株式会社ベクトルのM&A実績
「M&Aを含むグループ基盤の強化」を毎回の開示で掲げ、広告運用、SNSマーケティング、転職メディアといったPRの周辺領域の会社を買い足している会社です。売り手は創業社長個人が中心で、設立2〜5年の若い会社も買っています。ほぼ全件で取得価額を開示しているため、この業界でいくらの値段がつくかが読み取れる買い手です。
株式会社ベクトルが公表した適時開示8件をもとに整理しています。データ時点:2026年10月13日(新しい開示が出たら追加します)
会社概要
- 本社
- 東京都港区
- 設立
- 1993年3月
- 事業内容
- 戦略PRを中核に、デジタル広告・SNSマーケティング、タクシー車内のサイネージ広告、採用動画プラットフォーム「JOBTV」などを手がけるマーケティング会社
- 売上高
- 637億9,400万円(2026年2月期(連結))
- 営業利益
- 91億1,600万円
- 純資産
- 271億4,100万円
どんな会社を買っているか
- 買う業種
- SNSマーケティング・インフルエンサー/運用型広告の代行・デジタル広告/転職Webメディア/ネット上の風評対策/人事評価クラウド
- 対象の規模
- 対象の売上 3.3億円〜27.6億円(事業だけを買った案件は売上非開示)
- 手法
- 株式譲渡(子会社化)が中心。66.7%や70.2%など一部だけを買い、創業者に株を残させる形も多い。事業譲受、アーンアウト(業績連動の追加払い)も使う
- 赤字でも買うか
- 買っている(実績あり)
- 買収後の扱い
- 買った会社は社名のまま子会社として残すのが基本です。一方で、グループ内の会社をベクトル本体や中核子会社に吸収合併させる整理(2023年スマートメディア、2024年NewsTVなど)や、子会社を他社へ売る判断(2023年Direct Tech、2026年あしたのチーム)も実際に行っています。
- 取得価額をほぼ毎回開示しています。ここに載せた8件はすべて金額が出ています。開示が無いのは、ベンチャー出資の延長で子会社化したアミー、MasterVisions、ジオベックの3件でした
- アーンアウトや分割払いを使います。Owned株式会社では利益が一定額を超えたら追加払い、ターミナルの事業譲受では3回の分割払いに加えて、基準の営業利益に届かなければ売り手が一部を返金する約束でした
- 高く買った案件の減損も公表しています。2026年2月期にビジコネットとOwnedののれんを減損し、2社合計で減損損失12億2,000万円を計上しました。買った後に業績が計画に届かないと、こうして表に出ます
- PRの周辺なら業種の幅は広めです。広告運用、SNS、転職メディア、風評対策、人事評価クラウドまで買っています
買収の履歴8件
すべて同社が公表した適時開示から転記しています。「―」は開示が無いか、 まだ取り込めていない項目です。
株式会社AILES
インフルエンサー・クリエイター育成のオンラインスクール、会員制コミュニティ、SNS運用代行/東京都新宿区/2018年10月設立
- 取得価額
- 12億5,000万円
- 対象の売上
- 8億5,700万円
- 対象の営業利益
- 1億8,400万円
- 対象の純資産
- 3億2,400万円
決算期:2025年9月期/譲渡前の株主:個人1名(鳴海 翔)が100%保有/アドバイザリー費用等(概算)60百万円を加えた合計は1,310百万円。第三者機関のデューデリジェンスを実施し、売主と協議して決定
買収理由:インフルエンサー・クリエイターの育成ノウハウと人材を取り込み、PR×ショート動画の案件に人材を供給する体制をつくる
売上8億5,700万円・営業利益1億8,400万円・純資産3億2,400万円。取得価額12億5,000万円は、営業利益の約6.8倍、純資産の約3.9倍です。資本金200万円、設立7年の会社で、売上は3億9,500万円→7億2,000万円→8億5,700万円と3期で2倍強に伸びていました。スクールで育てた人材そのものが「取り込みたい資源」として評価された案件です。
2026年4月30日に株式譲渡を実行する予定と開示されています。その後の商号変更や合併の開示は確認できていません。
株式会社gracemode
美容・コスメ領域に特化したSNSマーケティング、PR代行、化粧品の企画販売・EC運営/東京都目黒区/2018年1月設立
- 取得価額
- 14億9,200万円
- 対象の売上
- 8億5,900万円
- 対象の営業利益
- 2億6,500万円
- 対象の純資産
- 4億9,100万円
決算期:2024年12月期/譲渡前の株主:創業者の福家みのり氏が74.4%。ほか個人10名・法人1社/アドバイザリー費用等(概算)2百万円を加えた合計は1,495百万円(開示どおり)。第三者機関のデューデリジェンスを実施し、売主と協議して決定
買収理由:美容コスメ領域のSNSマーケティングのノウハウと、グループのPR・顧客基盤を掛け合わせる
売上8億5,900万円・営業利益2億6,500万円(利益率31%)・純資産4億9,100万円。取得価額14億9,200万円は営業利益の約5.6倍、純資産の約3.0倍です。売上は1億4,400万円→5億200万円→8億5,900万円と急伸中でした。株主が個人11名・法人1社に分かれていても、全員から買い集めて100%取得が成立しています。買収後の決算短信では、グループ業績を牽引した会社として名前が挙がっています。
