過のものも含めて引き受けている買い手です。特徴は2つあります。1つは、売り手が大企業のときに「事業承継を目的とした新会社」という形を使い、売りたい事業だけを新会社に入れて、その株式を買うこと。もう1つは、日本政策投資銀行と半分ずつ出資する投資会社W&Dインベストメントデザインを通じて、経営が苦しくなった老舗の再生を引き受けていることです。
株式会社ワールドが公表した適時開示5件をもとに整理しています。データ時点:2026年10月9日(新しい開示が出たら追加します)
会社概要
- 本社
- 兵庫県神戸市中央区
- 設立
- 1959年1月
- 事業内容
- アパレルブランド事業(B2C)、OEM・生産・物流などを他社に提供するプラットフォーム事業(B2B)、投資事業を束ねる事業持株会社
- 売上高
- 2,840億1,400万円(2026年2月期(連結・IFRS))
- 営業利益
- 160億2,800万円
- 純資産
- 962億8,200万円
どんな会社を買っているか
- 買う業種
- アパレル(婦人服・子供服・カジュアル衣料)/婦人靴/国内の縫製工場/コスメ・家具・インテリア雑貨(ライフスタイル)/タオル・ライフスタイル製品/ブランドバッグのシェアリング
- 対象の規模
- 対象の売上 7.9億円〜118億円(阪急スタイルレーベルズは事業の一部の切り出しのため対象事業の売上は非開示)
- 手法
- 株式譲渡が基本。大企業からの切り出しでは「売り手が新会社を設立→会社分割で対象事業を移す→新会社の株式を取得」の形を使う。再生案件はW&D(日本政策投資銀行との合弁)が会社分割と第三者割当増資で引き受ける。工場の土地・建物を株式とは別に買い取ることもある
- 赤字でも買うか
- 買っている(実績あり)
- 買収後の扱い
- 買った会社は社名のまま残すのが基本です。神戸レザークロス、ワールドスタイルレーベルズ(阪急から承継)は2026年10月1日現在のグループ会社一覧に載っています。一方、TSIソーイングはワールドソーイングに社名を変えた後に一覧から消え、その工場はエムシーファッションの拠点として載っています(統合されたと推定)。ラクサス・テクノロジーズのように、買った後に上場させて持分を下げた例もあります。
- 「事業承継を目的とした新会社」という形をよく使います。売り手側が受け皿の新会社をつくり、会社分割で渡したい事業だけを移してから、その新会社の株式を譲渡する方法です。買い手は他の事業や引き継がない債務を背負わずに済み、売り手は残したい事業を手元に置けます。阪急スタイルレーベルズと内野の案件がこの形です
- 上場企業の子会社化はこの一覧に入れていません。子供服のナルミヤ・インターナショナル(2022年にTOB、2025年に株式交換で完全子会社化)と、カジュアル衣料のライトオン(W&DがTOBで過半を取得した後、2026年3月に株式交換で完全子会社化)があります。ライトオンは2024年8月期に営業損失50億円を出していた会社です
- 三菱商事から三菱商事ファッション(売上919億円)を93億2,500万円で買っています。中小企業の相場とかけ離れた規模のため一覧には入れていませんが、価格は同社の純資産152億9,100万円を下回っていました
- 取得価額は掲載5件のうち3件で開示されています。非開示はTSIソーイング(守秘義務による)と、W&D経由の内野の2件です
買収の履歴5件
すべて同社が公表した適時開示から転記しています。「―」は開示が無いか、 まだ取り込めていない項目です。
内野株式会社の事業(承継会社)
タオルなどライフスタイル製品の企画・卸・販売(自社ブランド、百貨店販売、OEM・卸)/東京都中央区/1947年8月(内野株式会社)設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 118億1,800万円
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:2025年8月期(内野株式会社)/非開示。W&Dが承継会社の第三者割当増資を引き受ける形で、引受額は開示されていない/分割会社である内野株式会社の数値(2025年8月期)。総資産は10,500百万円
買収理由:独自素材・技術やブランド、百貨店中心の顧客基盤、OEM・卸の商流を持つ内野の事業を、ワールドグループの事業運営ノウハウと日本政策投資銀行の金融ノウハウで再生する
