【業種別】運送・物流業のM&A売却相場

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月14日
【業種別】運送・物流業のM&A売却相場

運送業のM&Aは、2024年4月にトラックドライバーの時間外労働へ年960時間の上限が適用されて以降、明確に局面が変わりました。

一台あたりの輸送量が減り、ドライバーの確保が難しくなり、運賃転嫁が進まない会社から体力を失っていく。業界の再編が進み、買い手が積極的に動いている時期です。売り手にとっては、条件が付きやすい局面といえます。

相場のレンジ

譲渡価格 = 時価純資産 + 正常営業利益 × 3〜5年分

EBITDA倍率ではおおむね3〜5倍。車両という償却資産を多く持つため、営業利益よりEBITDA(営業利益+減価償却費)で見るほうが実態に近くなります(EBITDA倍率で見る自社の相場)。

許可の引き継ぎ ― 手法選択を決める論点

一般貨物自動車運送事業の許可は、そのままでは譲渡できません。ここが手法選択に直結します。

株式譲渡なら、会社が存続するため許可はそのまま継続します。運送業のM&Aで株式譲渡が選ばれやすい最大の理由です。

事業譲渡の場合は、譲渡譲受の認可申請が必要になります。事前に認可を受ける手続きであり、審査には相応の期間がかかります。スケジュールに織り込んでおかないと、クロージングが後ろにずれます。

いずれにせよ、運行管理者・整備管理者の選任要件、営業所・車庫の要件を満たし続ける必要があります。有資格者が退職すると要件を割るため、買い手はここを注意深く見ます。

価格を押し上げる条件

ドライバーの確保状況

運送業で最も価値が高いのは、いまや車両ではなく人です。

見られるのは次の点です。

  • ドライバーの人数と年齢構成
  • 保有免許の内訳(大型、けん引、危険物)
  • 平均勤続年数と離職率
  • 直近の採用実績(何人応募して何人採れたか)

60代のドライバーだけで回している会社は、買い手から見れば数年後に事業が縮小します。逆に30〜40代が育っている会社は、それだけで評価が上がります。

荷主の構成

上位1社への依存度は必ず見られます。

  • 30%未満:問題視されにくい
  • 50%超:引き下げ要因
  • 70%超:買い手が付きにくくなる

ただし運送業では、元請けとの長期契約や、専用車両を仕立てているような関係は、依存というより参入障壁として評価されることがあります。契約の内容と継続年数を説明できるようにしておいてください。

運賃の水準と、直近の値上げ交渉の実績も見られます。2024年以降、運賃転嫁ができている会社とできていない会社で、利益率に明確な差が出ています。転嫁できている実績は、そのまま評価になります。

営業所・車庫の立地

高速道路のインターに近い、大都市圏に営業所がある、拡張余地のある車庫を持っている。買い手が自前で確保するのが難しい立地は、価格に反映されます。

賃借の場合は、契約の残存期間と更新の可否が確認されます。

許可・資格の幅

  • 一般貨物のほか、特別積合せ、霊柩、産業廃棄物収集運搬などの許可
  • 危険物、大型、けん引などの資格保有者
  • Gマーク(安全性優良事業所)の認定

引き下げる要因

未払残業代。 運送業のデューデリジェンスで最も高い確率で指摘される項目です。改善基準告示に基づく拘束時間の管理、手待ち時間の扱い、歩合給の割増賃金計算。金額が数千万円規模になることもあります。

車両の老朽化。 平均車齢が高く、直近で大量の入替が必要な状態だと、その投資額が価格から引かれます。車両台帳と、年式・走行距離の一覧は必ず求められます。

事故歴・行政処分歴。 車両停止処分や違反点数は、許可の維持に直結します。

白ナンバーでの運送、名義貸し。 法令違反があれば取引そのものが成立しません。

デジタコ・点呼の記録が不備。 労務管理の実態が説明できないと、未払残業代のリスクが大きく見積もられます。

売る前にできること

  1. 労務の適正化(半年〜1年)。拘束時間の管理、歩合給の割増計算の見直し。最優先です
  2. 運賃の転嫁交渉(半年〜1年)。利益率が上がれば、そのまま価格に効きます
  3. ドライバーの採用と定着(1〜3年)。年齢構成の改善は時間がかかりますが、最も評価される
  4. 車両台帳の整備(3ヶ月)。年式、走行距離、整備履歴。資料が整っているだけで交渉が速い
  5. 荷主の分散(2〜3年)。時間はかかるが評価への影響が大きい

いまが局面として悪くない

業界再編が進んでいる時期は、買い手が積極的に動きます。大手・中堅が、車両とドライバーと許可をまとめて確保しようとしている局面です。

ただしこの波は永続しません。そして業績が落ちてから動いても、条件は良くなりません(会社売却のタイミング)。

自社の位置を知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分に加えて、車両台帳とドライバーの構成、荷主別の売上が分かれば、精度の高い見立てをお伝えできます。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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