株式会社デジタルハーツホールディングスのM&A実績
ゲームのデバッグとソフトウェアテストの会社で、買っているのは「人」と「専門性」です。テストエンジニア22名の地方の検証会社、SAPの導入支援会社、フリーランスエンジニアの紹介会社、音声収録のクリエイティブ会社などを、個人オーナーから買ってきました。他社の社内にある品質管理部門やデバッグ部門を、事業ごと引き取る案件も続いています。
株式会社デジタルハーツホールディングスが公表した適時開示7件をもとに整理しています。データ時点:2026年10月13日(新しい開示が出たら追加します)
会社概要
- 本社
- 東京都新宿区
- 設立
- 2013年10月(持株会社として設立。事業会社のデジタルハーツは2001年創業)
- 事業内容
- ゲームの不具合を見つけるデバッグを祖業に、翻訳・音声収録などのゲーム開発支援(DHグループ事業)と、企業システムのソフトウェアテスト・SAP導入支援(AGESTグループ事業)を展開する持株会社
- 売上高
- 389億2,800万円(2026年3月期(連結))
- 営業利益
- 26億2,600万円
- 純資産
- 99億6,100万円
どんな会社を買っているか
- 買う業種
- ゲームデバッグ・品質管理/ソフトウェアテスト・第三者検証/SAP導入支援・システム開発/IT人材サービス(フリーランス紹介・派遣)/ゲーム向け音声収録・クリエイティブ制作
- 対象の規模
- 対象の売上 2.5億円〜22.4億円(事業単位の取得を含む)
- 手法
- 株式譲渡(子会社化)が中心。他社の一部門を吸収分割や事業譲渡で引き取る形、株式を段階的に買い増す形(66%→100%、5.1%→33.4%→将来100%)も使う
- 赤字でも買うか
- 黒字の会社のみ
- 買収後の扱い
- 買った会社は社名のまま子会社として残すのが基本です。ただし同業の小さな会社を子会社に買わせて合併させることもあり(システム工房東京)、2024年には一度買ったアイデンティティーを創業者側へ売り戻しています。
- 金額を開示した案件と、しない案件がはっきり分かれます。ネットワーク21(2億3,200万円)やアイデンティティー(16億円)は金額を出し、エイネット・GPC・CEGBは「相手方との協議」「守秘義務」で非開示でした
- 部門ごとの引き取りでは、対価がはっきり出ます。ソーバルの品質評価事業は3億8,000万円、ドリコムの品質管理部門は1億円の現金を払って引き取っています
- 一度に全部買わない形をよく使います。ネットワーク21は66.4%を取得して2年半後に残りを取得、ジーアングルは提携先として5.1%を持ったあと33.4%まで買い増し、2028年までに成果が出れば残りも買う条件を合意しています
- 持株会社の設立は2013年ですが、事業会社デジタルハーツは2001年創業です。海外子会社経由の買収(米LOGIGEAR傘下の案件など)や上場企業との資本業務提携は、この一覧に入れていません
買収の履歴7件
すべて同社が公表した適時開示から転記しています。「―」は開示が無いか、 まだ取り込めていない項目です。
株式会社IMAGICA GEEQのゲームデバッグ事業
コンシューマーゲーム向けのデバッグ(2011年に大阪で開始。東京・大阪・新潟に拠点)/東京都新宿区
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- ―
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:非開示/譲渡前の株主:株式会社IMAGICA GEEQ(事業会社)/非開示。「2027年3月期の連結業績に与える影響は軽微」とのみ記載
買収理由:デバッグ需要の拡大に合わせた受注キャパシティの拡大
業績も金額も出ていない、プレスリリース形式の開示です。読み取れるのは引き継ぐのが500名以上のデバッグ人材と3つの拠点だという点で、在籍5年以上のベテランがいることが強調されています。売り手側は「重点領域のゲーム受託開発に経営資源を集中できる」と説明されています。本業から外れた部門を、その道の専業に人ごと渡すという出口の例です。
株式会社GPC
SAP/ERPの導入支援、オープン系システム開発、受託開発/東京都千代田区/2006年10月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 8億5,600万円
- 対象の営業利益
- 7,400万円
- 対象の純資産
- 1億8,000万円