創業約90年、売上118億1,800万円、従業員612名のタオルメーカーを、会社ごとではなく「事業だけ」引き受ける案件です。仕組みは次の4段階です。①W&D(ワールドと日本政策投資銀行が半分ずつ出資する投資会社)が受け皿の新会社をつくる、②内野が会社分割で、全事業と、引き継ぐと決めた分の銀行借入だけを新会社へ移す、③W&Dが新会社の増資を引き受けて100%子会社にする、④事業を移し終えた旧内野は、残った資産を処分して清算する。地域経済活性化支援機構(REVIC)が再生支援を決定しており、金融機関からの債権買取りも予定されています。構造上、事業・従業員・ブランド・取引先は新会社で続き、引き継がれなかった債務は旧会社の清算の中で整理されます。借入が重く、株式をそのまま買ってくれる相手がいない会社でも、事業は残せる道があることを示しています。
会社分割の効力発生日と第三者割当増資の引受日は2026年12月1日(予定)。その前の2026年11月10日に機構による債権買取決定等が予定されています。
確認元:当社持分法適用関連会社(株式会社W&Dインベストメントデザイン)による内野株式会社の事業承継を目的とした新会社の設立および子会社化に関するお知らせ
出典:当社持分法適用関連会社(株式会社W&Dインベストメントデザイン)による内野株式会社の事業承継を目的とした新会社の設立および子会社化に関するお知らせ
株式会社ワールドスタイルレーベルズ(阪急スタイルレーベルズの2事業を承継した新会社)
コスメセレクトショップ「カラーフィールド」、家具・インテリア雑貨「ダブルデイ」/大阪府大阪市/2025年12月(新会社)。分割会社の阪急スタイルレーベルズは1961年2月設立設立
- 取得価額
- 1億7,500万円
- 対象の売上
- ―
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:対象事業単体の業績は非開示/譲渡前の株主:阪急電鉄株式会社(阪急阪神ホールディングスの100%子会社)が新会社を100%保有/承継会社の普通株式の取得価額(予定)
買収理由:阪急沿線で顧客基盤を築いたライフスタイル事業を取り込み、アパレルからライフスタイル領域へ広げる
売り手は阪急電鉄です。子会社の阪急スタイルレーベルズが営む事業のうち、コスメの「カラーフィールド」と家具・雑貨の「ダブルデイ」だけを切り出しています。手順は、①阪急電鉄が受け皿の新会社をつくる、②阪急スタイルレーベルズが会社分割で2事業を新会社へ移す、③ワールドが新会社の株式を全部買う、の3段階です。会社ごとではなく「渡す事業だけを新会社に入れて、株式で渡す」形なので、買い手は他の事業や過去の負債を引き継がずに済み、売り手は残したい事業を手元に置けます。阪急スタイルレーベルズ全体は売上45億1,600万円で、営業損益は△1億5,000万円→△5,800万円→△1億1,100万円と3期続けて赤字、純資産は7億400万円→4億5,000万円と減っていました。対象2事業の業績は出ていませんが、ワールドは「早期の黒字化」を掲げており、赤字の事業でも新会社の株式に1億7,500万円の値がついています。
株式譲渡実行日は2026年3月1日(予定)と開示。2026年10月1日現在のグループ会社一覧に「(株)ワールドスタイルレーベルズ」(本店は阪急電鉄本社ビル)として載っています。
株式会社TSIソーイング
婦人服の縫製加工/山形県米沢市/1977年4月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 7億8,600万円
- 対象の営業利益
- △5,900万円
- 対象の純資産
- △2億3,600万円
決算期:2024年2月期/譲渡前の株主:株式会社TSI(TSIホールディングスの100%子会社)が100%保有/当事者間の守秘義務により非開示。不動産の取得価額も非開示
買収理由:カントリーリスクや為替リスクの影響を受けない国内生産キャパシティーの強化
純資産マイナス2億3,600万円の債務超過、営業赤字が3期連続(△7,700万円→△1億8,400万円→△5,900万円)。売上も13億9,200万円→7億1,500万円→7億8,600万円とほぼ半減していた縫製工場です。それでもワールドは「為替やカントリーリスクの影響を受けない国内生産」を理由に引き受けています。国内の縫製工場は、赤字でも生産能力そのものに買い手がつくことが読み取れます。また、工場の土地・建物は会社ではなく親会社TSIが持っていたため、株式とは別に不動産を譲渡しています。工場の不動産をオーナー個人や別会社が持っている場合にも参考になる形です。
推定です。2025年3月1日付で「株式会社ワールドソーイング」に社名変更予定と開示されましたが、2026年10月1日現在のグループ会社一覧に同社名はなく、TSIソーイングの本店所在地(米沢市アルカディア)の工場と宮崎県都城市の工場がエムシーファッションの拠点として載っています。エムシーファッションへ統合されたと推定しますが、合併の開示は確認できていません。