2026年2月期の決算短信で、期中に新たに連結子会社になった会社として社名が載っており、業績が好調な子会社として言及されています。商号変更や合併の開示は確認できていません。
Owned株式会社(66.7%)
デジタルマーケティング支援(戦略立案から運用まで)/東京都品川区/2020年1月設立
- 取得価額
- 4億8,500万円
- 対象の売上
- 3億3,100万円
- 対象の営業利益
- 400万円
- 対象の純資産
- 1,200万円
決算期:2022年12月期/譲渡前の株主:石井翔55.0%、信谷康邦27.5%ほか(売り手は個人3名・法人1社)/当日の訂正開示で448百万円から485百万円に訂正。アドバイザリー費用等(概算)4百万円を加えた合計は489百万円。これとは別に、Ownedの利益が一定額を超えた場合に追加代金を払うアーンアウトの合意あり
買収理由:デジタルマーケティングのノウハウとグループのPR・顧客基盤を掛け合わせる
設立3年、売上3億3,100万円に対して営業利益は400万円、純資産1,200万円。足元の利益ではなく伸び(売上200万円→8,000万円→3億3,100万円)に値段がついた案件で、66.7%で4億8,500万円でした。その分、利益が一定額を超えたら追加で払うアーンアウトを組み合わせ、買い手がリスクを抑えています。ただし2026年2月期にはのれんの減損が公表されており、伸びに賭けた買収は後から見直されることもある、という一例です。
2026年2月期の決算短信で「当社の連結子会社であるOwned株式会社」としてのれんの減損が記載されており、連結子会社として残っています。商号変更や合併の開示は確認できていません。
ビジコネット株式会社(70.2%)
転職Webメディアの運営、マーケティング支援/東京都港区/2020年2月設立
- 取得価額
- 16億8,500万円
- 対象の売上
- 7億4,200万円
- 対象の営業利益
- 6億700万円
- 対象の純資産
- 4億5,800万円
決算期:2022年8月期/譲渡前の株主:個人1名(藤井 恭)が100%保有/アドバイザリー費用(概算)110百万円を加えた合計は1,795百万円。第三者機関のデューデリジェンスを実施し、売主と協議して決定
買収理由:転職メディアの求職者を採用動画プラットフォーム「JOBTV」へ送客し、その収益を伸ばす
売上7億4,200万円・営業利益6億700万円(利益率82%)・純資産4億5,800万円。70.2%で16億8,500万円なので、100%に直すと約24億円、営業利益の約4倍です。設立2年半の会社で、売上は3,000万円→1億7,000万円→7億4,200万円と急伸していました。社長は約3割を持ったまま残る形です。一方で2026年2月期にはのれんの減損が公表されています。メディアの集客のように変動しやすい利益は、買い手にとって倍率を抑える理由になります。
2026年2月期の決算短信で「当社の連結子会社であるビジコネット株式会社」としてのれんの減損が記載されており、連結子会社として残っています。商号変更や合併の開示は確認できていません。
株式会社キーワードマーケティング
検索連動型広告・SNS広告などの運用代行、検索エンジンマーケティングの研究・教育/東京都中央区/2004年7月設立
- 取得価額
- 11億円
- 対象の売上
- 27億3,200万円
- 対象の営業利益
- 1億3,100万円
- 対象の純資産
- 3億6,900万円
決算期:2022年3月期/譲渡前の株主:創業者の滝井秀典氏が90.0%。ほか個人2名/アドバイザリー費用(概算)80百万円を加えた合計は1,180百万円。第三者機関のデューデリジェンスを実施し、売主と協議して決定
買収理由:認知拡大のためのPRと、顧客獲得のためのデジタル広告運用を組み合わせる
売上27億3,200万円・営業利益1億3,100万円・純資産3億6,900万円。取得価額11億円は営業利益の約8.4倍、純資産の約3.0倍です。利益率は5%弱と高くありませんが、累計300社以上の支援実績と年間継続率90%超という顧客の定着が開示文で強調されています。利益率が低くても、顧客が離れない仕組みがあれば倍率はつくという例です。
2022年12月26日に株式譲渡を実行と開示されています。その後の商号変更や合併の開示は確認できていません。
株式会社ターミナルのデジタル広告事業
Webソリューションを中心としたデジタル広告・コンサルティング/東京都目黒区/譲渡会社は2015年3月設立設立
- 取得価額
- 11億円
- 対象の売上
- ―
- 対象の営業利益
- ―
- 対象の純資産
- ―
決算期:非開示/譲渡前の株主:西川聡、株式会社Awardほか/3回の分割払い。譲渡対象事業の基準営業利益を定め、未達なら契約で定めた金額をターミナルが返金する合意あり。資産を引き継がないため、のれんが11億円発生/事業別の損益計算書が無いため非開示。譲渡会社全体の損益は適時開示の軽微基準に該当
買収理由:戦略PRを起点としたデジタルマーケティングに加え、デジタル広告を起点としたPRも提供できるようにする
