【業種別】調剤薬局・クリニックのM&A売却相場

監修 長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役公開 2026年8月14日
【業種別】調剤薬局・クリニックのM&A売却相場

調剤薬局のM&Aは、制度改定に強く連動する業種です。2026年度の調剤報酬改定では「立地依存からの脱却」と「対人業務への本格的な転換」が大きなテーマとなり、門前薬局や医療モール型など特定の医療機関に依存した経営モデルへの抑制策が導入されました。

この結果、加算要件を満たせない小規模薬局が大手・中堅チェーンの傘下に入る動きが加速しています。売り手にとっては買い手が多い局面である一方、制度対応ができていない薬局は評価が下がるという二面性があります。

調剤薬局の相場

EBITDA倍率ではおおむね4〜7倍と、他業種より高めのレンジになります。処方箋という安定した需要があり、買い手(大手チェーン)が継続的に存在するためです。

ただし1店舗あたりの規模が小さいため、複数店舗を持つ会社ほど買い手の関心が高く、条件も良くなります。1店舗のみの譲渡では、最低手数料の影響で手残りが薄くなることがあるため、仲介の手数料体系の確認が特に重要です。

価格を分ける5つの要素

1. 処方箋枚数と単価

最も基本的な指標です。月間の処方箋応需枚数と、1枚あたりの技術料・薬剤料。枚数の推移(増えているか減っているか)も見られます。

2. 集中率と、門前依存の度合い

2026年度改定で最も重要になった論点です。

特定の医療機関からの処方箋が売上の大半を占める「門前型」は、制度上の抑制対象になりました。集中率が高い薬局ほど、加算が取れず、減算の対象にもなりやすい構造です。

買い手はここを厳しく見ます。集中率が高い薬局は、改定のたびに収益が揺れるとみなされるためです。

逆に、複数の医療機関から処方箋を受けている面分業型の薬局は、評価が安定します。

3. 地域支援体制加算の取得状況

取得しているかどうかで、収益力が大きく変わります。要件のハードルは上がり続けており、取得できていない薬局は今後も収益が圧迫される見通しです。

取得できている薬局は、それ自体が価格になります。逆に、取得できていない理由が構造的(集中率が高い、24時間対応の体制が組めない等)なら、買い手は改善コストを織り込んで価格を下げます。

4. 薬剤師の確保

薬剤師が退職すると営業できません。管理薬剤師の在籍は開設の要件そのものです。

  • 薬剤師の人数と年齢構成
  • 管理薬剤師の残留意思
  • パート薬剤師への依存度

買い手が最も警戒するのは、譲渡後に薬剤師が辞めることです。最終契約の前提条件として、主要薬剤師の残留が求められることがあります。

5. 立地と賃貸借契約

  • 医療機関との距離
  • 賃貸借契約の残存期間と更新の可否
  • 医療モール内の場合、モール運営者との関係

賃貸借契約が短期で更新の保証がないと、大きな減額要因になります。契約書を先に確認してください。

引き下げる要因

  • 集中率が高く、門前の医療機関の医師が高齢(閉院リスク)
  • 在庫(医薬品)の不動在庫、期限切れ間近の在庫
  • レセプトの返戻・査定が多い
  • 薬歴の記載不備(指導・監査のリスク)
  • 未払残業代
  • 分割調剤や在宅対応の体制がない

とくに門前の医療機関の後継者問題は、薬局の将来を直接左右します。買い手は必ず確認します。

クリニック・医療法人の場合

クリニックは、開設主体によって手法がまったく変わります。

個人開業のクリニックは、法人格がないため株式譲渡ができません。事業譲渡の形を取り、承継する医師が新たに開設許可・保険医療機関の指定を受け直します。患者、スタッフ、内装設備、リース契約を個別に引き継ぐ形です。

医療法人の場合、2007年の医療法改正以降に設立された法人は「持分なし」が原則です。

  • 持分あり医療法人:出資持分の譲渡という形が取れる
  • 持分なし医療法人:持分が存在しないため、理事長・理事の交代と、必要に応じた基金の扱いで実質的な承継を行う

持分の有無で、受け取れる対価も税務上の扱いもまったく違います。自院がどちらかを、まず定款で確認してください。

また医療法人は非営利法人であり、剰余金の配当が禁止されています。一般の事業会社と同じ感覚では設計できません。医療法人のM&Aは、必ず医療分野に詳しい専門家と税理士を入れて進めてください。

売る前にできること

薬局の場合

  1. 加算の取得要件を満たす体制を作る(半年〜1年)。在宅対応、時間外対応、研修体制
  2. 面分業を進める(1〜3年)。集中率を下げる。制度の方向とも一致します
  3. 薬剤師の定着(1〜2年)。採用と処遇の見直し
  4. 賃貸借契約の更新(半年)。残存期間が短いなら、先に更新しておく
  5. 在庫と薬歴の整理(3〜6ヶ月)

制度改定の方向に沿って体制を整えることが、そのまま売却価格を上げる打ち手になります。やっておいて損がない領域です。

自院・自社の位置を知りたい方は、無料相談からお問い合わせください。決算書3期分に加えて、処方箋枚数、集中率、加算の取得状況が分かれば、より精度の高い見立てをお伝えできます。

監修

長谷川 桂介

長谷川 桂介ファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役

経営者。1,800社の財務コンサル実績があるファミリーコンサルティング株式会社 代表取締役。これまで4社を経営。経営者として投資や節税、資金調達、事業売却(M&A)など法人の財務に関する実務を経験してきた企業財政のエキスパート。

YouTube「社長の資産防衛チャンネル」(登録者25万人)と「社長のM&Aチャンネル」を運営。M&Aチャンネルでは、実際に会社を譲渡したオーナー経営者へのインタビューを継続して行っている。

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