ラクサス・テクノロジーズ株式会社
高級ブランドバッグのサブスクリプション型シェアリングサービス/広島県広島市/2006年8月設立
- 取得価額
- 43億1,200万円
- 対象の売上
- 13億7,900万円
- 対象の営業利益
- 500万円
- 対象の純資産
- 8億200万円
決算期:2019年7月期/譲渡前の株主:創業者の児玉昇司45.1%、WiL FUND I, L.P.(ベンチャーキャピタル)29.7%ほか。WiLと会社・ファンド・個人等21名から取得/62.5%分の取得価額(概算)。アドバイザリー費用等約30百万円を加えた合計は約4,342百万円。別途、100億円規模の成長資金の支援を表明
買収理由:シェアード・リユース事業の中核として取り込み、顧客基盤やテクノロジー人材を相互に活用する
ブランドバッグのサブスクを手がける広島のスタートアップです。売上13億7,900万円・営業利益500万円。営業損益は△6億1,400万円→△2億5,200万円→500万円と、3年かけて黒字に届いたところでの譲渡でした。創業者は株式の一部だけを売り、37.5%を持ったまま社長として残っています。売ったのは主にベンチャーキャピタルと少数株主で、「拠点、名称等もそのまま」と開示されています。その後ラクサスは2024年12月に上場しました。一部だけ売って資金力のある親会社を得て、自分は経営に残るという選択が、その後どうなったかまで確認できる例です。
2024年12月の上場に伴う売出しと新株発行で、ワールドの持分は62.5%から44.3%(予定)に下がり、連結子会社から持分法適用関連会社になりました。2026年10月1日現在のグループ会社一覧にも持分法適用会社として載っています。
神戸レザークロス株式会社
婦人靴の小売(「ESPERANZA」など58店舗)、資材卸、OEM、靴型製造/兵庫県神戸市/1948年9月設立
- 取得価額
- 6億1,400万円
- 対象の売上
- 82億2,400万円
- 対象の営業利益
- △4億6,800万円
- 対象の純資産
- 60億2,900万円
決算期:2018年2月期(連結)/譲渡前の株主:社長個人(齋藤 伸介)が96.1%保有/概算。アドバイザリー費用等約30百万円を加えた合計は約644百万円/2018年2月期(連結)。決算期変更後の2018年7月期(5か月)は売上3,329百万円・営業利益4百万円・純資産6,028百万円
買収理由:靴のカスタマイズ事業とプラットフォーム事業の展開、靴ブランドによるポートフォリオ補完、ワールドの構造改革ノウハウによる収益性改善
1948年創業、靴の総合企業です。取得価額6億1,400万円に対し、純資産は60億2,900万円。純資産の約10分の1の値段です。売上は100億2,400万円→82億2,400万円と減り、営業損失も5億4,200万円、4億6,800万円と続いていました。ワールドは「事業構造の抜本的転換を図る必要がある」としつつ、「構造改革に耐え得る事業・財務基盤も有した企業」と評価しています。赤字が続いていると、帳簿上の純資産が厚くても価格はそれに比例しないことを示す例です。社長が96.1%を持つオーナー企業で、残りの少数株主は株式併合で整理したうえで100%を渡しています。買われた後も社名のまま残っています。
2026年10月1日現在のグループ会社一覧に、社名のまま「神戸レザークロス(株)」として載っています。本店所在地はワールド本社ビル(神戸市中央区)に移っています。
この会社に売るといくらか
取得価額が開示された3件の実績です。公表されている数字をそのまま並べたもので、 自社の価格を保証するものではありません。 営業利益率が低い業種では営業利益の倍率が大きく出るので、売上との比もあわせてご覧ください。
- 株式会社ワールドスタイルレーベルズ(阪急スタイルレーベルズの2事業を承継した新会社)1億7,500万円
- ラクサス・テクノロジーズ株式会社43億1,200万円(売上の3.13倍・営業利益の862.4倍)
- 神戸レザークロス株式会社6億1,400万円(売上の0.07倍)※営業赤字での譲渡
自社だといくらになるかは、売却相場の考え方をご覧ください。
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本ページは株式会社ワールドが公表した適時開示をもとに編集部が整理したものです。 同社とは資本関係・提携関係はなく、掲載にあたって金銭のやり取りはありません。 内容に誤りがある場合はお問い合わせよりご連絡ください。最終更新:2026年10月9日