決算期:2022年7月期/譲渡前の株主:個人1名(青田 貴昭)が100%保有/相手先との守秘義務により非開示。第三者機関のデューデリジェンスを参考に算出
買収理由:SAPの「2027年問題」に向けた導入支援の体制強化
売上8億5,600万円・営業利益7,400万円・純資産1億8,000万円。売上は8億5,200万円→11億9,800万円→8億5,600万円と、前期から大きく減った年での譲渡でした。注目点は、社長の青田氏がこの時点ですでに前年に買われたCEGBの代表取締役を務め、業務委託でも取引していたことです。取引や人の行き来で先に関係ができていた相手に、あとから自分の会社を売るという流れが見えます。
2024年1月1日付のグループ内再編で、株式の保有がAGESTに移されました(予定として開示)。AGESTのスピンオフ上場は2026年3月期決算短信で方針の取り下げが示されています。商号変更や合併の開示は確認できていません。
確認元:当社の完全子会社である株式会社AGESTの株式分配型スピンオフ及び上場を見据えたグループ組織再編(吸収分割及び株式譲渡)及び孫会社の異動に関するお知らせ
ソーバル株式会社の品質評価事業
ソフトウェアの評価・検証、生産前製品の品質評価(ソフトウェアテスト)/東京都品川区/分割会社は1983年1月設立設立
- 取得価額
- 3億8,000万円
- 対象の売上
- 9億2,700万円
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:2022年2月期(承継事業)/譲渡前の株主:ソーバル株式会社(事業会社。エバーコア株式会社44.2%、従業員持株会10.8%ほか)/AGESTがソーバルに380百万円の金銭を交付。承継事業の価値算定結果等を基に協議で決定。承継する資産は流動資産6百万円のみ/承継する品質評価事業の売上高(2022年2月期)
買収理由:130名超のテストエンジニアを迎え、テストの質と量を高める。売り手は開発・AI領域に経営資源を集中
事業の売上9億2,700万円に対して対価3億8,000万円、売上の約0.4倍です。引き継ぐ資産は流動資産600万円だけで、実質は130名を超えるエンジニアとその仕事への対価でした。1人あたりにすると300万円弱です。設備を持たない人の事業でも、まとまったチームと顧客があれば値段がつくことが分かる案件です。
事業はAGESTに承継され、独立した法人にはなっていません。AGESTはグループに残っています(2026年3月期決算短信でスピンオフ上場の方針取り下げ)。
株式会社アイデンティティー
IT人材プラットフォーム(techcareerシリーズ)、フリーランスエンジニアの紹介・人材派遣/東京都新宿区/2008年8月設立
- 取得価額
- 16億円
- 対象の売上
- 12億6,400万円
- 対象の営業利益
- 3,600万円
- 対象の純資産
- ―
決算期:2020年7月期(取得対象の事業)/譲渡前の株主:株式会社8(社長の資産管理会社として新設予定)。譲渡前の株主は今野力67.4%、ベンチャーキャピタル3社26.1%/アドバイザリー費用等15百万円を加えた合計は1,615百万円/取得対象の事業(切り出す採用支援事業を除く)の2020年7月期実績。2021年7月期は売上18億円・営業利益1億円の見込みと開示
買収理由:約11,000人の登録エンジニアを持つ人材プールの取り込み
取得価額16億円。会社全体では営業損失1億2,800万円・純資産5,600万円でしたが、赤字の新規事業を譲渡前に別会社へ切り出し、黒字の事業だけを売っています。残る事業の営業利益3,600万円に対しては約44倍、翌期見込みの1億円に対しても16倍という値段です。さらに3年半後、同じ社長側が20億円で買い戻しています(下の結果欄)。売る範囲を自分で決め、手放した会社を後で取り戻すこともあり得る、という例です。
2024年12月、全株式を20億円で株式会社ユニバーサル(IDの代表取締役 今野力氏が代表を務め、株式会社8が100%保有する新会社)へ譲渡すると開示されました。2024年3月期のIDは売上37億3,500万円・営業利益1億2,600万円・純資産3億6,400万円で、2026年3月期決算短信にも「2024年12月に売却した子会社」の連結除外が記載されています。
株式会社エイネット
ソフトウェアの第三者検証(医療機器の検証に強み)、システム開発・保守/長野県上田市/1989年6月設立
- 取得価額
- ―
- 対象の売上
- 2億5,200万円