資産も負債も引き継がず、事業(顧客と人のノウハウ)だけで11億円の値段がついています。ただし一括ではなく3回に分けて払い、事業の営業利益が基準に届かなければ売り手が一部を返す約束でした。値段を高くする代わりに、売った後の業績に売り手も責任を持つ形です。事業別の数字を作っていなかったため業績は開示されていません。
ベクトル本体が直接譲り受けた事業で、別の法人としては残っていません。2022年9月30日に譲受と開示されていますが、その後の事業の扱いや返金の有無についての開示は確認できていません。
株式会社あしたのチーム(54.1%)
人事評価制度の導入・運用支援、人事評価クラウド/東京都中央区/2008年9月設立
- 取得価額
- 32億2,800万円
- 対象の売上
- 27億6,000万円
- 対象の営業利益
- 2億3,400万円
- 対象の純資産
- 3億8,100万円
決算期:2018年3月期(連結)/譲渡前の株主:創業者の高橋恭介氏44.9%、投資ファンド、リンクアンドモチベーションほか。高橋氏が他の株主から買い集めたうえで一括して譲渡/アドバイザリー費用等(概算)30百万円を加えた合計は3,258百万円。将来の業績の達成度合いに応じて最終確定するため、実際の支払額は増減しうると開示
買収理由:2015年から出資していた先を子会社化し、経営も含めて支援して成長を加速させる
売上27億6,000万円・営業利益2億3,400万円・純資産3億8,100万円。新たに取得した約51%分で32億2,800万円、100%に直すと約63億円で、営業利益の約27倍という高い値段でした。ところが2026年にはウェルネス・コミュニケーションズへ全株を40万円で売却しています。その時点で純資産はマイナス15億8,900万円の債務超過、ベクトルは貸付金のうち4億5,900万円を放棄しました。高い倍率で買われても、その後の業績次第で次の売却額はここまで変わるという実例です。
2026年2月27日実行予定で、ベクトルが保有する全株式(67.6%)をウェルネス・コミュニケーションズに譲渡価額0.4百万円で売却。直前期の連結純資産は△1,589百万円で、ベクトルは貸付金・未収利息509百万円のうち459百万円を放棄しました。2026年2月期の決算短信でも連結除外が記載されています。
株式会社ブランドコントロール(70%)
ネット上の風評被害対策、ブランドリスクの監視・コンサルティング/東京都港区/2013年10月設立
- 取得価額
- 10億5,900万円
- 対象の売上
- 4億7,700万円
- 対象の営業利益
- △70万円
- 対象の純資産
- 990万円
決算期:2016年10月期/譲渡前の株主:創業者の井原正隆氏が80%。売り手は個人5名/アドバイザリー費用等(概算)10百万円を加えた合計は1,069百万円。直近期(2017年10月期)の利益見込み、デューデリジェンスを踏まえた実質的な収益力、シナジーによる追加収益力を総合的に検討して決定
買収理由:SNSや口コミサイトでの風評対策というリスクマネジメント分野を強化する
売上4億7,700万円に対し、直近の確定決算は営業損失70万円、純資産990万円でした。それでも70%で10億5,900万円。開示文には、決算が出る前の期で利益が見込まれていること、デューデリジェンスで確認した実質的な収益力を価格の根拠に挙げています。帳簿上の赤字でも、実態の稼ぐ力を説明できれば値段はつきます。売上は3,500万円→1億9,500万円→4億7,700万円と伸びていました。
2017年12月15日に株式譲渡を実行予定と開示されています。その後の商号変更・合併・再譲渡の開示は確認できていません(グループ会社一覧での確認はしていません)。
この会社に売るといくらか
取得価額が開示された8件の実績です。公表されている数字をそのまま並べたもので、 自社の価格を保証するものではありません。 営業利益率が低い業種では営業利益の倍率が大きく出るので、売上との比もあわせてご覧ください。
- 株式会社AILES12億5,000万円(売上の1.46倍・営業利益の6.8倍)
- 株式会社gracemode14億9,200万円(売上の1.74倍・営業利益の5.6倍)
- Owned株式会社(66.7%)4億8,500万円(売上の1.47倍・営業利益の121.3倍)
- ビジコネット株式会社(70.2%)16億8,500万円(売上の2.27倍・営業利益の2.8倍)
- 株式会社キーワードマーケティング11億円(売上の0.40倍・営業利益の8.4倍)
- 株式会社ターミナルのデジタル広告事業11億円
- 株式会社あしたのチーム(54.1%)32億2,800万円(売上の1.17倍・営業利益の13.8倍)
- 株式会社ブランドコントロール(70%)10億5,900万円(売上の2.22倍)※営業赤字での譲渡
自社だといくらになるかは、売却相場の考え方をご覧ください。
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本ページは株式会社ベクトルが公表した適時開示をもとに編集部が整理したものです。 同社とは資本関係・提携関係はなく、掲載にあたって金銭のやり取りはありません。 内容に誤りがある場合はお問い合わせよりご連絡ください。最終更新:2026年10月13日