- 対象の営業利益
- 2,000万円
- 対象の純資産
- 1億2,400万円
決算期:2017年10月期/譲渡前の株主:宮島健三氏ほか1名(取得の相手先は宮島健三氏)/相手方との協議により非開示。第三者機関のデューデリジェンスを実施し、双方協議で決定
買収理由:医療・ヘルスケア領域のシステムテストへの進出と、テストを率いるスペシャリストの獲得
売上2億5,200万円・営業利益2,000万円・純資産1億2,400万円。売上は3期とも2億5,000万円前後で横ばい、伸びていなくても毎年きちんと利益を出し、純資産を積み上げていた会社です。評価されたのは在籍するテストのスペシャリスト22名と、医療機器検証の実績でした。長野の小さな会社でも、専門性のある技術者がいれば東京の上場企業が買いに来る例です。
2018年8月31日に株式引渡しと開示されています。その後の商号変更や合併の開示は確認できていません。
株式会社システム工房東京
システム開発/東京都台東区/1993年10月設立
- 取得価額
- 1,800万円
- 対象の売上
- 2億9,400万円
- 対象の営業利益
- 900万円
- 対象の純資産
- 6,900万円
決算期:2014年3月期/譲渡前の株主:個人1名(角田 博信)が100%保有/アドバイザリー費用等1百万円を加えた合計は19百万円。利害関係のない会計事務所の算定価格に基づく
買収理由:子会社ネットワーク21の開発体制・顧客基盤の強化
売上2億9,400万円・営業利益900万円・純資産6,900万円に対し、取得価額は1,800万円。純資産の約4分の1です。利益率3%ほどの開発会社で、毎年配当も出していました。利益が薄い会社は、純資産があっても純資産どおりの値段にはなりません。買われた後は約1か月で合併され、法人は残っていません。
2015年3月31日を効力発生日として、ネットワーク21を存続会社とする吸収合併で消滅する予定と、取得と同じ開示で発表されています。
株式会社ネットワーク21(66.4%)
システム開発、企業IT環境の運用・保守/東京都千代田区/1998年12月設立
- 取得価額
- 2億3,200万円
- 対象の売上
- 10億9,100万円
- 対象の営業利益
- 5,000万円
- 対象の純資産
- 1億1,100万円
決算期:2013年9月期/譲渡前の株主:個人1名(角田 博志)が100%保有/66.4%分の価額。アドバイザリー費用等2百万円を加えた合計は234百万円。利害関係のない会計事務所の算定価格に基づく。100%に換算すると約3億5,000万円
買収理由:システム検証の大型案件の受注体制強化と、開発から保守・運用までの一貫体制
売上10億9,100万円・営業利益5,000万円・純資産1億1,100万円。売上は6億6,600万円→7億6,600万円→10億9,100万円、営業利益は1,400万円→1,800万円→5,000万円と伸びている最中の売却でした。66.4%で2億3,200万円は、100%に直すと営業利益の約7倍、純資産の約3倍です。社長は33.6%を持ったまま残り、2年半後の2016年に残りの株も買い取られました。
2016年4月に残る33.6%を角田博志氏から取得し、完全子会社化すると開示されました(当時の代表取締役社長は角田博志氏)。その後の商号変更や合併の開示は確認できていません。
この会社に売るといくらか
取得価額が開示された4件の実績です。公表されている数字をそのまま並べたもので、 自社の価格を保証するものではありません。 営業利益率が低い業種では営業利益の倍率が大きく出るので、売上との比もあわせてご覧ください。
- ソーバル株式会社の品質評価事業3億8,000万円(売上の0.41倍)
- 株式会社アイデンティティー16億円(売上の1.27倍・営業利益の44.4倍)
- 株式会社システム工房東京1,800万円(売上の0.06倍・営業利益の2.0倍)
- 株式会社ネットワーク21(66.4%)2億3,200万円(売上の0.21倍・営業利益の4.6倍)
自社だといくらになるかは、売却相場の考え方をご覧ください。
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本ページは株式会社デジタルハーツホールディングスが公表した適時開示をもとに編集部が整理したものです。 同社とは資本関係・提携関係はなく、掲載にあたって金銭のやり取りはありません。 内容に誤りがある場合はお問い合わせよりご連絡ください。最終更新:2026年10月13日